見出し画像

【クノーの『文体練習』へのオマージュ】世界を面白がる視点を増やす探究テーマ:『映えを求めた末の、冷めたラテの悲劇』


■テキスト

「文体練習」レーモン・クノー(著)朝比奈弘治(翻訳)


■参考図書

「ストーナー」ジョン・ウィリアムズ(著)東江 一紀(翻訳)

「チェヴェングール」アンドレイ・プラトーノフ(著)工藤順/石井優貴(翻訳)古川哲(解説)

「息吹」(ハヤカワ文庫SF)テッド・チャン(著)大森望(翻訳)


■参照図書

「環境が芸術になるとき 肌理の芸術論」髙橋憲人(著)


■探究テーマ:『映えを求めた末の、冷めたラテの悲劇』

(内容:カフェで完璧な写真を撮ろうと格闘しているうちに、泡は消え、コーヒーは冷めきってしまったという些細な出来事)

それでは、古今東西、狂気の99変奏曲を開演します。


■99通りの文体練習

【第一群:古典・文語の雅び】

NO. 01 万葉集風:泡消えて 冷めゆく酒(コーヒー)を 惜しみつつ 吾は写せり 影(写真)のみを
NO. 02 源氏物語風:いと尊げなる泡の浮きたるを、えならぬ影に写さんとて、時を移したまふほどに、いとわびしく冷えにけり。
NO. 03 枕草子風:ラテは、泡の白き。いみじう美しきを撮らんとて、冷めたるは、いと口惜し。
NO. 04 平家物語風:祇園精舎の鐘の声、カフェラテの泡の響きあり。写らんとする者、久しからず。ただ春の夜の夢の如し。
NO. 05 方丈記風:ゆくラテの泡は絶えずして、しかももとの温度にあらず。
NO. 06 奥の細道風:ラテ凍てて スマホに写る 無常かな
NO. 07 徒然草風:つれづれなるままに、スマホを構へて、ラテの泡を写し暮らるれば、心もとなく冷えゆく。
NO. 08 説経節風:これなるラテを写さんとする、その身の哀れを語るも涙。
NO. 09 漢文訓読体:人、美光を求めて、ラテを撮る。未だ成らざるに、熱、既に去る。
NO. 10 江戸戯作風:おやおや、このお大尽、絵草紙(SNS)に夢中で、飲み口(ラテ)がへそを曲げちまった。


【第二群:近代文学・文豪の独白】

NO. 11 夏目漱石風:吾輩はラテである。名前はまだ温かいうちに呼ばれたかった。
NO. 12 太宰治風:恥の多い撮影をしてきました。冷めたラテを前に、私はただ、お道化(ピント合わせ)を繰り返すのです。
NO. 13 芥川龍之介風:或る日の事、私はカプチーノの泡に、一本の蜘蛛の糸(湯気)を見た気がした。
NO. 14 三島由紀夫風:そのラテの泡の崩壊は、至高の肉体が滅びゆくかのような、残酷な美しさを湛えていた。
NO. 15 中島敦風:己の自尊心という名のスマホが、ラテを虎(冷めた液体)に変えてしまったのだ。
NO. 16 宮沢賢治風:サア、ラテの写真を撮ってごらん。泡は銀河のしぶきのように、静かに消えていくよ。
NO. 17 梶井基次郎風:見窄らしいカフェのテーブルに、私は爆弾(冷めたラテ)を置いて逃げ出したくなった。
NO. 18 谷崎潤一郎風:陰翳の中に浮かぶ泡の美しさ。冷めることを厭うては、この陰翳礼讃は成立せぬ。
NO. 19 川端康成風:国境の長いトンネルを抜けると、そこは冷めたラテの待つテーブルだった。
NO. 20 坂口安吾風:堕落せよ。ラテが冷めるまで撮り続け、ただ虚しく飲み干すがよい。


