メガコメットー古代人の贈り物ー⑨
(もう一人の父親 続き)
その日、ジョンは一番いいスーツを着て、マユから聞いていたカフェに行った。
ミネラル氏はもう来ていて、マユと話していた。ボブはいなかった。
約束の時間の数分前に、お父さんという人が現れた。
可能性はとても低いが、もしかしたらジョンの義理のお父さんになるかもしれない人だ。
「この人たちは誰かね。」とマユのお父さんが言った。
「私の働いている研究所の人で、この人はジョン。私の恋人。こちらはその先輩の方。」とマユが紹介した。
ジョンは、ふん、と言われたような気がした。
そして名刺を渡された。
ジョンも知っている有名な会社の名前が載っていた。
「研究員をしているのかね。」とマユのお父さんがジョンに聞いた。
「助手をしています。」とジョンは答えた。
ジョンの声はちょっと震えていた。
「僕は岩石担当の研究員です。」と、話したくてじりじりしていたミネラル氏が、聞かれてもいないのに言った。
そして「このふたりがつきあっているのは、僕が保証します。」といきなり言い出した。
「ジョンはいいやつで、ふたりは愛し合ってます。ほんとうです。」
お父さんはマユの方を振り向いた。
怖い顔をしていた。
「こいつは恋人ではないな。」とマユのお父さんが言った。
ミネラル氏が慌てて「いや、ジョンはあの、こう見えますがいいやつで。」と、また同じことを言った。
だがマユのお父さんは、もうミネラル氏を相手にしていなかった。
「ボブも、お前を持て余しているのじゃないか。」とお父さんは言った。
「そんなことない。」とマユが言った。
「なら、なんでここにいない。」とお父さんが言った。
そして「こんな偽物まで用意して、どういうつもりなんだ。」とジョンを指さした。
ミネラル氏が何か言いかけたが、マユのお父さんに右手で遮られて、言葉を飲み込んだ。
「言いたいことは無いのか。」とお父さんがマユに言った。
「いえ、僕たちはちゃんとつきあっています。あぁ、でも心配されるような関係じゃなくて・・・。」とジョンが言った。
「もう、いいわ。」とマユが言った。
「確かにこの人は恋人じゃないわ。でもいい友達なの。この人たちと別れたくないの。ボブもそうなの。口下手だから自分の気持ちをちゃんと伝えられないの。ビリーも・・・。」
「ビリーというのは誰かね。」とマユのお父さんが言った。
思わず、ミネラル氏とジョンは顔を見合わせた。
「話せないような相手なのかね。」
マユは黙ってしまった。
「荷物の準備ができていないようだから今日は引き上げる。次に来るまでに準備しておくんだな。そのときは何があっても連れて行くからな。」とマユのお父さんは言った。
話しはますます拗れてしまった。
マユのお父さんが去ったあと、ミネラル氏とジョンは、マユをボブの店へ送っていった。
ボブは、ふたりに「送ってきてくれて、ありがとな。」と言ったきりで、マユには何も言わなかった。
次の日、ミネラル氏とジョンは、所長に相談することにした。マユもこの研究所の一員なのだから。
「そうか、そんなことがあったんだね。」と所長は言った。「で、マユは行きたくないんだね。」とたずねた。
マユがうなずいた。
「でも本当のお父さんなんだろう。断ってしまっていいのかね。」と所長は再びたずねた。
再びマユがうなずいた。
「ビリーはどう言っているんだね。」と、思いだしたように所長が聞いた。
「それが話してないんです。」とジョンが代わって答えた。
「そうか、それで君が恋人の代わりになったんだね。」と、小さな微笑みを所長は浮かべた。
「話は分かった。ミネラル氏が一緒に行ったのが良かったかどうかは別として、なんとかマユがここに残ることができるよう、私も考えてみよう。」
所長はそのあと、知人の弁護士のところへ電話をしていた。
「よかったね。」とジョンが言ったが、マユは浮かない顔をしていた。
「やっぱり、ビリーにも話してみたらどう。」と言ったが、マユは返事をしなかった。
この話をしてみて、もしもビリーがマユを引き留めなかったら、彼女は深く傷つくだろう。
ジョンはマユに内緒でビリーに話すことにした。
ジョンからマユのお父さんのことを聞いて、ビリーは驚いた表情になった。
