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飽きっぽい人間が最後に勝つ!?

「一つのことを続けられない」
「すぐ目移りしてしまう」
「飽きっぽくて、何も長続きしない」
 ――そう自分を責めてきた人へ。
 
 これは意志の弱さを慰める気休めではなく、コンピューター科学と数学が「最適な戦略」として突き止めた、冷徹な計算結果である。

 問題を、こう定式化してみよう。
 目の前に、複数のスロットマシンが並んでいる。それぞれ当たる確率が違うが、どれがどれだけ当たるかは、最初はわからない。手持ちのコインは有限だ。さて、どう振る舞えば、最も多くの当たりを得られるか。
 これは「多腕バンディット問題 multi-armed bandit problem」と呼ばれ、数学と計算機科学で長年研究されてきた、意思決定の根本問題だ。そしてこの問題の本質は、二つの相反する行動のあいだの緊張にある。
 ひとつは、今わかっている一番良さそうな台を回し続ける「活用」exploitation 。もうひとつは、まだ試していない別の台を回してみる「探索」explorationである。

 直感的には、当たりの多い台が見つかったら、そこに集中するのが賢そうに見える。
 だが、それは危うい。
 なぜなら、あなたが「一番良い」と思っている台は、たまたま序盤で当たりが続いただけかもしれず、本当はもっと良い台が、まだ試していない列の中に眠っているかもしれないからだ。
 早々に一つに絞り込んだ人は、目先の得を確保する代わりに、より大きな鉱脈を発見する機会を永久に手放す。
 一方、飽きずにいろいろな台を試し続ける人は、短期的には無駄打ちが多く、非効率に見える。しかし、その探索の中で、誰も気づいていない当たり台を掘り当てる可能性を持っている。

 数学が示すのは、最適な戦略が「活用」と「探索」のバランスの上に成り立つ、という点だ。
 そして重要なのは、そのバランスが残り時間によって変わることである。
 この問題を人生の理論として展開した計算機科学者ブライアン・クリスチャンとトム・グリフィスは、著書『アルゴリズム思考術』で明快に整理している。
 残り時間が長いときは、探索に多く投資すべきだ。
 まだ先が長いなら、少々の無駄を出しても、より良い選択肢を見つけておく価値が大きい。見つけた鉱脈を、その後の長い時間で活用できるからだ。
 逆に、残り時間が短くなるほど、探索の価値は下がり、すでに知っている最良のものを活用するほうが合理的になる。若さとは、この理屈でいえば、探索に投じられる時間の潤沢さのことにほかならない。

 ここに、飽きっぽさの逆説がある。
 人生の前半で、あれこれ試し、飽きては次に移り、一つに定まらない人は、はた目には落ち着きがなく、非効率に見える。だが彼らは、無自覚のうちに「探索」に投資している。多くの選択肢を試すことで、自分に本当に合うもの、世界に眠る良い鉱脈の在りかを、データとして蓄積している。
 飽きっぽさとは、探索フェーズを長く走る性質なのだ。
 そして探索を十分にやり切った人は、後半になって「これだ」というものに出会ったとき、迷いなくそこに集中できる。
 一方、早くから一つに絞り込んだ人は、選んだものが本当に最良かを検証しないまま、活用だけを続けてしまう。
 目の前の一台に忠実であることが、より良い台を知らずに終わる、という代償を伴う。

 この構造は、「腰を据えて一つのことを」という規範に縛られてきた人ほど、静かな救いになるはずだ。
 周囲から「飽きっぽい」「一貫性がない」となじられ、そのたびに自分を責めてきたかもしれない。
 だが、探索と活用の理論から見れば、それは戦略の一形態であって、欠陥ではない。むしろ、探索が足りないまま一つに固執することのほうが、長期利得を損なうリスクをはらんでいる。
 大切なのは、飽きっぽさそのものではなく、探索と活用の切り替えを、意識的に行えるかどうかだ。

 実践的な指針は、この一点に尽きる。残り時間が長い局面では、大いに探索せよ。ただし、探索から活用へ切り替える時期を、自分で決めよ。
 飽きっぽさが罪になるのは、それが一生続いて、活用フェーズにいつまでも入れないときだけだ。
 逆に、若いうちに探索を怠り、早々に一つへ固執するのも、別の失敗である。
 人生のどの局面にいるかを見極め、探索と活用の配分を意図的に調整する――それができる人にとって、飽きっぽさは負債ではなく、むしろ蓄えた資産になる。

 一つのことをやり抜く人が偉い、というのは、半分だけ正しい。
 やり抜くべき「一つ」を、十分な探索の末に選び取ったなら、それは強い。だが、探索を省いて最初に手を出したものにしがみついているだけなら、それはただの機会損失だ。

 飽きっぽさを恥じることはない。
 あなたはただ、まだ探索の途中にいるだけかもしれないのだから。


帰って来た #逆説から考える生きることシリーズ
#人生はだから面白いシリーズ
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