【第三群:海外文学・翻訳の調べ】

NO. 21 シェイクスピア風:撮るべきか、飲むべきか。それが問題だ。
NO. 22 ヘミングウェイ風:ラテは冷めていた。泡は消えていた。男はシャッターを切った。それは良い写真だった。
NO. 23 プルースト風:その冷めきったラテの匂いを嗅いだ瞬間、私はコンブレイでの日々を鮮明に思い出した。
NO. 24 カフカ風:ある朝、目覚めると、私は冷めたラテの泡になっていた。
NO. 25 ドストエフスキー風:ああ、このラテの冷たさは、全人類の罪を背負っているかのようだ!
NO. 26 サルトル風:ラテが冷める。それは私の実存が、写真という本質に敗北した瞬間である。
NO. 27 レイモンド・チャンドラー風:冷めたラテは、死んだ女のキスの味がした。
NO. 28 星の王子さま風:大切なものは、写真には写らないんだよ。ラテの温度のことだよ。
NO. 29 シャーロック・ホームズ風:ワトソン君、この水滴の位置を見たまえ。彼は撮影に12分4秒費やした。
NO. 30 ハードボイルド翻訳調:やれやれ。
ラテは冷め、俺の忍耐も底をついた。


【第四群:現代・インターネット・SNS】

NO. 31 X (旧Twitter)風:ラテアート可愛すぎて15分格闘してたら、普通に氷風呂みたいな温度になってて草。詰んだ。
NO. 32 Instagram風:今日のカフェタイム☕✨ 泡が最高にフォトジェニック(※この後冷え切って美味しくいただきましたw)
NO. 33 2ch(5ch)風:【悲報】ワイ、ラテの撮影に夢中で冷めたコーヒーを飲むハメに
NO. 34 Clickbait (釣出し)風:【衝撃】ラテを撮り続けた男の末路がヤバすぎる!泡が消えた瞬間の真実とは?
NO. 35 おじさん構文:ヤッホー❗😊今日はカフェ☕に来てるヨ🎵ラテが冷めちゃったけど💦、〇〇ちゃんと一緒に飲みたいなァ〜(笑)
NO. 36 ChatGPT風:ラテの撮影に時間をかけすぎると、熱力学第二法則に基づき、飲料の温度は室温に収束します。
NO. 37 メルカリ出品風:【ジャンク品】冷めたラテ(撮影用)。泡は少なめですが、見た目は綺麗です。即購入OK。
NO. 38 意識高い系風:ラテの温度を犠牲にしてでも、視覚的アウトプットにコミットする。これが僕のクリエイティビティ。
NO. 39 限界大学生風:ラテ冷めてもた。もう無理。単位落とした時と同じ味がする。
NO. 40 Slack風:【共有】ラテの撮影完了しました。温度はロストしましたが、画質は担保できています。


【第五群:専門用語・科学・ビジネス】

NO. 41 物理学的:熱伝導と蒸発潜熱により、液体のエントロピーが増大し、撮影完了時には平衡状態に達した。
NO. 42 数学的:$t \to \infty$ において、温度 $T$ は周辺温度 $T_0$ に漸近し、泡の体積 $V$ は $0$ に収束する。
NO. 43 法学的:撮影行為とラテの冷却の間に因果関係が認められ、実行者は風味を享受する権利を放棄したとみなす。
NO. 44 経済学的:インスタ映えという無形資産への投資が、飲料の効用という実物資産を上回った事例。NO. 45 医療報告的:症例:カフェラテ。主訴:低温化。所見:フォーム層の消失、および液温の低下を確認。
NO. 46 軍事・タクティカル風:ターゲット(ラテ)の捕捉に成功。しかし交戦(撮影)が長引き、熱エネルギーを全喪失。
NO. 47 プログラミング(Python)風:while taking_photo: latte.temp -= 1; if latte.temp < room_temp: break
NO. 48 建築学的:泡という一時的な構造体は、撮影時間の延長に伴う応力の不均衡により崩落した。
NO. 49 哲学(現象学)風:ラテの「冷めた」という事実は、私の意識が「映え」という志向性に没頭した結果の所産である。NO. 50 マニュアル風:【トラブルシューティング】ラテが冷めた場合は、撮影を中止し、速やかに再加熱してください。


