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新メガコメットー古代人の正体ー⑭

参謀本部
 ベン司令官は、警護を理由に少将に監視を付けることにした。
 今のところ異星人が一般人に直接危害を加える可能性は低いものの、宇宙局と地学研究所の襲撃が起きてからは、軍の施設や関係者も襲われる可能性が高いと考えられていたので、「異星人に操られている地球人によって襲撃されるかもしれません。」と司令官は少将に言った。
 もちろん少将はその必要は無いと言ったが、異星人に関する任務は司令官にゆだねられていて、拒むことはできなかった。
 いつでもすぐに救援に迎えるようにと、GPS機能と軍専用の周波数を発する時計を、少将に付けてもらうことになった。少将の位置情報は、常時部隊の事務所に届くようになった。
 司令官はそのデータを見ていて、ここ一週間毎日のように、少将が帰宅して暫くすると、動きが停まることに気が付いた。時計を置いて出かけているように思われた。
 警護をしている隊員からの報告では、以前から飼い犬の散歩をしたりお孫さんと外出をしている、ということだった。
 少将の電話や通信は全て傍受していたが、怪しい内容や身元の分からない相手との交信は無かった。
 少将自身がそうされていることを予想しているだろうから、電話やインターネット通信以外の方法で、外部と連絡を取っている可能性があった。
 GPSの動きが一定時間途切れるのは、その連絡のためではないかと司令官は推測した。
 秘密に異星人側と何らかの連絡を取っているように思われた。

 しばらくして、司令官は総参謀長に呼び出された。
 「少将から苦情が届いてね。君が意味もなく少将を監視しているとは思えないのだが、君は彼を疑っているのかね。」と総参謀長が司令官に訊ねた。
 「そのとおりです。」と司令官は答えた。
 「何か確証はあるのかね。」と総参謀長が聞いた。
 「証拠と言えるものはありませんが、私の行動を監視するよう、副司令官に命じておりました。」と司令官は言った。
 「レベッカ少佐にかね。」と総参謀長が言った。
 「はい。」と司令官は言った。
 「そうか。少将が何を企てていると、君は思っているのかね。」と総参謀長が聞いた。
 「古代人の技術を我々が得ることを、警戒しているのではないかと思われます。」と司令官は言った。
 「それは、どういうことかね。少将が月の異星人側に立っているということかね。」と総参謀長が聞いた。
 「そういう可能性があるのではないかと警戒しています。」と司令官は言った。
 「そうか。」と総参謀長が言った。
 そして「今日は何も聞かなかったことにしよう。だが、証拠を得たら直ちに報告するように。そこから先は、監察室の任務になるからね。」と言った。
 「承知しました。」と司令官は言った。
 「レベッカはどうしているのかね。異動させる必要は無いのかね。」と総参謀長は聞いた。
 「監視を命じられていたと私に報告しました。」と司令官は言った。
 「少将はそのことを知っているのかね。」と総参謀長が聞いた。
 「知らないと思います。」と司令官は言った。
 「彼女は逆スパイということかね。」と総参謀長が訊ねたが、司令官は答えなかった。
 「他に何か報告しておくことはあるかね。」と総参謀長が聞いた。
 「報告ではありませんが、少将の近親者の警護と監視が必要と考えております。」と司令官は言った。
 「それはどういうことかね。少将の関係者に危険が及ぶということかね。」と総参謀長が訊ねた。
 「すでに及んでいるのかもしれません。」と司令官は答えた。

少将の秘密
 少将が何かを懸念し、それを軍に秘密にしていることは、間違いないように思われた。
 調査の結果、少将の家族の所在と安否が確認できたので、親族まで調査の範囲を広げた。
 だが、トラブルに巻き込まれているような情報は得られなかった。
 少将の銀行口座に、不審な入金も無かった。
 司令官は、自分の思い過ごしだろうかと考えた。
 だが、副司令官のレベッカ少佐は、「もう少し調べてみましょう。」と司令官に言った。
 彼女は、少将の家族の警護官として、少将の自宅に出入りを始めた。
 やがて少佐は、少将の孫のエミリの表情が暗いのに気が付いた。何かを心配しているようでもあった。
 少佐が「何か心配なことでもあるの。」と訊ねると、「いなくなったの。」とエミリは答えた。
 「誰が。」と少佐はエミリに聞いた。
 「私の友だち。」とエミリは言った。
 「学校の。」と少佐は聞いた。
 「ううん。」とエミリは首を振ると黙ってしまった。
 話すことも辛いのだろうと思い、少佐はそれ以上聞くのをためらった。
 少将が気に掛けているのは、孫に元気がないことだろうか、と少佐は考えた。
 だが、少将が一定の時間GPS時計を携帯せずにいることが、少佐は気になった。

