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お盆) 名前しか呼べなかったから

箪笥の二段目から
封筒と筆ペンを取り出した。
白黒の水引。
その中に静かに姉の名を書く。

一万円札を入れ、封を閉じる。
行き先のない香典袋は
笑顔の姉の写真立ての横に
そっと置いた。

姉が旅立って5年
お盆が近づくと
毎年この儀式をしている。

早めに用意しすぎたキュウリの馬は
少し萎びてきている。
これも毎年の定番。
新しいキュウリを用意し直す。

帰らなくて良いと思っているから
茄子は置いていない。
でも、いつもどうにかして
帰ってしまうようだ。

香典袋は下に4枚重なったまま。
開けると現実味が出てしまうから
封は開けない。

遠慮深い姉の事だから
きっと1円も手をつけずに残している筈だ。
そもそも香典袋なんていう
味気ないものが嫌なのかもしれない。
来年は姉が喜びそうな
オシャレな封筒に変えてみようかな。

時折、
いや度々
どうしようもなく会いたくなるよ。

棺に入れた
「いつでも夢に出て来れるチケット」
まだ使わないの?
あれ、使用回数無制限なんだよ。

お化けが大の苦手な私が
お化けになってでも良いから
出て来て欲しいと願っているんだよ。

私がそっちに行くまで
あと、どれくらいかかるだろう。
その時は溜まった一万円
全部持っていくから
贅沢な飲み会をしよう。


最期の私の声、聞こえていたかな?
名前しか呼べなかったね。
ありがとうって言ったら
本当に全てが終わりになる気がして
自分を保てそうになかったんだ。
ごめんね。

だから、今年はさ
面と向かって伝えさせてね。
家族でいてくれて、本当にありがとう。
ずっと、ずっと大好きだよ。



初めてのお盆を迎える
愛犬るるかちゃんにこの話を捧げます。
会いに来てね。
帰らないでね。
大好きだよ。



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