新メガコメットー古代人の正体ー⑯
第五章 双子の母の国
マイの決心
お父さんが「今日は用事があるから、先に帰っていてくれ。」と言うので、マイはひとりで父の経営する会社から自宅に戻った。
帰宅してみると、双子の姉のマユは、居間で本を読んでいるところだった。
「大学の教科書。」とマイが聞くと、マユは頭を横に振った。
マユは社会人入学で、大学に通っていた。
マイが覗き込んで「宇宙の本。」と聞くと、縦に振った。
「面白い。」とマイは聞いた。
「まあね。」とマユは言った。
マユは、ページを戻って読み返したり、図を眺めたりしていた。
マイはその様子を見ていた。
「最近、ビリーと連絡を取ってるの。」と、少ししてからマイは聞いた。
マユは頭を横に振った。
「じゃあ、ジョンは。」とマイは聞いた。
今度は縦に振った。
夕食まで少し時間があったので、マイはそのまま居間にいて、マユが本を読んでいる姿を眺めていた。
掛時計がボーンボーンと鳴ったので、マユはしおりを挟んで本を閉じた。
父もいないし、いい機会だと思って、マイは言った。「そろそろ、どっちかに決めたらどうなの。」
「何を。」と両腕を上に伸ばしながら、マユが言った。
「ビリーにするのか、ジョンにするのか。」とマイは言った。
ビリーはかつてマユがいた地学研究所の食堂で働いていて、ジョンはその研究所の研究員だった。
「何を決めなくちゃいけないの。」と、マユが欠伸《あくび》をしながら言った。
「だから、どっちとお付合いするの、ってこと。」とマイは言った。
マユはとぼけているかしら、とマイは思った。
「お姉ちゃんは、欲張りよ。」とマイが言った。「どっちかつかずじゃ、あの二人も困るんじゃない。」
「別に困ってないと思うけど。」とマユは言った。
「困ってるわよ。それに私も。」とマイは言った。
マユがまじまじとマイの顔を見て、「あなた、もしかしてジョンのこと本気なの。」と聞いた。
「本気じゃないって、いつ言ったのよ。」とマイは言った。
あまり考えてみたことが無かったけれど、本当のところ、どうなのだろう。年令的にはジョンの方が近くて話も合う、とマユは思った。だけどビリーは、放っておけないところがある。掃除はしないし、ゴミは貯めこむし、食事を作っても洗い物はしない。どうかすると何日も食べていなかったりする。畑の種蒔きはいいとして、収穫は遅れ気味だ。私がお節介するから、いつまでも自立しないのかしら。あの人は、コーヒーだけ飲んでたらいいのかしら。もしかしたら、あの人が一番大切に思っているのは、飼い犬のカイなのかしら。
「耶摩国では、姉から順に結婚するって聞いたわ。上が閊えて結婚できない妹は、『行き遅れ』って言われるそうよ。」とマイが言ったが、「同じ日に生まれたのに、後先なんて関係ないでしょ。」とマユは言った。
本当に「行き遅れ」って言うのかどうかは知らないけど、私はそばにいて世話をやいたり励ましたりのお節介が好きなだけで、その対象がたまたまあの二人だったのかもしれない。入学してこれまで、男子学生からのお誘いが無かったわけではないけれど、自分の年齢の方がずっと上なので、応じたことは一度もない。田舎育ちで話が合うとも思えなかった。
まあ、大学に勉強しに来たのだし、と思った。
マユは養父のボブのことを思った。
実父は、卒業後にボブのところへ戻ることを認めてくれていて、むしろ、あの街の人たちに感謝していた。
予定通り卒業し、ボブのところへ戻ってあげなければ、と思った。
ボブもいい年だし、休ませてあげなければいけない、とも思った。
一番誰を優先するかと考えたら、やっぱりボブだった。
なので、ジョンとビリーのどっちなの、とマイに聞かれても、答えられなかった。
でも、マイが本気なのだとしたら。
「私に構わず、好きなようにしたらいいじゃない。」とマユは言った。