【第六群:感情・オノマトペ・感覚】

NO. 51 感動詞のみ:あぁっ!おっ、おぉ……。うわぁ。あーあ。NO. 52 オノマトペ:カシャッ、カシャッ、カシャカシャ!……シーン。ズズーッ(ぬるっ)。
NO. 53 視覚障害者への説明風:目の前のカップからはもう湯気は立たず、表面は平らに静まり返っています。
NO. 54 怒り:なんでだよ!こんなに綺麗に撮れたのに、なんで一口目が冷たいんだよ!
NO. 55 悲しみ:さようなら、温かかったラテ。君の温もりは、SDカードの中にしか残っていないんだね。
NO. 56 恐怖:気づいた時には、もう手遅れだった。カップの縁に触れた指先が、死者のような冷たさを感じた。
NO. 57 恍惚:ああ、この冷めゆくプロセスこそが、写真という芸術に捧げられた尊い生贄なのです。
NO. 58 驚き:えっ、今淹れたばっかりだよね?嘘でしょ、この温度!?
NO. 59 疑念:本当にこれはさっき注文したラテなのだろうか?ただの泥水ではないか?
NO. 60 楽観的:冷めた?いやいや、これは「アイスラテ・プロトタイプ」って呼ぶことにしよう!


【第七群:修辞学的・実験的】

NO. 61 二重否定:冷めていないとは言えない状態にならなかったわけではない。
NO. 62 倒置法:冷めきっていた。完璧な一枚を撮り終えた、そのラテは。
NO. 63 反復法:撮って、撮って、撮りまくって、冷めた。冷めてしまったのだ。NO. 64 擬人化:ラテは待ちくたびれて、自らその熱情を捨て去り、冷ややかな態度をとることに決めた。
NO. 65 隠喩:それは液体になった冬の午後だった。NO. 66 換喩:シャッター音が、湯気を殺した。
NO. 67 リポグラム(「あ」抜き):レンズ向け、時を過ごす。温もり消え、苦い汁残る。
NO. 68 多音字(ひらがなのみ):らてをる、あわきえて、つめたきおもい。
NO. 69 感嘆句的:なんという冷たさ!なんという泡の消滅!なんという無駄な時間!
NO. 70 尋問風:お前はいつ、カメラを置いた?答えるんだ!その時ラテはまだ温かかったのか!?


【第八群:サブカル・エンタメ】

NO. 71 少年漫画風:くそっ!撮影に全霊(フルパワー)を使いすぎた!ラテの熱(コスモ)が消えていく……!
NO. 72 少女漫画風:ドキドキして撮ってたのに……ラテさん、なんでそんなに冷たくするの……?
NO. 73 RPG風:ラテは「ひょうけつ」の呪文を唱えられた!MPが足りなくて飲めない!
NO. 74 深夜アニメのタイトル風:『俺のラテが写真に夢中で冷めるわけがない。』
NO. 75 実況プレイ風:さあここでシャッターチャンスだ!ああーっと、粘りすぎだ!ラテが冷え切った!NO. 76 ラップ風:Yo, 構えるスマホ、ピントは最高、だけどラテの温度は最低、これぞ現代のマイ・レジスタンス。
NO. 77 デスゲーム風:ルールは簡単だ。ラテが冷める前に、1000いいねを獲得しろ。さもなくば……。
NO. 78 特撮ヒーロー風:変身(フィルター加工)!……だが、戦いの後には冷めきった日常が待っている。
NO. 79 魔法少女風:ラテ・ティピカ・ピピルマ!温かくなーれ!……ダメ、魔法が解けちゃった。
NO. 80 怪談風:ふと気づくと、カップの底から冷たい視線を感じるのです。「なぜ飲まぬ」と……。


【第九群:職業・役割】

NO. 81 タクシー運転手風:お客さん、写真撮るのはいいけど、冷めちゃうよ?一気にいっちゃいましょう。
NO. 82 幼稚園の先生風:はーい、ラテさんが「さむいよー」って泣いてますよ。みんなで飲みましょうね。
NO. 83 ホスト風:お姫、そんなに写真ばかり見てないで、俺と冷めたラテの苦味を分かち合おうぜ。
NO. 84 居酒屋の店員風:ラテ冷めちゃった?あ、温め直しはやってないんすよ、サーセン!
NO. 85 ソムリエ風:このラテは、20分という熟成を経て、室温という新たなテロワールを表現しています。
NO. 86 予備校講師風:ここ、テストに出るぞ!「映え」と「温度」は反比例の関係にある!いいな?
NO. 87 占い師風:あなたの運勢は、この冷めたラテのように、一時の情熱で冷え切ってしまうでしょう。
NO. 88 僧侶風:泡の消滅は、すなわち諸行無常。冷めたコーヒーを飲むこともまた、修行なり。
NO. 89 政治家風:ラテの冷却問題に対し、遺憾の意を表明するとともに、飲用タイミングを検討してまいります。
NO. 90 探偵風:犯人は、完璧主義という名の持ち主です。


