職場と戦場OS #13| コンサルは憧れるような仕事ではない(前編)
「ECコンサル案件があるんです。」
営業からそう聞いた時は嬉しかった。
ネットショップの仕事は好きだった。
だから、いつかコンサルをやってみたいと思っていた。
ところが、一か月経っても連絡が来ない。
二か月経っても来ない。
さすがに我慢できなくなった。
「お前、ふざけんなよ。俺もうやらないぞ。」
と営業に電話をした。
「今、本当の部長が出てきまして。」
「あと少しなんです。」
「もう少し待ってください。」
そう言われた。
ホントの部長ってなんだよ。
そして私は、なぜかコールセンターへ送られた。
コールセンターは島ガチャだった。
フロアを見渡す。
バンドをやっていそうな兄ちゃん。
役者を目指していそうな若者。
おっさん。
おばちゃん。
老若男女、全員ヘッドセットを付けている。
ただし、島ごとに景色が違った。
通販受付の島。
サポート窓口の島。
ひたすら謝罪している島。
隣の島では、某中国系ECの営業電話を三人でやっていた。
今では考えられない時代だった。
最初の案件はリコール対応だった。
販売リストがあるようで無い案件だった。
あいだに問屋が挟まっているからだ。
だから、可能性のある所へ片っ端から電話を掛ける。
ざっくりいうとそんな内容の仕事だ。
ある日、遠くの席から聞こえてきた、
「申し訳ございません。」
「申し訳ございません。」
誰かが、同じ言葉を繰り返していた。
SV(スーパーバイザー)が通話を聞いている。
そっとメモを手渡した。
しばらくすると通話が終わった。
やがて、SVが笑顔でこちらにやってきた。
嫌な予感がした。
「じつはトラブった相手先が有りまして。」
気が付けば、炎上した案件ばかり私に回ってきた。
客が怒る理由は分かる。
いつ買ったかも分からない。
持っているかも分からない。
それでも調べて欲しいと言われる。
詐欺だと思われても仕方がない。
怒るのも当然だった。
むしろ、よく話を聞いてくれるなと思いながら対応した。
このリコール案件は平和だった。(あとに比べれば)
次第に慣れて来て、気付けば、昼飯も何人かで行くようになった。
仕事帰りに飲みに行くこともあった。
その中に、この道三十年という、おばちゃんがいた。
口癖は、
「そぉ~~なの♪」
上沼恵美子みたいに、首を置きにいくタイプだ。
ある日、そのおばちゃんが言った。
「あなた、才能あるわ。」
「私が言うんだから間違いないわ。」
私は黙って聞いていた。
「頑張れば、SVにもなれるわよ。」
お褒め頂いた、ありがたい話ではある。
ありがたいんだけど。
私は別の目的でここに来ていた。
リコール案件は終わった。今度こそコンサルだと思った。
「もう少しだけお願いします。」
営業はそう言った。
次は自治体系だった。
最初の数日は割と忙しかった。
マニュアルを読み込み、SVに聞きながら何とか対応する。
ところが四日目以降。
電話が鳴らない。
ぱったり鳴らない。
最後の方は一日に全体で十件あるかどうかだった。
大フロアならまだ気が紛れる。
だが専用部屋だったので逃げ場がない。
ずっと静かだ。
そして、ずっと仕事も無い。
ネットも繋がっていない。
寝ることも許されない。
そうだ!
俺たちのスパイダーソリティアがあるじゃないか!
そう思ってメニューを開いた。
何も入っていなかった。
当然だった。
私はそっとメニューを閉じた。
突然、電話のランプが光る。
少し遅れて、着信音が鳴る。
30人くらいが受話器を一斉に上げる。
誰もが電話を取りたい。
なぜなら、
暇だからだ。
私は思った。
おい、ここは昔のテレクラかと。
夕方になる。
静まり返った部屋。
窓の西日。
誰も喋らない。
SVだけが時々列の間を歩く。
居眠りしている者の肩に、そっと手を置く。
キツい。
キツすぎる。
そうだ。
これは仕事ではない。
修行なのだ。
私は今、禅寺にいるのだ。
SV(和尚様)が例の板で、
みんなの肩を叩いてくるのだ。
雑念を払わなければ、
そう思うことにした。
さすがに脳みそが腐るかと思った頃。
自治体の案件は無事に終わった。
そして、営業から電話が来た。
「お待たせしました。」
ついにコンサルかと思った。
続きがあった。
「その前に二日間だけ、別案件お願いします。」
今度はFAX通販だった。
学生時代の部室みたいな粗末なロッカーに荷物を入れる。
百均の透明な手提げに貴重品を入れ席に着く。
5分程度の雑な研修。
古いシステム。
半角カタカナ。
保留を押し、
手挙げをする、
しかし、SVは来ない。
見るとSVも電話をしている。
仕方なく返品を受け付ける。
なのに、あとから呼び出されて、
「これじゃ、利益が出ないじゃないですか!」
と詰められる。
知らんがな、だったら呼んだら来いよ、と思った。
休憩中、廊下で会話が聞こえた。
「ここはいつでも入れるから良いんだよ。」
二日前に俺をねじ込めるんだから、確かにそうだよねと思った。
そういえば。
コールセンター初日の研修で組んだ人がいた。
上品そうな奥様だった。
ロープレが終わると、ぽつりと呟いた。
「なんだか難しいわ。」
通話は私に繋がったままだった。
翌日、その人を見かけることはなかった。
保留漏れというのは、コールセンターでは割とある事故らしい。
「この客、こんなこと言ってまっせ、SV。」
「おい、聞こえてる!」
そんな話も後になって聞いた。
コールセンターでは、
誰かが、保留ボタンを押すたび、
何度も流れていた、
「エリーゼのために」
今でもあの曲を聞くたびに考える。
あの時、一番保留ボタンを押されていたのは、
実は、私自身だったのではないかということを。
みなさんも、仕事上で「島ガチャ」を引いた経験はありますか?
あれば、コメント欄で教えて下さい。
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