レヌモン・クノヌ「ダフィット・ヒルベルトによる文孊基瀎論」

【原兞Raymond Queneau, « Les Fondements de la Littérature d'aprÚs David Hilbet » dans BibliothÚque oulipienne vol. 1, 1987】
【『文䜓緎習』『地䞋鉄のザゞ』『ある歎史モデル』など実隓的䜜颚で知られるレヌモン・クノヌ1903-1976が、ヒルベルト『幟䜕孊基瀎論』の「点」「盎線」「平面」を「単語」「文」「段萜」に眮き換えお文孊の公理系を䜜ろうずした、りリポらしい蚀語遊戯の小品です。は原文にあるもの、脚蚻は蚳者によるもの、倪字は原文むタリックや倧文字による匷調です】

ハレでりィヌナヌもちろんノヌバヌトではない[1]によるデザルグの定理やパップスの定理[2]に関する講挔を聎いたあず、ダフィット・ヒルベルトは、ベルリン駅でケヌニヒスベルク行の列車を埅ちながら、思わしげに呟いた。「点や盎線や平面の代わりに、テヌブルや怅子やビアマグ[3]ずいう蚀葉を䜿っおも同じこずだ」。この考察から、1899幎に『幟䜕孊基瀎論』ずいう著䜜が生たれ、その䞭で著者は、ナヌクリッド幟䜕孊に぀いお、おたけに他にも幟぀かの幟䜕孊に぀いおの公理系を、決定的にあるいはひずたず決定的に確立した。この茝かしい先䟋に觊発されお、わたしはここで、ヒルベルトの諞呜題における「点」「盎線」「平面」ずいう蚀葉を、それぞれ「単語」「文」「段萜」に眮き換え、文孊の公理系を提瀺する。

『幟䜕孊基瀎論』は珟圚フランス語に翻蚳されおいるポヌル・ロシェ蚳、デュノド瀟、パリ、1971ので、読者は容易に元の定匏を参照できるだろう。ヒルベルトが五぀の公理矀を明瀺しおいるこずを思い出そう、すなわち、結合、順序、合同、平行線、連続性だ。

公理矀I
結合の諞公理

I, 1. – 二぀の単語に察し、これらを含む䞀぀の文が存圚する。

蚻釈明らかである。䟋「ラ」ず「ら」ずいう二぀の単語があるずするず、この二぀の単語を含む「ノァむオリン奏者がラの音を女性歌手らに瀺す」ずいう䞀぀の文が存圚する。

I, 2. – 二぀の単語に察し、これらを含む文は䞀぀より倚くは存圚しない。

蚻釈こちらは逆に、驚きかもしれない。
しかし、仮に「長いこず」ず「寝おいた」ずいう二぀の単語を考えおみるず、これらの単語を含む文、すなわち「長いこずわたしは早くに寝おいた[4]」がひずたび曞かれたならば、あらゆる他の衚珟、たずえば「長いこずわたしはさっさず寝おいた」や「長いこずわたしは遅くないうちに寝おいた」が、この公理によっお棄华されるべき疑䌌文にすぎないこずは明らかである。
補蚻もちろん、もし「長いこずわたしはさっさず寝おいた」ず曞いたら、公理I, 2によっお䞍採甚ずせねばならないのは「長いこずわたしは早くに寝おいた」だ。蚀い換えれば、『倱われた時を求めお』を二回曞くこずはできない。

I, 3 – 䞀぀の文のうちには少なくずも二぀の単語が存圚する。䞀぀の文に属さない少なくずも䞉぀の単語が存圚する。

蚻釈したがっお、䞀぀の単語のみの文は存圚しない。「はい」「いいえ」「おヌい」「おい」は文ではない。公理の埌半に぀いおしたがっお、䜿われおいる蚀語は少なくずも䞉語を含むず考えられるフランス語に぀いおいえば、圓たり前である、たた他方で、ある蚀語の党おの単語あるいは䞀語たたは二語を陀く党おの単語を含む文の可胜性は排陀される。

I, 4a – 同䞀の文に属さない䞉぀の単語を含む䞀぀の段萜が存圚する。

蚻釈ここから盎ちに、䞀぀の段萜は少なくずも二぀の文を含むこずが導かれる。公理I, 1から公理I, 4たでの衚明は公理I, 2ず矛盟しおいるこずに泚意すべきである、なぜなら、これら四぀は党お、蚘述するために「単語」ず「文」ずいう単語を必芁ずするが、その公理によれば、これらを含むのは䞀぀の文だけであるべきだからである。

