冷やし中華食べたい、革命中なのに #14
14話 ヘビ先輩について
午後になり立ち直ったぼくがまずしたことは、あにまるずなる情報交換フォーラムを、卵、産卵、排卵、メス、などで検索することだった。あなたはお腹がゴロゴロするとさゆちゃんに甘え、世界初かもしれない産卵事例の調査を相棒に丸投げし、腹毛を梳いてもらうのに忙しい。
当初『ぱやちゃんこれ剃っちゃダメなのおォ?』と騒いでたくせに、おへそ丸出しで堂々の披露だ。さゆちゃんはあんなホヨッとした羽毛でもトリマーとしての腕が鳴るのか、透明チェアへあなたを座らせ、真剣なまなざしでハサミを動かしてる。
「そのミニミニばさみは何するもん?」
「あコレ?耳掃除のとき毛をカットする鉗子だよ。あとでやってみる?」
あなたはとろけそうな顔で「やってみる!」と良いお返事。絶対終わる頃また産んでるに違いない。
サファリパークの扉をクリックでトップが開くあにまるずは、交配制度のおぼろげだった輪郭をギラギラ乱反射させ、ぼくを迎え入れた。
入園するとすぐベンチがある。
紙コップのお茶があり、モーフィという動物の着ぐるみを着た女の子たちが、広いエリアを行き来し、愚痴や自慢、役所の悪口を言ったりしていた。
無料モーフィは、うさぎ、ペンギン、カピバラ、キツネ。おそらくは自宅にいるんだろう彼女らは泣いても顔が崩れず、怒ってもフィルターで怖く見えない。
モーフィングの略語だろうか。
それとも、毛布に似ているから?
ぼくはカウンターでエミュノイド用の黄色い小鳥モーフィをロードさせてもらい、なんだか体をもらえたような気分でパーク内を飛び回った。卵情報そっちのけ。浮力をイメージできる!凝ってるなあ……パタパタパタ。
「港区役所の神邉しつこい」
「北区の柚原融通A+」
「成功例しか広告塔に選ばないからって今のメンツはないよね」
どうやら交配マッチングには行政側のノルマがあるらしく、各担当部署が20代女性をメインに勧誘かけてるという話は雑談エリアで知った。受付で実は足切りがあるというのも。
なんだ。間口は広いようでターゲット層の選別はちゃっかりやってるんだ。
「すごく重いの彼。潰されちゃう一択なの」
「いいなあーうちなんか朝昼晩掃除!」
「ユーカリでしょ?コアラって植える意味あるん?」
「あるから!米食べるから!」
のろけ芝生のグリーン上では、メロディー期間真っ只中の着ぐるみたちが笑い転げて楽しそう。対する妊娠希望者ラウンジはシリアスな相談ごと中か部外者を門前ばらいで、爬虫類館はやけに混雑してた。四つ足ティールームはオリジナルモーフィを配布中。今日はカバとレオポンだって。
ぼくのイエローハミングバードもデフォルトじゃないならまた来よう。現在ひざまくらでとろりんちょ耳掃除中のあなたが寝てる間に……
成功ママラウンジにはハッピーエフェクトでバラの花が咲きクラッカー音が鳴り続けてた。立ち寄るひとはなく、役所が固定した体験談数点だけ。感情を漂白した無臭のコメントにぼかした背景の目隠しフォトが添えられ、相手の交配種名は伏せてある。
「支援のおかげで家族を迎えられました」
「前を向いています」
「過去の不安より、これからの未来と生活を」
ぼくは黄色い羽ばたきで方向転換し、本来の卵調査へ戻った。けれど鳥コーナーはこじんまり、猛禽ハンモックは閑散とし、メス鳥や産卵の話を聞けそうにない。
収穫ゼロ!当てが外れた。
確かに施設でも羽根つき交配種はレアキャラで、離れた棟のひとが最初は見物に来てたっけ。
乱立するコース路の伝言ボードに、メロディー中のツーショットがたくさん飾ってある。ぼくはボードの縁に止まり、知った顔が数人あることに親しみと、見てはいけないものに出くわしたうしろめたさを覚えた。
無駄足とわかっても動けてる錯覚が楽しく、ついつい道草してしまう。羽ばたかなくとも飛べる小鳥姿でざわめきをついばんで回った。
泣いてるサインなのか頭上で雨がザーザーのモーフィが何人もいる、ロス避難所エリアをなんの気なしに覗く。個体依存の相談は別室へ、とポップが浮かんでる。
「へび系の方でした。2週間だけって分かってたのに、洗面台の保湿剤を見るたび泣いてます」
「個体指定は違反だよ」
「帰ったあと部屋が広すぎる」
「食器ってどうしました?」
「捨ててない。いっそ脱皮してほしかった」
「再マッチング申請通った人いますか?へび様に会えるんなら戸籍売れます」
交配が成功すると帰還日のメニューが豪華になるからすぐわかる。へび系の方の心当たりも大いにある。
へび先輩は短いサイクルで出荷されてはぬるっと戻り、またすぐいなくなった。不愛想だけど湿ってる、と人気なんだって。
あなたの肩から翼は木の枝が育つように時間をかけ長々と伸びた。肩甲骨へ石の杭を打ち、それを大勢で引き抜こうとしてる痛みだと夜通し訴え、幾度となく気を失う。へび先輩は明け方ぬるっと現れては傷口を舐めた。
爛れに小さなマヒが起こり、あなたは束の間ぐっすりと眠った。
『ぱやちゃんてば!早弁?退屈で寝てた?』
サーチ。早弁は隠れてお弁当を自分だけ先に食べること。
『また出ちゃったんだけど記録表的なので管理してくれる?愛情が分散してきた』
ええっ、どういう意味です?早弁はしてませんから。どちらかというと遠足……
『数並ぶと売ってるパックのやつに似てきたと言うか、さゆちゃんにお世話なってるからお礼がしたい』
愛情じゃない方向へ行きかけてるじゃないですか早いですよう。
『色んな愛の形がないっけ?』
あるっけ……?
誰が誰を愛してる話なんだっけ?
トリミング道具を片付け、「夕ご飯なにするー?」とさゆちゃんはキッチンへ向かう。
『無精が確定で、しかも捨てちゃうくらいなら、おれに還ればよくない?』
オトボケ男の名案ピコン!だ。しかも得意げ!
あなたは産みたてのMSサイズ卵を2つ差し出し、匂いを嗅いだ。確かに何個目か即断できない……第六子め?
『溜まってっても迷惑かけるし、さゆちゃんにご馳走したい!』
さゆちゃんもロスになって、鳥系のかたでした、ハムスターを襲いがちで、と着ぐるみに雨を降らせるんだろうか。それとも交配成功ママになり、パークどころじゃない多忙な毎日を送る?想像がつかない。
あなたの頭上は土砂降り必須の天気予報図。
