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テツという福猫がいた

 そもそも猫という動物は自由気儘で生意気なもんですが、このテツという猫も、わがまま放題な奴でして。

 出会いからして迷惑千万。分秒を争う放送撮影の仕事中、埃まみれの仔猫が、ヨロヨロふらふら突然路上に現れた。
 その日、2007年11月10日は朝から底冷え。そんな中、哀れな仔猫が「な、なんか、く、食いものを、お、おくれ~」と今にも死にそうなくらい鳴き疲れたしゃがれ声で、恐る恐る近づいてくる。首輪も無いし、身体中埃まみれ。ついに足許にまですり寄られちゃ、人として放っておけるわけがない。

保護当日の現場の仔猫
ガラケー撮影

 しかも以前飼っていて、5年前、19歳で天に昇ったネコとそっくりの外見。こりゃあ、あの子が生まれ変わって帰ってきたのかも、なんて思っちまったもんだからしょうがない。とにかく家族に電話し、自宅に連れ帰って保護したら、初めての家なのに、たらふく食べて、いきなりソファでごろ寝。遠慮というものがまったくない。

ソファで長々と寝そべる、ふてぶてしい仔猫(ガラケー写真)

 ひょっとして家出した飼い猫か❓とも思ったが、ご近所にそれらしい張り紙もなく、飼い猫とは思えないほど小汚い。
 どうであれ先ずは命を守ることが先決ということで、充分な栄養と睡眠を与え、身体を拭いてやり、「テツ」という名前も付けて家族として迎えることになった。
 傍若無人な態度のわりに、たまに見せる愛想が、私と家族の心をくすぐるからたまらない。つい、い奴よ、なんて甘やかしてしまう。


こんな姿を見せられちゃあ、何でも許しちゃう

 身体を拭いて小ぎれいになり、我らバカ家族に溺愛されている内に、最初の事件が起きた。

 人間でも動物でも、食べれば、出るものが出る。猫用トイレで「大」をカマしていたテツのお尻から、何だか白くて長細いものがズルズルと出てくるではないか。
 「ギョエ~ッ!」という家族の悲鳴に全員集合し、その細長い異物をよく見ると、大量の「サナダムシ」である。

 早速、獣医さんに直行。虫下しを処方していただき、感染症の検査などをしてもらいつつ、犬歯の発達具合から、生後ほぼ3カ月と見立てられたテツ。その後、ほぼ一か月にわたり、何度も何度も出てくるサナダムシに、獣医先生も啞然。
「君はいったいどこから来たんだ?」と思わず口走ったそうだ。

 以来、家族間では、しばらく「サナダ君」というあだ名で呼ばれ、胴に比べて短い手足ながら、活発に家中を元気に暴れ回り、我ら家族を下僕として従えたのであった。


カゴにすっぽり入った「籠猫」 妖怪っぽい

 
 とにかくやたら元気に遊び回るサナダ君、いやテツは、ちょうど浪人中の息子の気晴らし遊び相手に持ってこい。おかげで翌年春、息子は志望校に無事合格。
 この頃から、どうもテツは、家族に福をもたらす「福猫」らしいという噂が、増田家の中にだけ定着していった。


お気に入りの丸座布団

 
 福猫テツ、その写真をアニコムという動物保険のPR企画に応募したら、見事採用決定。なんとキャンペーン期間中、山手線の車内吊り広告写真として一車両を占拠するいう快挙を成し遂げやがった。しかもUPである。一流芸能人でも、こんなことはなかなか難しい。まさに福猫テツの面目躍如だ。


2016年春の山手線車内 上右がテツの写真


一流芸能人でもこんなアップ写真が吊るされることは少ないだろうに。


 福猫テツの快進撃はまだ続く。翌年アニコムのPR企画で、全国からペットの写真を募集、採用された写真で日めくりカレンダーを作るという企画にも見事当選。11月27日に「考えるネコ」というキャプションでカレンダーの紙面を飾った。


「考えるネコ・・・」

 
 別に賞金が貰えるわけでもないが、単純に嬉しい。親バカの極みである。ちなみに両作品とも写真を撮ったのは私である(これは単純に自慢である)。

 が、いいことばかりではにゃい。毎年6月に玄関先のポットに自然に咲くようになったネジバナを、私は大切に愛でていた。しかし、ある年の6月、昨日まで咲き始めていたネジバナの花部分が、突然プッツリと無くなっていたのである。
 翌日、いつも通り出かける私を見送りがてら、玄関の外に出たテツを振り返って見返すと、なんと別のポットのパンジーを食べていたのである。テツは「花喰う猫」だったのだ。

 

パンジーを食う花喰いネコのテツ

 以来、家の中も外も、テツの行動範囲に花は一切飾れなくなった。花の中には猫にとって、猛毒の花もあるからね。
 その年以来、ネジバナは咲かなくなり、私の秘かな楽しみは奪われたが、テツは、そんなこと知ったことかと、相変わらず傍若無人にふるまう猫であった。


エクソシストか?


 それでも、テツはわが家の一員としてどっぷりと馴染み、いつの間にか人語を解し(ているような気がした)、わが家は、テツなしではもはや考えられない存在になっていた。



夕ご飯の前には「お手」。お前は犬か?


 自分の夕食前には左手で「お手」をしてから食べたテツ。
 私の夕食後の服薬が終わるのを見計らい、ニャンと鳴いて寝そべって、お腹モミモミを催促したテツ。
 番組で使うネコジャラシのシーンを、狙い通りに演じてくれて、テレビデビューしたテツ。
 私の足音を随分前から悟り、お出迎えしてくれたテツ。


ネコジャラシでじゃらされているカットに出演したテツ


「お帰りニャさい」お出迎えテツ


 そんな家族の一員であるテツが、2026年1月13日、18歳と半年(多分)の生涯を閉じた。
 幸せだったのか、どうなのか、私には分からない。
 ただ、18年、ずっと一緒にいてくれてありがとう、それだけを伝えたいと思っている。

 虹を渡った先には、さまざまな花々が咲き乱れる美しい野原が広がっているのだろう。そこで思い切り遊ぶがいい。
 ただし、花は食べない方がいいぞ、テツ。天国の神様に叱られるからな。


陽だまりのテツ


文責:birdfilm   増田達彦
お読みいただき、ありがとうございました。
しばらく、喪に服したいと思います。
また復帰したら、拙い短編など書きますので、ぜひお立ち寄りください。<m(__)m>


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