したがっお、次のメタ文孊の公理を述べるこずができる。

公理は公理に埓わない。

I, 4b – 党おの段萜は少なくずも䞀぀の単語を含む。

蚻釈したがっお、「はい」「いいえ」「おヌい」「おい」ずいった、公理I, 3によれば文ではないものは、単独で䞀぀の段萜を構成するこずはできない。

I, 5 – 同䞀の文に属さない䞉぀の単語に察し、これらを含む段萜は䞀぀より倚くは存圚しない。

蚻釈したがっお、I, 2で単䞀性が問題ずなったのず同様、ここでは段萜が問題ずなる。぀たり、ある段萜で同䞀の文に属さない䞉぀の単語を䜿甚したら、それらを別の段萜で再び䜿甚するこずはできない。しかし、別の段萜で、それらが同䞀の文に属しおいるずしたらどうか この公理によれば、それは䞍可胜である。

I, 6 – 䞀぀の文の二぀の単語が䞀぀の段萜に属しおいれば、この文の党おの単語がこの段萜に属しおいる。

蚻釈蚻釈は䞍芁である。

I, 7 – 二぀の段萜が䞀぀の単語を共有しおいれば、共有しおいる単語がもう䞀぀存圚する。

蚻釈この公理に埓うため、䜜家が前の段萜で既に珟われた単語を次の段萜で䜿甚する堎合、前の段萜に珟われたもう䞀぀別の単語も同様に䜿甚しなければならない。それらの単語が冠詞や助動詞などである堎合、制玄は軜埮である。意味を持぀単語実詞や圢容詞などの堎合、制玄は明らかにフロヌベヌル的でない[5]。
定理1の蚻釈を芋よ

I, 8 – 同䞀段萜に属さない少なくずも四぀の単語が存圚する。

蚻釈぀たり、単䞀の段萜で構成される「文章」は「文章」の名に倀しない。あるいは、蚀語フランス語は充分な数の単語少なくずも四぀を持っおいる。
既にI, 3の蚻釈で芋た

公理I, 7の蚻釈で、この公理および既に認められおいる他の諞公理から導き出せる党おの垰結を展開しなかった。以䞋は、ヒルベルトが瀺した定理の䞀぀目である。

定理1䞀段萜䞊にある別の二文は、倚くおも䞀単語しか共有しない。別の二段萜は、䞀単語も共有しないか、䞀文を共有し他には䞀単語も共有しない。

蚻釈実際、二぀の段萜に共有される単語が䞀぀あるならば、二぀目も存圚しなければならないI, 7が、この二぀の単語は䞀぀の文を定め、I, 1によれば、この文は䞀぀のみである。したがっお、そのずき二぀の段萜には共有される文が䞀぀存圚する。

こうしお、よりフロヌベヌル的な考えに立ち返るこずずなる。前の段萜で既に䜿甚された単語を繰り返すならば、文党䜓を繰り返さなければならないずいう厳しい制玄がかかる。それならば、その単語を繰り返さないほうがよほど賢明であり、フロヌベヌルはこの公理を正確に守っおいる。

公理矀II
順序の諞公理

II, 1 – 䞀文のうちで、ある単語が二぀の単語を特定の順序で蟿った間にある堎合、この単語は二぀の単語を逆の順序で蟿った間にも䜍眮する。

蚻釈圓たり前である。

II, 2 – 䞀文䞊の任意の二単語に぀いお、少なくずも䞀぀の第䞉の単語が存圚し、この単語は第二の単語を第䞀の単語ず第䞉の単語の間に眮くこずができる。

蚻釈これは驚きかもしれない。読者は、これに぀いお詳现な説明のため、定理3および定理7の蚻釈を参照しおほしい。

II, 3 – 䞀文䞊の䞉単語に぀いお、そのうち䞀぀の単語は、他の二単語の間にある。

蚻釈よく探せば、文孊においお、この公理の圓おはたらない文が芋぀かるだろう、たずえば『トリストラム・シャンディ』第98章のような[6]。

II, 4 – 䞀段萜䞊に、同䞀の文に属さない䞉単語があり、たた、同じ段萜に、この䞉単語のいずれも含たない䞀文がある堎合、この文が、䞉単語のうちの二単語によっお決定される文に含たれる単語を䞀぀含んでいるならば、この文は、䞉単語のうち䞀぀目ず䞉぀目によっお決定される文に含たれる単語を必ず䞀぀含んでいる。

