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米テックから半導体メモリーへ、14.8兆円が流れました。次に動くのは、あなたの買い替え価格です。

「AIバブルは終わった」と言われています。お金の流れは、真逆です。 「値段の話より、まず数量を確保したい」。去年から、この言葉を私は何度聞いたか分かりません。

半導体材料に10年以上携わる現場から、今日は「お金の流れ」の話をします。

この記事でわかること

  • たった3か月で、14.8兆円ものお金が半導体メモリーに流れ込んだ

  • そもそもメモリーとは。DRAMとNANDの違いを、日常の道具で

  • そのお金が、どこから来て、なぜあなたのスマホ代につながるのか

  • 「待てば安くなる」がなぜ通用しなくなったのか

  • 今日、ここだけ分かればOKという1点

第1章|たった3か月で、14.8兆円

まず、この数字を見てください。

半導体メモリー大手5社が3か月で生み出した純現金収支は、前年の同じ時期の92倍になりました。金額にして14.8兆円のプラスです。

純現金収支というのは、本業で稼いだお金から、工場や設備に使ったお金を引いた後に、手元に残るお金のことです。この数字が92倍にプラス転換したというのは、蛇口をひねったら想定の何十倍もの水が出てきた、というくらいの異常事態です。

では、この14.8兆円はどこから来たのか。

同じ3か月間、米テック4社(アルファベット(Googleの親会社)、マイクロソフト、アマゾン、メタ)の純現金収支は、逆にマイナスでした。AIを動かすデータセンターに巨額を投じ、お金が出ていったからです。

テックから出ていったお金が、メモリーに流れ込んでいる。 これが、いま起きていることの正体です。

「AIバブルが弾けた」という話をよく聞きます。もしそうなら、お金はメモリーから逃げているはずです。現実は、真逆に流れています。

第2章|「バブル崩壊」という認識と、現場の実態のギャップ

世間の空気と、現場の数字。この2つは、いま完全にずれています。

世間では「投資は行き過ぎ」という声が増えました。 一方で、メモリー5社の3か月の純利益は、前年の16倍にあたる24.7兆円にテック4社の純利益36.1兆円に、あと一歩まで迫っています。

作っている会社ではなく、作るための「部品」を売っている会社が、テック本体に肉薄している。この構図は、少し前まで考えられませんでした。

なぜ、こんなことが起きるのか。 理由は2つあります。

  1. 「メモリーがないと何も動かない」

  2. 「作れる会社がごくわずかしかない」

そもそもメモリーとは。DRAMとNANDの違い

ここだけ、少し丁寧に説明させてください。ここが分かると、この先の話が全部つながります。

メモリーには、大きく2種類あります。DRAMとNANDです。 私はいつも、机で仕事をする姿にたとえて説明しています。

DRAM(短期記憶)は、机の作業スペースです。 いま広げている資料を置いておく場所。広ければ広いほど、たくさんの資料を同時に開いて、すばやく行き来できます。ただし、席を立つと机の上は片付いてしまう。電源を切ると中身が消えるのがDRAMです。

身近な例で言えば、スマホでアプリを何個も開いたまま切り替えられるのは、DRAMのおかげです。パソコンを買うときに見る「メモリ8GB/16GB」は、この作業スペースの広さのことです。

NAND(長期記憶)は、机の引き出しや本棚です。 資料をしまっておく場所。電源を切っても中身は消えません。写真、動画、音楽、アプリ本体。あなたのスマホの「128GB」「256GB」という容量は、こちらの話です。パソコンのSSD、USBメモリ、SDカードも、中身はNANDです。

作業スペースが広いほど速く動き、引き出しが大きいほどたくさんしまえる。 どちらか一方では成立しません。だからどんな機器にも、両方が必ず入っています。

そしてAIは、この両方を桁違いに欲しがります。 AIは膨大なデータを一気に机の上に広げて計算するので、まずDRAMが大量に要る。データセンター向けには、DRAMを何層にも積み上げた「HBM(広帯域メモリー)」という高性能版が使われます。サムスンとSKが増産しようとしているのは、これです。同時に、AIに学習させる元データを保管するためのNANDも、大量に要ります。

