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【第6話】賭け

開店して2〜3ヶ月経ち、常連さんらしき顔ぶれができ始めた頃。
開店1週間経つか経たないかからご来店下さってる当時の最高齢常連客本庄さんさんが、ニコニコしながらご来店。
「今ね、いつもの立ち呑み屋さんへ行ってきたんだけどね、」
と、それは当店とは反対南口にある立ち呑み屋さん。
他に居酒屋さんはいらくでもあるし、立ち呑み屋さんも数軒あったのに、なぜかそのお店の常連さんと当店のお客様は開店当初からかなりかぶっていた。
店の雰囲気が似てるかと言えば全然似てない。あちらは蛍光灯の白い色気の無い照明にご年配マスターと女将さんで串焼きと煮込み。
こちらは暖色の照明に自称ガールズたこ焼き立ち呑み。ガールズって言っても、うち1人しかいないけど。
ただ、自分で言うのもなんだが、たこ焼きは都内でも指折りの、大阪人が懐かしがるたこ焼きである自信はあったし、後々その南口の立ち呑み屋さんへ行ったが、お料理全てがとても美味しかったし、マスターが白黒ハッキリ物を言う人なので、それらが共通しているせいなのかはわからないが、お客さんがかぶっていた。
そして本庄さんがこう続けた。
「このお店が1年もつかもたないかで賭けになったんだよ」
「えっ!?うちの店の事ですか!?」
「そう」
とニコニコしながら仰るけど、内心コチラはカチンときた。本庄さんに対してではない。そのお店で賭けのネタにされて面白がられた事に。
「で、ホンジョウさんはどっちに賭けたの?」
「私は勿論1年もつのほうに賭けたよ」
「で、他の人達は?」
「全員1年もたないほうに賭けたよ」
「は!?それ何人!?」
「私も入れて14人」
「ってことは13:1で本庄さん以外の人は1年もたないと思ってるの!?」
「そうみたいだね。私は言ったんだよ、あの子は根性あるから1年は余裕でもつ、って」
「で、1人いくら賭けたの?」
「1人千円ずつ」
「えっ!?じゃあ全部で14000円!?」
「そうだね」
「そのお金どうなってるの!?」
「マスターが回収して缶にちゃんと入れてたよ」
「は!?マスターも絡んでるの!?」
「マスターはお金を預かってるだけだよ」
「分かった!!じゃあ本庄さん、1年後、その賭け金総取りさせてあげるから、1年待ってて!!」
私の中で1年なんて余裕だった。
バスガイドも3年やったし、講談師も3年やったし、それと並行して他のバイトも複数掛け持ちして長くやってたので忙しくしてれば1年なんてあっという間なのは知ってたから。
そもそも誰が1年以内に閉店すると思って店をやり始めるんだよ、アホか!!と思った。
そして毎日慣れないヒドイ酔っぱらいやご近所トラブルと闘いながら確かに時間はあっという間に過ぎていったが、想像し得ない事態の連続でキツイ日々だった。

そして開店から363日目の6月15日、本庄さんがご来店。
「ホンジョウさん!!あさってうちの店1周年なんですよ!!あの賭け覚えてます!?」
「あぁ〜覚えてるよ、もう1年になるんだねぇ」
「そうなんです!!だからあさってはあの立ち呑み屋さんに行って、賭け金総取りしてきて下さいね」
「わかったよ」
そして1周年当日、お祝いに来て下さった常連さん方で賑わう中、遅い時間に本庄さんは現れた。
「行かれました!?」
「うん、行ってきたよ」
「総取りできました!?」
「それがね、あの時賭けた人達がたまたま何人か居てね、ホントに1年経ったか証拠が無いって言い出したんだよ」
「はぁ!?そいつら連れてきて!!」
「で、私も言ったんだよ、じゃあ向こうのお店行って1杯呑んでぴんちゃんに訊いておいで、って」
「そんな人来ませんでしたけど。」
「うん、何人か行ったんだけどね、常連さんらしき人達で賑わってて入りづらくて訊ける状況にないぐらい忙しそうだったからそのまま戻ってきた、って言ってたよ」
「えっ!?じゃあ総取りできなかったの!?」
「いや、見に行った人達が、あれは確かに1周年の雰囲気だった、って言ったから、マスターが缶からお金を出して、私が全部貰ったよ。だからその場に居た人達に1杯ずつごちそうして、私もそのお金で呑んで来たよ。だから残りのお金はここで使うから、みんな好きなもの飲んで下さいよ」
と、振る舞い酒をしてくれて、みんなで1周年の乾杯をした。
「私は最初から余裕でぴんちゃんの勝ちだと思ってたんだけどねぇ」
「他のみんな何か言ってました?」
「あの子意外と根性あるな、って言ってたよ笑」
「気付くの遅いわ!!」
「いやぁ〜、今日のお酒は格別に美味しいねぇ笑。これからも頑張ってよ」
「もちろん!!」
 5年ぐらいで辞めるつもりなんてなかったし、まぁ辞めない限りは続くんだろうなと漠然と思ってたけど、気が付けば15年と7ヶ月も経ってた。
閉店の危機を何度も乗り越えてきたけど、昨年は売上過去最低記録だったので、今年は6月の16周年どころか4月の店舗更新をできるかもわからないけど、本庄さんがまた賭けをしてくれたら、うちの根っからの負けず嫌いが発揮されて、16周年を迎えられるかもしれない。
 本庄さん、天国へ行かれた皆さんとそちらでうちの店が16周年もつかもたないか大博打して下さいな。
次は総取りさせてあげられるかわからないけど、大金がかかればかかるほど負けさせちゃいけない、って思えるから。

今日は本庄さんが亡くなられてちょうど1年。

本庄さんに捧ぐ。










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