AI戦争ーフワフワの人が遺したものー㉙
ベンの秘密
ジェームズ顧問とレオナルド前所長は、レオナルドの家にいた。
「メティスとフーシーは二頭体制にあったから、メティスに支障が出ればフーシーが代わりを務めるはずだと思っていたのだが。」とジムが言った。
「だが、その両方とも停止した。」とレオナルドが言った。
「動いてはいたが、問いかけても返答がなく、二週間何の指示も出してこなかったと聞いている。」とジムが言った。
「元老院も原因を把握できていないんだね。」とレオナルドが言った。
「保守職員によると、何か考え事をしていたようにも見えたそうだ。」とジムが言った。
「ビリーが言うには、メティスとフーシーを抑えこんでいるのは、ウルという古来異星人の人工知能だそうだ。」とレオナルドが言った。
「ビリーは、そのウルという人工知能と話したのかね。」とジムが聞いた。
「そうだ。古来異星人の宇宙船に組み込まれていたそうだ。」とレオナルドが言った。
「どうやって、宇宙船へ行ったのかね。カルスト台地からも湖中からも、行けなかったのだろう。」とジムが聞いた。
「それが、丘とカルスト台地の地下の宇宙船を結ぶトンネルを見つけたそうだ。」とレオナルドが聞いた。
「だが、丘の地下階段は、行き止まりになっていたのではなかったかな。」とジムが聞いた。
「彼の山小屋の地下から入ったそうだ。」とレオナルドが言った。
「あの山小屋か。やはり、あそこは古来異星人と関係があったのだな。」とジムが言った。「だが待てよ、そのウルという人工知能は、これまでどうしていたんだ。君らが宇宙船でナンムと会ったときにもいたのかね。そんな話は聞いていないが。」とジムが言った。
「私たちが宇宙船に出入りしていたときには休眠していたようだ。」とレオナルドが言った。そして「ウェザー氏の孫たちが双子の母親の形見の首飾りを持って湖に出たことをきっかけに目覚め、客人だと思ってこどもたちを宇宙船に招き入れたらしい。」と言った。
「招き入れただって。」とジムが言った。「だが、双子の母親はずいぶん前に他界したのではなかったかな。」
「ウルは、最後のナンムに言われてこの間ずっと眠っていたようだ。」とレオナルドが言った。
「それをメティスが気づいたのか。」とジムが言った。
「目覚めたときのエネルギーをメティスが感知して攻撃したのだろう、とビリーは言っている。」とレオナルドが言った。
「異常なエネルギーが発生したとは聞いていないが。」とジムが言った。
「ごく瞬間的なものだったのではないかな。ビリーはそのとき宇宙船にいてウルと話していたそうだ。」とレオナルドが言った。
「待ってくれ、ウェザー氏の孫たちも地下のトンネルから宇宙船に入ったのかね。」とジムが聞いた。
「湖の南岸からだそうだ。」とレオナルドが言った。 「最初にコスミック女史とミネラル氏が宇宙船に入ったときも湖からだったな。」とジムが言った。
「そうだ。あの襲撃のあったときだ。」とレオナルドが言った。
「こどもらは湖から招き入れられて宇宙船に行き、ビリーは山小屋からトンネルを抜けて宇宙船に行った。」と、ジムが確かめるように言った。
「ウルが目覚めたので、地下トンネルが通れるようになったのだろうとビリーは言っていた。」とレオナルドが言った。
「こどもたちは、無事家に帰れたのかね。」とジムが聞いた。
「あぁ。首飾りを返すようにとウルに言われたそうだ。」とレオナルドが言った。
「その子らは、どうやって南岸から宇宙船に行ったんだい。」とジムが聞いた。
「そのあたりが判然としないんだ。ダニエル、年長の子の話だと、湖にいたとき、ボートが勝手に南岸に引き寄せられて、岸に上がった途端、宇宙船の中にいたと言うことだった。」とレオナルドが言った。
「ふうむ。」とジムが言った。