「それでいいのね。」とマイが念を押した。
ジョンのどこがいいのかしら。頼りないし、体力はないし、マイも私と同じで、お節介が好きなのかしら。やっぱり双子ねと思った。
「何、ニヤニヤしてるの。」とマイが聞いた。
「何でもない。」とマユは言った。
「何のお話ですか。」と、家政婦さんがやってきて言った。
そして、「夕食の用意ができましたよ。」と言って、双子に食堂に来るよう促した。
マイが「スープが冷めてしまいます。」と、家政婦さんに代わって言った。
双子は毎日、家政婦さんにそう言われていた。
マユはビリーに電話するたびに、「食後に必ずお鍋と食器を洗うように。」と言った。
「不要なものをため込まないように。ごみの分別もちゃんとするように。」とも言った。
ビリーの食事のメニューを考えて、毎週送った。
食料品が慢性的に不足しているので、ビリーの小屋の近所の農場か、小屋の横の畑で収穫できるようなものを材料に考えた。
自分がそばにいられないのが、とてももどかしかった。
地学研究所の宇宙担当研究員のコスミック女史は、レオナルド所長にバイオレットと呼んでもらえるようになって、嬉しく思っていた。
先生と生徒に戻っただけの関係だったが、ついに所長の家に行ってお茶も飲んだ。
ただ、それ以上の何かを求めていたのかと自問しても、何も思いつかなかった。
母は、結婚はまだかと言ってくる。父は、帰ってくることを望んでいる。
成り行きに任せるしかないと思った。
なので、マユから相談があったときも、「こういうものは成り行きよ。」と先輩ぶって言った。
「何かきっかけがあれば、一気に進むわよ。」とも言った。
でもそれは自分自身に向けた言葉でもあった。
何かのきっかけで、自分自身の気持ちも変わるのかもしれない。
ふっと、ミネラル氏のことが頭に浮かんできた。お調子者だけど、ちょっと憎めないところもあった。
コスミック女史は頭を振った。こんなこと考えていないで研究に集中しなくては、と思った。
マユとマイはお節介好きだが、私もあの双子に似ているのかもしれない。どうも、ちょっともの足りない人間に興味を持つ性格のようだ、とコスミック女史は思った。
マイは休暇を取った。
地学研究所のある街へ出かけるときは、いつもマユと一緒だったが、今回はひとりで行くことにした。
自分とマユのどっちを選ぶのか、はっきりさせようと思ったのだ。電話で話しても、ジョンはいつもモゴモゴ言うばかりだったからだ。
列車を降りると、駅からジョンに電話をかけた。
「今、どこにいるって。」と、電話に出たジョンは驚いて言った。
マイが街に来ることを、聞いていなかったのだ。
「マユから何も聞いてないよ。」とジョンは言った。
「いつもいつも、マユ、マユってばっかり。」とマイは怖い声で言った。そして「ここに来るってことは、誰にも話してないわ。」と言った。
「すぐ、迎えに行くよ。」とジョンは言った。
何かまずいことでも言ったっけ、とジョンは思った。何も叱られるようなことをした覚えはなかった。だが、ここまでやってきたということは、何か気を悪くするようなことをしたに違いない。
もちろん、会えるのは嬉しかったのだが、素直に喜べなかった。逃げ出したい気分になったが、そうしたら、さらに彼女を怒らせるだろう。今日研究所の仕事が休みだということは、マユから聞いたのかもしれない。なんでマユは一緒に来てくれなかったのだろう。授業を休めなかったのだろうか。
マイがまだ昼食を食べていないというので、ふたりは駅前のホテルの一階のレストランに入った。
「今日は、ボブのところに泊っていくの。」とジョンが聞いた。
「すぐに帰るわ。」とマイは言った。
「何しに来たの。」とジョンは言ってから、しまったと思った。
怒ったときに眉が吊り上がるのは、マユとそっくりだ。
