トコヤミの知ってるつもり? 第8回
今回は「食べ物の起源誤解」特集です。当たり前のように「あの国発祥」だと思い込んでいる料理、実はルーツを辿ると、全然違う国から来ていた、というネタを3本集めました。
その1:ナポリタンはイタリア・ナポリの料理である

喫茶店の定番メニュー、ケチャップ味のスパゲッティ「ナポリタン」。名前からして、イタリアのナポリ発祥の料理だと思っている人、多いと思います。ですが、これは正真正銘の「日本発祥」の料理です。
発祥の地とされているのが、横浜のホテルニューグランド。1927年創業のこのホテルで、外国人シェフが考案した、トマトソースとチーズで味付けしたシンプルなスパゲッティが原型でした。戦後、GHQの進駐軍が横浜に駐留していた際、当時の総料理長が、アメリカ兵たちがケチャップとハムを絡めたスパゲッティを食べているのを見て着想を得て、日本人向けにアレンジを重ね、具材を増やして一品料理に仕上げていったと言われています。

「ナポリタン」という名前自体も、フランス語の「ナポリ風(ナポリテーヌ)」を略したもので、直接ナポリの料理を再現しようとしたわけではありません。実際、イタリア人にケチャップ味のパスタを見せると、「パスタにケチャップを使うなんて」と驚かれることも多いのだとか。ちなみに、ナポリタンを指す言葉は関東と関西で違いがあり、西日本では「イタリアン」と呼ばれることが多いというのも、この料理のルーツの複雑さを物語っています。
その2:日本のカレーはインド発祥である

カレーライスといえば、多くの人が「本場はインド」というイメージを持っていると思います。もちろん、スパイスを使った煮込み料理そのものの発祥は、間違いなくインドです。ですが、私たちが日常的に食べている、あの"とろみのあるカレーライス"は、実はインドから直接伝わったものではありません。
カレーがインドからイギリスに伝わったのは18世紀後半。当時、イギリス人がインドで出会った、スパイスの効いた汁物料理「カリ(タミル語で"汁"の意味)」に感銘を受け、本国に持ち帰ったのが始まりとされています。イギリスでは、家庭料理として広める過程で、カレー粉に小麦粉を加えて、とろみをつけるスタイルに変化していきました。実は、このとろみのつけ方はインドにはない、イギリス独自の工夫だったと言われています。

そして、このイギリス式カレーが、幕末から明治にかけて日本に伝わり、海軍の食事として採用されたことで、日本全国に広まっていきました。今でも海上自衛隊で「金曜日はカレーの日」という伝統が続いているのは、この歴史の名残です。つまり、日本のカレーライスは、正確には「インド→イギリス→日本」と、二段階の"経由地"を経て、私たちの食卓にたどり着いた料理だったというわけです。
その3:天津飯は、中国・天津の郷土料理である

中華料理店の定番メニュー「天津飯」。名前に堂々と地名が入っているので、中国の天津市に伝わる郷土料理だと思っている人が、ほとんどだと思います。ですが、これも完全な日本発祥の料理です。中国の天津はもちろん、中国全土を探しても、天津飯にそっくりな料理は存在しません。

発祥については、いくつか説があります。有力なものの一つが、1910年創業、東京・浅草の中華料理店「来々軒」発祥説。客から「早く食べられるものを」とリクエストされたコックが、カニの身と卵を合わせて焼いた「かに玉」をご飯の上にのせ、酢豚のあんを応用した甘酸っぱいあんをかけて出したのが原形とされています。もう一つ、戦後の食糧難の時代、大阪の中華料理店が考案したという説もあり、こちらは天津の丼料理「蓋飯(カイファン)」をヒントに、天津で獲れるワタリガニを使おうとしたものの、値段が高かったため、大阪で獲れる川エビで代用した、というエピソードが伝わっています。
面白いのは、関東と関西で味付けがはっきり分かれている点です。関東では甘酢あんが主流なのに対し、関西では醤油や塩ベースのあんが一般的。同じ「天津飯」という名前でも、地域によって全く違う顔を持っているというのも、この料理が本場からの直輸入品ではなく、日本国内で独自に育っていった料理であることを、よく物語っています。
おわりに
3本とも共通しているのは、「料理の名前や見た目が持つイメージと、実際の成立過程が、意外なほどズレている」ということです。
ナポリタンは、イタリアの地名を借りた日本の洋食。カレーライスは、インド生まれ・イギリス育ちの日本の国民食。天津飯は、地名を冠しながら、中国本土には存在しない、純然たる日本の中華料理。どれも、複数の国や文化を経由するうちに、当初のルーツとは違うイメージがすっかり定着してしまった例です。
食べ物のルーツを辿ってみると、その裏には、移民や戦争、貿易といった、意外と大きな歴史のうねりが隠れていることが多い気がします。普段何気なく食べているメニューにも、こうして掘り下げてみると、なかなか奥深い物語が眠っているものです。
今日はこのへんで。
トコヤミ
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