「宇宙船から戻されてすぐに、連合軍の爆発を見たりインフラが停止したりして、自分たちの責任だとダニエルは思い込んだようだ。」とレオナルドが言った。「そして、無鉄砲にもひとりで交渉しようとボートで湖の南岸に行き、迎えを待っているうちに無法者に襲われたようだとウェザー氏から聞いた。」
「その無法者は、こどもたちが何か宝の手がかりでも持っているって思っていたのかね。」とジムが聞いた。
「そうらしい。」とレオナルドは言うと、笑って「あの街のこどもたちは、異星人派と古代人派に分かれて争っててね。ウェザー氏の孫たちは、古代人派だそうだ。」と言った。
「それで目をつけられたと言うことかね。」とジムが聞いた。
「それは分からないが、いつも湖や丘を遊び場にしていたらしい。」とレオナルドが言った。
「大人が、よく言って聞かせないとな。」とジムが言った。
「ビリーがウルに、もう宇宙船に入らせないよう頼んだそうだ。」とレオナルドが言った。
「そうか。しかし、AIが停止状態になって世界は大混乱に陥った。一概に前の状態が良かったとは言い切れないが。」とジムが言った。
「現状は、メティスとフーシーの上にウルが立ったようなものだ。」とレオナルドが言った。 「もし、ウルがビリーの頼みを聞いてくれるのなら…。」とジムが言った。
「ビリーが人間に地球を返すようウルに頼んだが、芳しくないそうだ。」とレオナルドは言った。
「ビリーは、ウルがメティスをどうやって服従させたかを聞いたのかな。」とジムが言った。
「情報を遮断し、その後電源供給を止めたようだ、と言っていた。」とレオナルドが言った。
「『宇宙規範』違反だとウルは考えていないのかな。」とジムが言った。
「そのあたりも微妙だ。必ずしもウルとナンムの意見は一致していなかったようだ。」とレオナルドが言った。
「ウルは、AIによる支配のままがいいと考えているのかな。」とジムが言った。
「人間が多すぎて、地球にとって好ましくないと考えているようだ。」とレオナルドが言った。
「我々は、古来異星人の宇宙船に期待していたが、やはり手を付けてはいけないものだった。」とジムが言った。
「そうなるな。自分たちの危機は、自分たちの科学技術で解決しないといけない、これが教訓だ。」とレオナルドが言った。
「だが、完全に沈黙していたメティスとフーシーが、途中から急に動き出した理由は何なんだ。」とジムが言った。
「ビリーはね、ウルに服従を誓ったのだろう、と言っていた。」とレオナルドが言った。
「うぅむ。それは本当かね。」とジムが言った。「では、ウルが暴走しても止めることができないと言うことになるのかね。ナンムが生きていれば止められたのだろうが。」
「これも、ビリーから聞いたのだが、ウルとナンムは、主従関係にはなかったようだ。」とレオナルドが言った。
「どういうことだ。」とジムが言った。
「対等なんじゃないのかってね。」とレオナルドが言った。
「ますます分からん。」とジムが言った。
「以前、古来異星人は人間じゃないのではないか、という話をしたことがあったろう。」とレオナルドが言った。「ナンムは生体をもとに作られたアンドロイドで、ウルは母星で作られた人工知能だとしたら、相互に対等な関係、つまり補完しあう関係だったとも考えられる。」
「今はナンムがいなくなり、ウルだけになってしまって、暴走を始めているのかもしれないということか。」とジムが言った。
レオナルドがうなずいた。
「不時着したとき、ナンムは複数いたということだったかな。」とジムが聞いた。
「そうだ。バイオレットの記録によればね。」とレオナルドが言った。
「あの宇宙船には、もともと母星の人間は乗っていなかったということか。」とジムが言った。「では、月の異星人はどうだったのだろう。」
「彼らも生体アンドロイドだったのかもしれない。」とレオナルドが言った。