 地元を管轄する警察に問合せてみたが、最近小さい子供が失踪したり事故に巻き込まれたりしたことは無いということだった。友だちが引っ越していっただけなのだろうかとも考えたが、そうでもないようだった。もともとこの周辺に住んでいない子なのだろうか、と少佐は思いをめぐらした。
 「いなくなった子は、女の子なのよね。」と少佐はエミリに聞いた。
 エミリはうなずくと「ガーネットというの。」と言った。
 「背丈はどれくらい。」と少佐は聞いた。
 「わからないけど、私より小さい。」とエミリは言った。
 「最後に会ったとき、どんな服を着ていた。」と少佐は聞いた。
 「青と赤のチェックで、白いフリルがついてる。」とエミリは言った。
 「何かネックレスとかリボンとか付けてた。」と少佐は聞いた。
 「首にリボンを付けてた。」とエミリは言った。
 「蝶ネクタイみたいにかな。」と少佐は聞いた。
 「そう。」とエミリは言った。
 「靴は、どんなの履いてた。」と少佐は聞いた。
 「とっても小さいの。」とエミリが言った。
 少佐は、はたと気が付いた。
 「その友だちには、しっぽがあるかな。」と少佐は聞いた。
 エミリがうなずいた。
 「犬の友だちかな。それとも猫ちゃんかな。」と少佐が笑顔になって聞いた。
 「犬なの。」とエミリが言った。
 「そうか、それは心配ね。」と少佐は言うと、しゃがんでエミリを抱きしめた。
 そして、「いなくなったのはいつのことかな。」と少佐は聞いた。
 「先月の最後の金曜日。」とエミリは言った。
 「最後に見かけたのはどこ。」と少佐は聞いた。
 「うちの居間。」とエミリは言った。
 「おじいちゃんも心配しているのかな。」と少佐は聞いた。
 「うん。もともとおじいちゃんが連れてきて、飼い始めたの。」とエミリは言った。
 「じゃあ、おじいちゃんも探しているのね。」と少佐は聞いた。
 エミリがうなずいた。

 レベッカ少佐は、事の次第をベン司令官に報告した。
 司令官がどんな顔で私の報告を聞くだろうかと期待していたのだが、彼はいつもと表情を変えなかった。
 司令官は「そうか。」と言うと、「捜索チームを編成し、そのガーネットちゃんを、すぐ保護するように。」と少佐に真面目な顔で命じた。
 少佐は吹き出しそうになったが、必死にこらえた。
 彼女は「了解しました。」と言った。
 「エミリ嬢と少将が、その子を探しに勝手に出かけられては、警備上重大な問題が生じる。」と司令官は言った。
 少佐が指揮するチームの捜索によって、犬のガーネットちゃんは、すぐに見つかった。
 少将の家の庭の物置小屋の壁のすきまに入り込み、動けなくなっていて、鳴き声も上げられないくらいに衰弱していたのだ。
 少将は感謝し、GPS付の時計を持ち歩かなかったことを謝った。
 「あれを持って、うろうろと捜し歩いたら、不審に思われると考えたのだ。」と少将は言った。

 軍に裏切者がいるかもしれないというのは、取り越し苦労だったように思われた。だが、司令官は警戒を緩めなかった。
 司令官は、レベッカ少佐を追尾していたドローンを調べてみたのだが、軍のものではなかった。ドローンそのものは、他国で製造された物のようで、部品も民生品が使われていた。
 国連のなかの月の異星人側に立つ人物によるものなのかもしれない、と司令官は考えた。あの地学研究所のスタッフの中に、こんなことをするような人物がいるとは思えなかった。
 それとも、あのドローンが追尾していたのは、少佐ではなく、司令官である自分だったのだろうか。
 偽物の国連事務総長とジム局長代理が月の異星人と会見したとき、少佐は会場の外で警備をしていて、中継映像に映り込むことは無かったから、異星人に目を付けられたとしたら、自分の方かもしれない。幸い、自分には警護を要するような家族はいない。
 だが念のため、少佐の両親とパートナーを警護するべきだろうか、と司令官は考えた。

わな
 レベッカ少佐は、ここまでの一連のできごとから、不審な点を洗い出してみた。
 部隊の行動が失敗したことがいくつかあった。
 その一つは、ビリーという一般人を尾行していながら、大学の正門前で見失い、彼が拉致されたことだった。
 そのとき、尾行をしていた隊員は、旅人らしき人物から声をかけられて目を離したすきに、ビリーを連れ去られてしまった。その旅人が意図的に隊員に声をかけたとなると、隊員の尾行を知っていたことになる。
 その旅人は初老の男で、隊員がビリーを探して大学の構内に入り、正門前に戻ったときには、いなくなっていた。
 ビリーは、正門前に群れていた鳩のうちの一羽と目を合わせた瞬間に気が遠くなった、と司令官に話した。それは鳥を模倣したドローンだったのだろうから、操作していた人物がいることになる。さらに、ビリーを介抱するかのように装って、車で連れ去った男がいるから、少なくとも二人もしくは三人が関与したことになる。
 もう一つは、宇宙局と地学研究所が襲われて火事になった事件だ。
 あのときは、レーダーだけでなく特殊なフィルターを装着した全天型カメラでも監視していて、晴れて見通しも良かったのにもかかわらず、すり抜けられてしまった。幸い建物を直接監視していたので、あやうく消火は間に合ったが。
 月の異星人が軍の監視方法を知っていて、ポリヘドロンに何か細工をしたのだろうか。
 最も甚大な被害が出たのは、プラズマによる電子機器の障害と、あのウイルスの拡散だった。
 だが、あれに軍の誰かが関与したとは思えない。
 一方、妨害もなく成功したこともあった。異星人と国連が会見したときだ。
 少佐は、楽団員に紛していた秘密を知らなかった人物で、かつビリーの尾行を知っていた人物を調べた。
 それは数十人いた。会見の際に自分と一緒に、会場の外で警備をしていた小隊の隊員たちだった。
 消防車に乗っていた隊員たちはどうだろう。会見が失敗に終わると襲撃される可能性がある、と司令官から聞かされていたら、楽団員のことを知らなくても、特に不審には思わなかっただろう。
 この中に、異星人に協力している者がいるのだろうか。
 それとも、私たちが思いもよらないような探査システムを、月の異星人は持っているのだろうか。(わな 続く)


 みな疑心暗鬼に陥っていたようですね。でも月の異星人の嫌がらせは続きます。  Equisetum

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