「カイが入院してから、たびたび様子を見に来てくれて感謝してたんだ。だけどなかなか言葉にできなくて。僕はマユに甘えていた。彼女の気持ちなどあまり考えたことがなかった。でも、僕にとってもマユは大切な人だ。できることなら、ずっとそばにいてほしい。」
「それ、そのままマユに伝えていいですか。」とジョンは言った。
「いや、ちょっとそれは困る。」とビリーが慌てて言った。
「そうですね。それは直接マユに言ってあげてください。」
僕はちょっと人が好すぎるかな、とジョンは思った。
「君だってそうなんだろう。マユに残ってほしいから相談に来たんだろう。」とビリーが言った。
「残ってほしいのは、研究所のほかのみんなも一緒ですよ。」とジョンは言った。
父と娘
所長が連絡を取り、マユのお父さんが研究所にやってきた。
マユのお父さんは食堂に通されたのだが、食堂にも廊下にも人がたくさんいたので、驚いた様子だった。
食堂の人たちだけでなく研究員たちも集まっていた。
みんな黙っていた。
所長が口を開こうとしたとき、ビリーがマユのお父さんの前に出ると、意を決したように「僕がビリーです。」と話し始めた。
「そうか、君がビリーか。」と、とまどったようにマユのお父さんが言った。
きっと想像していたより年齢が上だったのだろう。
ビリーは今までで一番きちんとした服を着ていた。
「まだ申し込んでいませんが、マユさんとおつきあいしたいと思っています。」
人がたくさんいる中で、ビリーがここまで言うとは思っていなかったので、みんな驚いた。
マユが頬を染めている。
「今度はこの男かね。」とマユのお父さんが言った。信用していない顔だ。
所長が話し始めた。
「マユももう大人です。自分で判断できる年齢です。それは法律上も守られています。」
「どうか、お嬢さんの気持ちを尊重してあげられないでしょうか。」
マユのお父さんは、首を横に振った。
「娘を引き留めようとされるお気持ちはわかりますが・・・。」
そこに、バタンという音がして、男が一人食堂に入ってきた。
ボブだった。何も言わずマユのそばに立った。
所長が言った。
「この三人の気持ちは恋と言うにはほど遠いと私は思いますが、お互いを思いあう気持ちは本物だと思っています。」
「この研究所の連中も、みんなマユに残ってもらいたいと思っています。そうだよね。」
そこにいたみんなが一斉にうなずいた。
マユが両手で顔を覆った。
ミネラル氏が何か言いかけたが、コスミック女史が黙らせた。
黙っていたボブが、マユの肩をやさしく抱いた。
そして「オレからもお願いします。どうか娘さんをこのまま預からせてください。一生のお願いです。この子は宝物です。いつか嫁に行くことがあってもずっと自分の娘です。大事にします。」と言った。
ジョンの目に涙が浮かんできた。ジョンは、マユがボブを好きな理由がわかるような気がした。
「そうですか。」とマユのお父さんは言うと、暫く黙り込んだ。
そしてちょっと目頭を拭いた。
「その言葉を聞いて、少し安心しました。」と言って、マユのお父さんは周囲の人たちを見渡した。
「私は勘違いをしていたようです。ここでマユは幸せに過ごしていたのですね。」と言った。
それからボブの前に歩いてきて「失礼なことをいろいろ言って申し訳なかった。」と言って、マユのお父さんはボブの手を取った。
そして「人の気持ちがわかる子に育っている。ボブさん、ありがとう。」と言った。
横にいたマユが、ボブの太い腕にすがった。
マユのお父さんは、そこにいた一人一人の手を握って回った。
「私は引き上げることにします。」とマユのお父さんは言った。
「ですが、また寄らせてください。」と所長に言った。
「喜んで。」と所長が言って、マユのお父さんの手を握り返した。
お父さんは娘を乗せるはずだった車で帰っていった。
マユがボブに聞いた。
「店はどうしたの。」
「休みにしてきた。」とボブが言った。
マユがビリーに聞いた。
「あれは、本気と受け止めていいの。」
「えっ、それは。」と言ってビリーが言葉に詰まったので、みんなが笑い出した。
何のことか分からないまま、ボブもニコニコしていた。
実父に理解してもらえてよかったですね。彼はやがて研究所の支援者になります。
次の第三章では謎の飛翔体が登場します。
巨大彗星と関係があるのでしょうか? Equisetum
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