バヤリースオレンジの記憶
私が子どもの頃、外食で飲むジュースと言えば「バヤリースオレンジ」だった。
ファミレスやレストランでオレンジジュースを頼むと、決まって冷えたガラス瓶のバヤリースオレンジと、氷の入ったコップが運ばれてきたものだ。
幼かった私は、「世の中のオレンジジュースというのは、これしかないんだ」と本気で思っていたほどだ。
今でも、あのズッシリとした瓶のバヤリースを思い浮かべると、当時の黄金色と甘酸っぱい味が、思い出と一緒に蘇ってくる。それくらい、私にとって深い記憶と結びついた特別な飲み物だ。
特に今でも鮮明に覚えているのは、3歳の誕生日のお祝いの日のこと。
当時、近所にあったレストランへ、両親と祖父母が連れて行ってくれた。
「今日は好きなものを何でも食べていいんだよ」
そう言われて、私が目を輝かせて頼んだのは、大好きな「お子様ランチ」、温かい「ポタージュスープ」、そして「バヤリースオレンジ」だった。
テーブルに届き、カシャンと栓抜きで瓶の蓋が外される。 トクトクと黄金色の液体がコップに注がれていく様子を見つめながら、私は猛烈に興奮していた。
「早く飲みたい!」
そんな気持ちが高ぶりすぎて、まだ1本目すら一口も飲んでいないのに、頭の中では「2本目も頼んでいいのかな……」なんてことを必死に考えていたくらいだ。
3歳の頃の記憶なんて、普通はほとんど残っていない。 それでもあの「瓶のバヤリースが注がれた瞬間」のワクワク感だけは、30年以上経った今でもハッキリと思い出せる。
あれから時は流れ、私にも当時の自分と同じ「3歳になる息子」がいる。
今では瓶のバヤリースを見かけることも少なくなり、ジュースの選択肢も無限に増えた。 けれど、息子が美味しそうにジュースを飲みながら目を輝かせている姿を見るたび、ふとあの日のレストランのテーブルを思い出す。
そのレストランはもうなくなってしまったけれど、店の風景は今でも頭の中に残っている。あの時、私を見つめていた両親や祖父母も、今の私と同じように愛おしい気持ちでジュースを飲む私を眺めていたのだろうか。
一杯のバヤリースオレンジが届けてくれたのは、単なる甘いジュースの味だけではない。 「今日は特別な日なんだ」というワクワク感と、家族から注がれていた温かい愛の記憶そのものだったのだと思う。
今度のお休みには、久しぶりにバヤリースを買ってきて、今度は私が息子のコップへ「トクトク」と注いであげようと思う。
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