「あなたって人は、本当に人の気持ちが分からないのね。」とマイは言った。
ジョンは、何も言えなくなってしまった。
「あなたは、マユをどう思ってるの。」とマイが聞いた。
「どうって、仲のいい友だち。」とジョンは小さい声で言った。
「いつもそう言って、はぐらかす。」とマイは言った。
「じゃあ、私のことはどう思ってるの。」とマイが聞いた。
「マイのことは。」とジョンは言葉に詰まった。
「何なのよ。」とマイが聞いた。
「友だち。」とジョンは言った。
「じゃあ、どっちが好きなの。」とマイが聞いた。
「それは。」とジョンは再び言葉に詰まった。
「どっちも、というのはだめよ。」とマイが言った。
「似てるからって、どっちもはだめ。人格が別なんですからね。」
「はっきりしないんだったら、私はお父さんの勧める人と結婚するわ。」と、まくしたてた。
「えっ、そんな話があるの。」とジョンは言った。
「そうよ、その人とお付き合い始めるからね。」とマイが言った。
ついに、ジョンは降参した。
マユがビリーと付き合うのは構わなかったが、マイがほかの人と付き合うのは嫌だった。
好きっていうのは、こういうことなのかな、とジョンは思った。
昼食を食べ終えたマイは、意気揚々と帰りの列車に乗った。
「どこも寄らなくていいの。」とジョンが聞いた。
「みんなに、よろしく言っといて。」とマイは言った。
マユは、帰ってきたマイからその話を聞いた。
「『どうか、その人と結婚しないでください。』、だって。」とマイは言った。
「お父さんからそんな話があったの。」とマユが聞いた。
「何のこと。」とマイが言った。
「結婚を勧められているって。」とマユが言った。
「そんなの嘘に決まってるじゃない。」とマイが言った。
「それじゃ、ジョンをだましたのね。可哀そうに。」とマユが言った。
「ちっとも可哀そうじゃないわよ。私と付き合えるんだから。」とマイが言った。
「あんたって子は。」と、あっけにとられてマユが言った。
「お姉ちゃんこそ、黙ってビリーの電話にGPSアプリを仕掛けてたじゃない。」とマイが言った。
あぁ、私たちはやっぱり双子だわ。あのアプリのおかげで助け出すことができたとはいえ、ビリーには伝えていなかった。私にマイのことを叱る資格はない、とマユは思った。
「わかったわよ。でも今度からは、ちゃんと言ってから出かけてね。」とマユは言った。
「それより、もうジョンに思わせぶりな態度をとらないでよ。」とマイが言った。
「私はそんなことしてないわ。」とマユが言った。
「そう思ってるのは、お姉ちゃんだけよ。」とマイが言った。
あなたこそ、と言いそうになってマユはやめた。
そこに家政婦さんがやってきて、「スープが冷めてしまいます。」と言った。
そして、「何度もお呼びしたのに、何か大事なお話をされていたのですか。」と双子に聞いた。
「そう、重大なこと。」と、マイが機嫌よく言った。
家政婦さんはマユのほうを振り向いて、「おや、もしかしたら、マイさんに何か差し上げたのですか。」と言った。
マユは頭を横に振った。
家政婦さんは再びマイのほうを見て、「小さいころから欲しいものがあると駄々をこねられて。旦那様があきらめて用意してこられると、いつもそんなお顔をされていらっしゃいましたねぇ。」と言った。そして「そう言えば、あのお人形はどうされたのですか。ずっと見かけませんね。」と続けて言った。
さすがに、渋い顔をしていたマユも吹きだした。
今回は月の異星人が登場しませんでした。
このまま、おとなしくしているとは思えません。
彼らは地球をどうしたいと考えているのでしょうか。
そして、マイとジョンの関係は…? Equisetum
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