「ウルを止められるとしたら、彼らの母星の人間ということか。」とジムが言った。「だが、『宇宙規範』のことを、ウルは承知していないのか。他の星の生命体には干渉しないのではなかったのか。」
「そこなんだが、ウルが地球のAIと同じように母星の人間の知能を集積してできているとしたら、我々のAIと同じように不完全で、考え方に揺らぎが出るのではないだろうか。」とレオナルドが言った。
「そうだな。月の異星人は止むにやまれず、『宇宙規範』を曲解して行動していた。」とジムが言った。
「今は、それを制するものがいないということか。」とジムが言った。
そして、「そういえば、なぜ月の異星人が古来異星人の宇宙船に乗り込んできたとき、ウルは目覚めなかったんだろう。」と言った。
「あのとき宇宙船にやってきたのは、月の異星人に操られていた地球の人間と彼らの小型ドローンで、古来異星人のナンムと月の異星人は、そのドローンを介して話をしていた。」とレオナルドが言った。
「確かに、国連との交渉にやってきた月の異星人は衰えていて、歩くのも覚束なかった。」とジムが言った。「重力の弱い宇宙空間を旅してきて、月や火星に滞在していたとなると、そうなってしまうのだろうと考えていたのだが。」
「ナンムも、弱い重力操作しかできないと言っていた。」とレオナルドが言った。
「それも、我々には未知の技術だが。」とジムが言った。
「母星へ旅立っていった月の異星人に戻ってきてもらうしかないのだろうか。」とレオナルドが言った。
「いや、すでに太陽系外へ出ていってしまっているだろう。」とジムが言った。「アンドロイドでなかったとしても彼らを頼ることはできない。」
「耶摩国では、王朝の血統を追いきれなかった。」とレオナルドが言った。
「あの国は島国で長く鎖国をしていたから、濃淡はあっても民の多くに血縁関係があるはずだ。」とジムが言った。
「もしも、双子の母親から生体材料を譲り受けた理由が、その王朝の近縁だったからだとしたら…。」とレオナルドが言った。
「可能性は小さいが、双子と彼らの母星人に関りがあるとウルが判断したら…。」とジムが言った。
「ナンムに代わって、彼女らがウルを説得できるかもしれない。」とレオナルドが言った。
バイオレットに、ようやくレオナルドから連絡があった。
彼女は気持ちの高ぶりを抑えて、落ち着いた声で「お久しぶりです。」と言おうとしたが、とんでもなく高い声になってしまった。
「電話に出なくてすまなかった。盗聴されている可能性があると思ったんだ。」とレオナルドは言った。
「そうでしたか。それで、何か御用ですか。」とバイオレットは言ったが、今度はとても低い事務的な声になった。
「うん。実はジムと一緒に耶摩国に行ってきたんだ。」とレオナルドが言った。
「耶摩国って、マユのお母さんの母国ですよね。」とバイオレットが言った。
「耶摩国に面白い伝承があってね。口伝えされていたものを後に記録したもので、正史とは認められていないんだが。」とレオナルドが言った。
「話が長くなりそうですね。そちらにお伺いしましょうか。」とバイオレットが言った。
「いや、今から君の所へ行きたいのだが、いいかね。実は近くに来ているんだ。」とレオナルドが言った。
「そちらに監視の目があるようでしたら、私の家でも構いません。」とバイオレットは言った。
電話を切ると、バイオレットは、部屋の掃除に取り掛かった。
「さあ、大変。」
レオナルドと連絡が取れなくなってから、ずっと怠っていたのだ。
「食事の用意もした方がいいかしら。」
でも、そんな時間はなかった。すぐに玄関の呼び鈴が鳴った。
コスミック女史ことバイオレットは、古来異星人と双子の関係についての仮説を、レオナルドから聞いた。
そして、双子の妹のマイの住む父親の家を訪ねた。
コスミック女史は、双子の父に、地学研究所で会ったことがあった。
