【映画感想】「第三の男」| 第三のビール禁止
戦後ウィーンを舞台にしたサスペンスの名作。
“光と影の魔術師”とも称されるレンブラントの技法を思わせるライティング「レンブラントライト」を活かした、モノクロ映像の美しさが際立つ作品です。
監督はキャロル・リード。
オーソン・ウェルズ、ジョゼフ・コットン、アリダ・ヴァリといった豪華キャストも見どころです。
あらすじ
第二次大戦後、連合国による分割統治下のウィーン。
作家ホリー・マーチンスは、旧友ハリー・ライムの仕事の誘いで現地を訪れるが、到着早々、彼の“死”を知らされる。
しかし、事故現場には「三人の男がいた」という証言が残っていた。
存在しないはずの“第三の男”。
ホリーは真相を追ううちに、やがて想像もしなかった事実へと辿り着く――。
感想
物語の核になるのは、「第三の男は誰か?」という一点。
そして結論から言うと、この“第三の男”――
死んだはずのハリー・ライム本人です。
事故も葬儀も偽装。いわゆる身代わりトリック。
ここから一気に物語の温度が上がっていきます。
特に印象的なのが、観覧車の中での再会シーン。
ハリーはこう言い放ちます。
「ボルジア家は血を流したがルネサンスを生んだ。
スイスは平和だが鳩時計しかない。」
この価値観、なかなか強烈です。
暴力や混乱の時代こそ文化を生み、平和は停滞を招く――
一見それっぽく聞こえるけど、素直には飲み込みにくい理屈。
たしかに、不満や欠乏が発明や創造を生む側面はある。
でもだからといって「悪徳こそが文化を育てる」と言い切るのは、どこか違和感が残るんですよね。
破壊する者は“きっかけ”にはなれても、“創る者”ではないはずで。
このあたり、観る側に考えを投げてくるのがこの作品の面白さだと思います。
そしてもう一つの軸が、人間関係のややこしさ。
ホリーはハリーの恋人アンナに惹かれ、彼女を救うためにハリーを裏切る決意をします。
……が、当のアンナはハリーに盲目的な愛を注いでいて、ホリーを容赦なく拒絶。
ここ、かなりリアルです。
人って、「好きな人の敵=自分の敵」になりがちなんですよね。
正しさよりも感情が優先される瞬間。
ホリーの行動は決して間違いじゃないのに、まったく報われないのが切ないところです。
音楽も特徴的で、アントン・カラスによるチターの旋律が全編に流れます。
ただこれが、のどかすぎて逆に不安になるという不思議な感覚。
サスペンスとのギャップがクセになります。
そしてタイトル回収的に言うなら――
観ながらビールは飲まないほうがいいです。
登場人物が多くて関係も複雑なので、アルコールが入ると普通に迷子になります。
(エビスのCMを思い出して飲みたくなるけど、そこは我慢で)
演出面は文句なし。
闇の中からふっと顔が浮かび上がるライティング、
ウィーンの観覧車を見上げる構図、
そして下水道での追跡劇――
どれも“光と影”の使い方が抜群にうまい。
ラストシーンの静けさと余韻も含めて、映画史に残る一本なのは間違いありません。
ストーリーは後半に向かうほど加速し、映像美と相まってどんどん引き込まれていきます。
クラシック映画ながら、今観ても十分に楽しめる完成度の高い作品でした。
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