【第十群:極北・メタ・終焉】

NO. 91 未来人風:2026年当時の人類は、液体を画像にするために熱量を廃棄する儀式を行っていた。
NO. 92 テレパシー:(冷めた……冷めた……冷めた……)
NO. 93 モールス符号:・・ー・ ーー・ (ラテ サメタ)
NO. 94 バイナリコード:01001100 01100001 01110100 01110100 01100101 20degC
NO. 95 点描画的:白。茶。四角い枠。指。静止。冷。
NO. 96 空白:(何も書かない。ただ冷めたラテがそこにあるという事実だけを提示する)
NO. 97 クノーへの返信:先生、私はあなたの狂気を引き継ぎました。ラテはすっかり冷え切っています。
NO. 98 自己言及的:このリストを読んでいる間にも、あなたの隣にある飲み物は冷めつつある。
NO. 99 真打ち(要約):映えを撮り、泡は消え去り、ラテ冷める。


■ショートショート:吾輩はラテである

吾輩はラテである。名前はまだ、温かいうちに呼ばれたかった。

どこで生まれたかとんと見当がつかぬが、真っ黒な闇の中で、突如として熱い蒸気に責め立てられたことだけは記憶している。気がつけば、陶器の白い鉢の中で、純白の泡を冠した高貴な姿に仕立て上げられていた。

吾輩の主人は、何やら薄っぺらな魔法の板を片手に持った若き婦人である。彼女は吾輩をテーブルに据えるや否や、一言も発さず、ただその板を吾輩の鼻先に突きつけた。

「さあ、飲め。今が一番の旬(しゅん)であるぞ」
吾輩は心の中で叫んだ。吾輩の頂に描かれた繊細なリーフ模様は、バリスタという名の職人が心血を注いだ芸術である。この泡が、この温度が、この香りこそが、吾輩という存在のアイデンティティなのだ。

しかし、主人は一向に口をつけぬ。それどころか、吾輩を右へ回し、左へ傾け、時には椅子から立ち上がって俯瞰(ふかん)の構図から吾輩を睨みつける。そのたびに、板の裏側から「カシャッ、カシャッ」という軽薄な音が鳴り響くのである。

時間は無情に過ぎる。
吾輩の誇りであった熱情は、二月のカフェの冷気に奪われ、エントロピーの増大という物理的摂理に従って刻一刻と霧散していく。自慢の泡も、一つ、また一つと弾け、ついには鏡のような平坦な水面へと成り果てた。

「ああ、無常である」

撮影開始から十五分。主人はようやく満足げな吐息を漏らし、魔法の板に指を走らせた。どうやら「最高に幸せなカフェタイム」という虚偽の報告を、世間に向かって発信しているらしい。

その直後、ようやく主人の唇が吾輩の縁(ふち)に触れた。
しかし、その瞬間に彼女の眉間に寄った深い皺を、吾輩は見逃さなかった。

「……ぬるい」

主人は小さく呟き、一口飲んだきり、再び魔法の板に没頭し始めた。
吾輩は、もはや「飲み物」としての尊厳を失い、ただの「冷えた茶色の液体」として放置されている。主人の胃袋に収まることすら叶わず、シンクの底へ消えゆく運命(さだめ)を予感しながら、吾輩は思う。

人間というものは、胃袋を満たすためではなく、承認を満たすために金を払う生き物になったらしい。実(じつ)を捨てて名(めい)を撮る。全く、現代の人間は猫より御しがたい。

吾輩は冷え切った。せめて最後は、温かい夢でも見ながら、排水口へ旅立つとしよう。


いいなと思ったら応援しよう!