蚻釈この公理を明確にするため、ヒルベルトに立ち返ろう、「より盎芳的に蚀えば、䞀盎線が䞉角圢の内郚に入れば、それは再び倖郚に出おくる」ず述べられおいるフランス語蚳のp.15。

この公理に合臎する段萜を探したり曞いたりするのは、読者に委ねよう。ヒルベルトは続けお幟぀かの定理を蚌明しおおり、その䞭には以䞋のようなものがある。

定理3任意の二単語に察し、これらが含たれる文には、二単語の間に少なくずも䞀぀の単語が含たれおいる。

定理7䞀文䞊の二぀の単語の間には、無限に倚くの単語が存圚する。

蚻釈公理II, 2に驚いた読者は、おそらく自分が驚いたのは圓然だったず思うだろう。驚きを抑え、これらの定理を理解するには、か぀おの射圱幟䜕孊の䟋に倣っお、いわゆる「虚語」ず「無限語」の存圚を認めるだけでよい。党おの文は無限の単語を含むが、認識されるのはごく限られた数の単語のみで、他の単語は無限遠点か虚点にある。倚くの知性がこのこずに感づいおはいたが、はっきりず意識しおはいなかった。これからは、この重芁な定理を無芖した修蟞孊は䞍可胜になるだろう。蚀語孊もこの定理を掻甚できるはずだ。

平行の公理
俗にいうナヌクリッドの公準

任意の䞀文に察し、この文に属さない単語が䞀぀あるずする。この文ず単語によっお定められる段萜には、この単語を含む文が䞀぀だけ存圚し、最初の䞀文ず共有する単語を䞀぀も持たない。

蚻釈「長いこずわたしは早くに寝おいた」ずいう文がある。「目芚め」ずいう単語がある。段萜のうちに、「目芚め」ずいう単語を含み、か぀「長いこずわたしは早くに寝おいた」ずいう文にある単語を含んでいない文が存圚し、それは䞀文だけである、すなわち「そうした思い蟌みは目芚めから数秒間は残っおいた」だ。したがっお『倱われた時を求めお』の第䞀段萜は、少なくずも局所的には、ナヌクリッドの公準に埓っおいる。

合同の公理矀ず連続性の公理矀を転眮する仕事は、読者に委ねよう。

この転眮は、もっず進められるだろう。興味深いこずに、円錐曲線のずころたで行くず、その転眮の必芁は党くなくなるはずだ。実際、そこにはたさしく修蟞孊を芋いだせる、なぜなら、扱われるのは楕円省略法ず攟物線寓話ず双曲線誇匵法だけで[7]、いずれも䜜家にずっお銎染み深い図圢だからだ、ずいっおも、珟代では楕円省略法は皀で、攟物線寓話は玄2000幎もの間䜿われおおらず、双曲線誇匵法が倚甚されおいる。

蚳加藀䞀茝


[1] ノヌバヌト・りィヌナヌNorbert Wiener, 1894-1964はアメリカの数孊者で、サむバネティクスの提唱者ずしお知られる。ここでいうりィヌナヌはドむツの数孊者ヘルマン・りィヌナヌHermann Wiener, 1857-1939で、1891幎にハレで開催されたドむツ数孊協䌚にお「幟䜕孊の基瀎ず構造に぀いお」ず題する講挔を行ない、これがヒルベルト『幟䜕孊基瀎論』に圱響を䞎えたずされる。

[2] いずれも射圱幟䜕孊の定理。

[3] ドむツで䜿われる、祝祭で酒を回し飲みするための倧きな噚vidrecome。

[4] プルヌスト『倱われた時を求めお』冒頭の䞀文。

[5] フロヌベヌルは、ある察象を描くには唯䞀の的確な衚珟があるず考え、その「適切な単語 le mot juste」を芋぀けるべく、掚敲や朗読を繰り返しながら執筆した。

[6] フランス語版の章立おに基づくず思われ、蚳者は幟぀かの版を確認したが、それらしき章が芋あたらず該圓箇所䞍明。

[7] それぞれellipse, parabole, hyperboleで、いずれも幟䜕孊的な意味ず修蟞孊的な意味を䜵せ持぀。


いいなず思ったら応揎しよう