【ホラー短編】はじけてならんで
前の晩は静かに更けた。
物音もなく、木や建物に風が擦れる音が
するくらいだった。
夜も明けて、私もアラートで目を覚ました。
─バリィィン
朝に目を覚ましたあと朝食にトーストを食べて、家を出る支度をしている最中に、玄関口から大きな音がした。
壁に瓶が当たって割れたような音だ。
途中だった支度の続きも済ませると、私は玄関から表に出てみた。
玄関扉が濡れている。扉にあたった瓶が砕けて、割れた細かな破片が扉に付いている。
その下には割れた瓶の大きな破片が四方に飛んでいた。
破片から商品ロゴが見える。ファンタの瓶だ。90年くらいまで見た記憶があるカタカナの表記のデザインだった。
「懐かしいですね。この瓶」
ここの集合住宅の管理人のお爺さんが気がついて私に話かけてきた。私は会釈しながら苦笑いをした。
今度は私から口にした。
「いきなり投げつけられたみたいで……怖くて」
お爺さんは笑顔を崩さずに答えた。
「私も見れる時間は見ておきますね。ここの掃除もしておきましょうか?」
お爺さんの進言に私は答えた。
「いえ、まだ時間もあるので私がしますよ。」
それ以上お爺さんもなにも言わずに頭を下げて、お爺さんは離れていった。私は割れた瓶を片付けながら、破片は捨てずに袋にまとめて家の物入れに入れて置いた。なにかあったときに物証として持っている方が都合が良いと思ったからだった。
その日の晩も静かだった。
音が夜の闇に沈んでるようだった。午後9時になると人の気配もしなくなった。私は自分で作った鍋を食べて就寝した。
朝にアラートで目を覚ました。
─バリィィン
朝に目を覚まし、ご飯を食べて家を出る支度中に、玄関口から大きな音がした。
今度は不動産屋や大家に相談したほうが良いと流石に思った。
私は表に出てみた。
お爺さんがいた。掃き掃除をしながらファンタを飲んでいた。
「おや?これからご出勤ですか?」
頷きながら玄関扉にも視線をやる。
なにもなかった。
「ああ、これね、昨日見ててあまりに懐かしくって、家にあるのを出したんですよ」
お爺さんが飲んでいるのはカタカナ表記のファンタだった。
「まだあるんですね、まだ飲めるんですか?」
「はい、おいしいですよ、とっても」
瓶は冷えているのがわかる。汗をかいていた。
私は栓抜きを用意して開けたことにむしろ感心した。しかし、このデザインの瓶のファンタを保管している事はやはり変に思った。
「いま、音しませんでした?」
私は気になってお爺さんに聞いてみた。
「音ですか?炭酸の音とか……くらいですかね。」
「中で昨日みたいな、割れる音が聞こえたんです。」
お爺さんが少し頭を傾げて
「おかしいですね。なにもありませんでした。」
「ごちそうさまでした。これいりますか?」
空の瓶を差し出してきた。私は受け取った。
受け取った瓶は割れた瓶を入れた物入れの脇に置いておいた。
晩は静かに過ぎる。
冷蔵庫や時計の音が静寂な中で鳴っている。私は簡単にコンビニ弁当を食べて就寝した。
朝、アラートが鳴って目を覚ました。
─コンコン
朝に目覚めてから、食事をして支度の最中に、玄関口にノックをする音がした。
「はい、いま出ます。」
開けると誰もいなかった。
玄関扉の下に開けられていないカタカナ表記のファンタが置いてあった。
お爺さんなのかな、と思った。
でも辺りを見回しても人影はなかった。
私はファンタの瓶を手にすると物入れの脇に並べて置いた。
その晩も静かだった。私自身の呼吸音も感じる。外食をして帰宅した私はチューハイだけ開けて飲んでいた。途中であのファンタを思い出して、お酒で割ってみた。甘さと酸味が溶けて私の喉を潤した。半分ほど飲んだ所で、
─コトンっ
玄関口──郵便受けになにか落とされた音がした。少し酔いながら私は郵便受けに入った物を確認した。
ハガキだった。
差出人も宛名もなかった。
カタカナ表記のファンタのデザインされた40円切手が1枚貼られていた。私はそれを物入れの脇に置いておいた。飲みかけだったお酒で割ったファンタも飲みきって、空瓶はあの物入れの脇に置いておいて、就寝した。
明けた朝、鳴ったアラートで起床した。
─ジャー ─ドボドボドボッ
蛇口の水の音がする。寝床にいる私はそれを聞いた。朝に目を覚まして食事の支度に台所に行くと、蛇口から水が出ていた。その先のボウルは水でいっぱいになって溢れていた。そのボウルの中に未開封のカタカナ表記のファンタが冷やされていた。
私はそのファンタを栓抜きで開けて、グラスに注いで飲んだ。飲むと乾いた喉を潤して、私はそのファンタを全て飲んでしまった。空瓶はまたあの物入れの脇に置いておいた。
静かな晩が過ぎていく。
私自身の鼓動音も感じる。レトルトの丼物を用意して食べながら、お茶を飲む。潤わない。喉が渇く。
物入れの脇の3本のファンタの空瓶に目を向ける。唾を飲んでその晩は就寝した。
明朝、アラートで起床した。
─カラカラッ ─シュワー
朝、起床して居間にいくと食卓の上にカタカナ表記のファンタが開けてあった。それが氷の入ったグラスに注がれていた。私はそのファンタを勢いよく飲んで、空いたグラスにまた注いだ。またこのファンタも全て飲んでしまった。喉の乾きが満たされた。空瓶をあの物入れの脇に置いた。
静かな晩。
家の軋む音も、ない。簡単にお茶漬けを食べながら、物入れの脇のファンタ──4本の空瓶を見る。
喉を張り付かせながら私は就寝した。
朝に鳴るアラートで起床した。
──
静かな朝。
目覚めて、食事も済ませて玄関扉を開けてみる。
誰もいない。なにもない。私は喉が乾いていた。
静かな晩。
帰宅してあの物入れを見ると空瓶4本がなくなっていた。そこにあのファンタのデザインされた40円切手1枚が置いてあった。
なくなった空瓶の脇の割れた瓶はそのまま袋に入っていた。私は袋を開けて中を見てみた。割れた破片に混じって5円切手が1枚入っていた。それもファンタのデザインだった。
宛名と差出人のないハガキも40円切手が貼られた状態でそのまま置いてあった。
私はそのハガキに新しい40円切手と5円切手を加えて貼って85円分の切手を整えた。
そして──
宛名:ファンタ
差出人:飯塚浪之助 (私)
と書いて、就寝した。
喉が乾いてたまらなかった。
汗ひとつかかずに
朝、アラートで起床した。
──
静かな朝。
目が覚めて、ルームウェアのまま私はハガキを手に玄関から表に出た。
表には掃き掃除をしているお爺さんがいた。
「おはようございます。良い天気ですね。」
お爺さんは笑顔で私に挨拶した。
私はお爺さんにハガキを渡した。
「お願いします。」
お爺さんは笑顔で会釈してハガキを受け取ると掃き掃除を続けた。
乾いた喉が張り付いて、言葉少なに私はその日も出勤した。
晩。静けさが喉に刺さる。
割れたファンタの瓶を眺めて私は就寝した。
喉が痛む。
あのファンタ。
朝のアラートで私は起床した。
─バリィィン
朝、目を覚ましたあと、
玄関口から大きな音がした。
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