眠りへいざなう百人一首 98
第98首 従二位家隆
風そよぐ ならの小川の 夕ぐれは
みそぎぞ夏の しるしなりける
よみ
かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは
みそぎぞなつの しるしなりける
作者・時代
従二位家隆(じゅにい の いえたか・1158〜1237)
=藤原家隆(ふじわらのいえたか)
『新古今和歌集』の撰者の一人。
優雅で繊細な自然詠・恋歌にすぐれた歌人。
現代語訳
風がそよそよと木の葉を揺らす、
ならの小川の夕暮れ時——
もう蝉の声も弱まり、
涼しい風が吹きはじめて、
夏の気配はほとんど消えてしまったが、
それでも、川で行われる「みそぎ」の行事だけが、
ああ、まだ夏なのだと
かろうじて教えてくれる印なのだなあ。
この歌の「心のタイトル」
▶ ほとんど秋みたいな夕暮れに、夏を告げる「みそぎ」だけが残る
情景のイメージ
ならの小川(奈良の春日社近くを流れる小川)は、
夏越の祓などの「みそぎ」の舞台として知られる場所。
夕暮れの川辺では、
もう暑さもやわらぎ、
木の葉が風にそよいでいる。
空気はすでに秋めいているのに、
人々が川で身を清める光景だけが、
「これはまだ夏の終わりなのだ」と教えてくれる——
そんな、季節の境目の一場面です。
言葉のポイント
風そよぐ
… 「そよぐ」は静かに揺れる様子。
激しい風ではなく、肌に心地よい風。
ならの小川
… 「奈良」と「楢(なら)」の掛詞ともとれる。
聖なる場所と自然が重なったイメージ。
みそぎぞ夏の しるしなりける
… 目に見える夏の印として残っているのは、
「みそぎ」の儀式だけ、という気づき。
歴史・背景
「みそぎ」は、
身を水で清めて穢れを払う行事で、
季節の節目に行われました。
この歌は、
暑さそのものではなく、
「行事」としての夏を描いているところに、
文化的な感性の豊かさがあります。
現代の私たちへのメッセージ
季節の移ろいを感じるのは、
気温や天気だけでなく、
行事や、街の音・匂い・色の変化によるところも大きいもの。
忙しい毎日の中でも、
季節ごとの小さな儀式——
たとえば衣替えや、特定の飲み物・お菓子——を
自分なりに大切にしてみると、
時間の流れが少しやさしく感じられます。
眠る前に味わいたい「ひと言」
今日ふと感じた季節の気配をひとつ思い出して、
その感覚を胸にしまいながら、そっと目を閉じてみましょう。



