【Audible感想】倉知淳『豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ事件』──笑えるのに本格すぎる密室ミステリ
「豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ事件」
倉知淳

こんなタイトルの本、普通の本棚に並ばないでしょ?
そう思って手に取った──いや、耳にしたのが、倉知淳さんの異色ミステリ「豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ事件」。
Audibleで見つけて、タイトルのインパクトだけで再生ボタンを押したのですが……
予想を裏切る面白さ。なんと、本格密室ミステリだったのです!
「豆腐×密室×死体」──ふざけてるのに、筋が通る恐怖
物語の舞台は戦争末期の日本。極秘研究を行う帝國陸軍の研究所で、若い兵士の死体が発見されます。
頭部は割れ、周囲には豆腐のカケラが散乱……密室の中、凶器が“豆腐”?という驚きの状況。
最初はまったく理解が追いつきませんが、登場人物の推理を追いながら少しずつ状況が解き明かされていく過程にゾクゾクが止まりません。
しかも、単なる奇抜さではなく、本格ミステリとして“ありうる仮説に落とし込んでいる点が秀逸。
倉知淳さんは、タイトルで笑わせておいて、結末で鳥肌を立たせるタイプの作家なのだと感じました。
さらに印象深いのは、“密室”という古典ミステリの王道トリックと、“豆腐”という無力な存在の対比です。
そのギャップこそがこの作品最大の魅力。
軽妙でユーモラスな語り口の中に、徹底的に計算された仕掛けが隠れており、読後(あるいは聴き終えた後)は、妙な納得感とともに「まさか豆腐で…」と呟いてしまいます。
短編集ならではの“クセ強ラインナップ”
この作品は一冊まるごと長編ではなく、いくつかの短編で構成されています。
だからこそ、ちょっと聴くだけでも満足感が高い。
以下にいくつかの印象的な短編をご紹介します。
■「ABCの殺人」
前回「ABC殺人事件」を聴いたばかり。何てタイムリーなのでしょう。
タイトルだけ見るとアガサ・クリスティのパロディかと思いきや、まさかの本格リスペクト。
犯人がアルファベット順に犯行を行う……という部分までは似ていますが、そこからの展開が秀逸。
原作を知っていればニヤリ、知らなくても唸る、ミステリ愛のこもった佳作です。
■「社内偏愛」
「日常の中の違和感」系ミステリ。
会社という閉ざされた空間で起きる“感情のすれ違い”が引き起こす犯罪。
誰もが経験したことのある「職場の変な空気」を、鋭く切り取っていてリアルに怖い。
■「薬味と甘味の殺人現場」
食にまつわる“嗅覚”と“違和感”がカギとなるユニークな一編。トリックの構成が美しく、読後感も爽快。
ケーキとネギの取り合わせなんて想像つかないですよね。
殺人という重い題材を扱いながらも、どこか“おいしそう”と感じてしまう不思議な作風が印象的です。
■「夜を見る猫」
幻想的な雰囲気と哀しさが混じる、やや異色作。猫を媒介にした“心の闇”と“記憶”の話が、静かに胸を打ちます。
ミステリの枠を超えて文学性を感じさせる短編です。
■「猫丸先輩の出張」
クセ者探偵“猫丸先輩”シリーズの一編。こちらはシリーズ化されているのですね。
軽妙な語り口と、奇想天外な推理が魅力で、読み進めるうちに彼の虜になっていきます。
事件解決のアプローチが独特で、「なるほどそう来るか!」という推理マジックの快感が味わえる一作。
ナレーター・大河元気の“聴かせ力”
Audibleでの体験を一段階引き上げてくれるのが、ナレーター大河元気さんの存在。舞台俳優でもあり、声優としての技術も確かな彼は、このクセ強な物語たちを、テンポよく、しかし緊張感を途切れさせることなく語ってくれます。
驚きのシーンでは抑揚を効かせ、推理のパートでは丁寧に聴かせ、クスッと笑える部分では軽やかに──音だけでこれほど“色”が感じられるのかと、驚かされます。
Audibleのレビューでも「声がいい!」「キャラクターが立ってる」と高評価が並び、“耳で読む”という行為の醍醐味を教えてくれるナレーションです。
Audibleで読むからこその体験
この作品、活字でも面白いとは思いますが、Audibleで聴くことで得られる臨場感は圧倒的です。
耳を通して感じる“間”や“沈黙”
短編だからこその区切りやすさ
目を閉じて、想像だけで“絵”が浮かぶ感覚
特に「密室もの」は、読者が一緒にその空間に閉じ込められるかのような没入感があるので、“聴く”という体験と相性抜群。
夜の就寝前や移動中に、1編ずつ楽しめるのも嬉しいポイントです。
まとめ:「豆腐の角」なのに本格、本気で読ませるミステリの妙
タイトルに惑わされてはいけません。これは“奇をてらった作品”ではなく、ユーモアとロジックを極限まで突き詰めた、本格派の短編集です。
笑える、怖い、唸る──そんな感情のジェットコースターを、耳から体験してみませんか?
Audibleの生活。手放せそうにありません。
