日々俳句鑑賞402 「そよりともせいで秋たつ事かいの」 鬼貫
立秋は二十四節気の一つ。暦の上では今日から秋となる。とはいえ、暑さはなお盛り。それでも古くから日本人は、風や雲のかたち、虫の声などに、かすかな秋の気配を見いだしてきた。
『古今和歌集』には、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(藤原敏行)とある。目には見えなくとも、風の音に秋の訪れを感じるという、日本人ならではの繊細な季節感である。
ところが鬼貫は、
そよりともせいで秋たつ事かいの
と詠んだ。
「風がそよりとも吹かない。それでも秋になったというのかねえ。」
立秋といえば風。その風さえ吹かない現実を前に、鬼貫は嘆くでもなく、笑うでもなく、ただ素直な実感を口にする。その飾らない一言が、かえって季節の移ろいの不思議さを際立たせている。
暦は秋を告げても、季節は一日で変わるわけではない。そのわずかなずれを受け入れ、やがて訪れる秋を静かに待つ心が、この一句には流れている。三百年を経た今も、立秋を迎えるたびに共感を誘う名句である。
季語解説参照・例句引用:『角川俳句歳時記 第五版』