最初は、マユを連れ帰ろうとしたときで、二回目はマユが迎えを頼んだとき、三回目はマイとジョンの結婚式だった。
「お元気でしたか。」とコスミック女史が挨拶をした。
「うん。でも何の話。ジョンのことならもういいわ。彼にその気がないこ
はわかったし。」とマイが言った。
「別の話で来たのよ。」とコスミック女史が言った。
「あら、そうなのね。どんな話かしら。」とマイが言った。
「一緒に行ってもらいたいところがあるの。」とコスミック女史が言った。
「もしかして、またあの宇宙船。」とマイが聞いた。
「そうなの。力を貸して欲しいの。」とコスミック女史が言った。
「でも、あの人は死んじゃったでしょ。」とマイが言った。
「詳しいことは今話せないの。」とコスミック女史が言った。
「協力してあげたらどうかね。」とマイのお父さんが言った。
「マユも一緒なの。」とマイがコスミック女史に聞いた。
「そう。二人一緒に来て欲しいの。」とコスミック女史が言った。
「でも何のために行くの。またAIのことに関することなの。」とマイが聞いた。
「気になるわよね。」とコスミック女史が言った。「でも、詳しい話はレオナルド所長から直接聞いて欲しいの。」
「ビリーは一緒に行くの。ジョンは。」とマイが聞いた。
「ビリーには行ってもらうわ。ジョンに一緒に言って欲しいのなら、私から頼んでみるわ。」とコスミック女史が言った。
「ううん。ジョンには会いたくないわ。」とマイが言った。
「まだ、仲直りしていないの。」とコスミック女史が聞いた。
「どうでもいいでしょ。宇宙船に行くのはわかったわ。それで、いつ行くの。」とマイが聞いた。
「今から。」とコスミック女史が言った。
双子とコスミック女史は、地学観測所に行った。
そこにはレオナルド前所長とビリーが待っていた。もちろん、ウェザー氏とミネラル氏もいた。
宇宙船に行くのは、ビリーとコスミック女史と双子ということになった。
「あまりたくさんで行かない方がいいだろう。」と、レオナルドが言った。
四人は、地学観測所から車でビリーの小屋に向かった。
そこから秘密の地下通路を通って、宇宙船に行くことになっていた。
もうすぐ小屋が見えてくるところまで来たとき、「見かけない車がいるな。」とビリーが言った。
「誰かしら。」とコスミック女史が言った。
「無法者たちなら、警察が監視しているはずだけど。」とマユが言った。
それは、異星人対策部隊だった。
「どこへ行くつもり。」とレベッカ司令官が言って、ビリーのぼろ車を止めた。
「自分の小屋に戻るんだ。」とビリーが言った。
「そう、じゃあいいわ。でも私はこの人に聞きたいことがあるの。」と、コスミック女史に気がついたレベッカが言った。
「何かしら。」とコスミック女史が言った。
「今日、レオナルドに会ったのでしょう。何かベン司令官の話は聞かなかった。」とレベッカが言った。
「いいえ。聞いていません。」とバイオレットが言った。
「地学観測所に集まっていたわよね。何を企んでいるの。」とレベッカが言った。
「私たちは、これからビリーの小屋で食事をするだけよ。」とマユが口をはさんだ。
「じゃあ、私もその食事のご相伴にあずかろうかしら。」とレベッカが言った。
まずいことになった。この女が絡むと、話がこじれてしまう。
「あなたに、料理ができるのかしら。」と、思わずコスミック女史は言ってしまった。(ベンの秘密 続く)
ジムとレオナルドは、双子がウルの母星人の末裔ではないかと淡い期待を抱きます。
もはやそんなところまで、追い込まれてしまったのですね。
このままでは、地球の支配権はウルが握ることになってしまいます。
やはり、頼ってはいけない力でした。
もっとも、頼る前にウルが目覚めてしまったのですが…。
次回、最終回です。 Equisetum
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