つまりAIが増えれば増えるほど、DRAMもNANDも足りなくなる。 いま起きているのは、この単純な話です。

そして、作れる会社が少なすぎる

もう一つの理由が、寡占です。

DRAMは、韓国サムスン電子、SKハイニックス、米マイクロンの3社で世界シェアの約9割。 NANDは、この3社にキオクシアと米サンディスクを加えた5社で、やはり約9割。

世界中の需要が爆発しているのに、応えられる会社が実質5社しかない。 だから、需要が増えれば増えるほど、値段の主導権は売り手に移ります。私が現場で感じている力関係の変化は、まさにこれです。

第3章|現在進行形の「第二波」、90兆円の増産計画

ここからが本題です。稼いだお金で、各社は次の手を打ち始めました。

サムスンとSKは6月下旬、合計で約90兆円を投じて、韓国国内に半導体工場を4つ建てる計画を出しました。今後5年でメモリーの生産能力を倍にする構えです。

米マイクロンも7月、米国内の生産や研究に2035年までで約40兆円を投じると表明しました。従来の計画から積み増しての発表です。

つまり、14.8兆円が流れ込んだという第一波の後に、その現金を元手にした巨額投資という第二波が、いま立ち上がっています。この波は、まだ始まったばかりです。

第4章|私が現場で見ている、交渉の「変質」

数字の話はここまでにして、私が現場で肌で感じていることをお話しします。

まず、価格交渉のトーンが、明らかに落ちました。 以前なら「もう少し安くならないか」から始まった会話が、いまは「いかに在庫を確保するか」に軸足が移っています。値段の話が消えたわけではありません。ただ、優先順位が明確に入れ替わりました。

このメモリー不足を受けて、メーカーはどこも増産に動いています。 そして今やもう絶好調です。売れば売るほど利益が出る状態なので、「とにかく物を作りたい」という姿勢が強い。その空気が、交渉の場にもはっきり滲み出ています。

もっと本質的な変化は、次世代製品の開発現場で起きています。 これまで開発の合言葉は「いかにコストを下げて作るか」でした。今は違います。「いかに他社より高性能なものを出すか」「多少高くても、良いものなら使っていこう」という方向に、作り手のマインドセットそのものが変わりました。

私は、これが一番大きな変化だと見ています。 勝負の土俵が、価格競争から「いかに高性能なものをハイパースケーラー(巨大IT企業)に出すか」に移った。安さで選ばれる時代から、性能で選ばれる時代へ。現場の空気は、確かにそちらへ動いています。

国内唯一の上場メモリー企業であるキオクシアが、エヌビディアとの協業に賭けているのも、同じ流れの中にあります。同社の河村副社長は「シェアを求めての投資はしない。技術のアドバンテージを積んでいく」と語りました。安く大量にではなく、良いものを。この一言に、業界の変質が凝縮されています。

第5章|これは、あなたのスマホ代の話

ここまで大きな数字が続きました。では、これがあなたの生活とどうつながるのか。

答えは、買い替え価格です。

調査会社トレンドフォースによると、この3か月でDRAMもNANDも、前年より5〜6割上がりました。しかも値上がりは、データセンター向けだけの話ではありません。私たちが使う民生品にも、しっかり波及しています。

第2章を思い出してください。DRAMは机の作業スペース、NANDは引き出しでした。 その両方が、同時に5〜6割高くなっている。そしてスマホもパソコンも、この2つが入っていなければ動きません。作り手はさらに「高性能なものを高く売る」方向に舵を切りました。

この流れが意味することは、シンプルです。 同じ性能のスマホやパソコンを、これから同じ値段では買えなくなる可能性が高い。「新モデルを待てば、こなれて安くなる」という、これまで当たり前だった感覚が、通用しにくくなっています。

今日、ここだけ分かればOKです。

メモリーの価格は「上がる方向」に力がかかっている。だから買い替えを検討しているなら、「待てば安くなる」を前提にしないほうがいい。

この1点だけ、頭の隅に置いておいてください。

第6章|あなたは、値段が動く理由を知って選んでいますか

最後に、少しだけ先の話をします。

この強気が永遠に続くとは、私も思っていません。

中国勢が追い上げてきているからです。

DRAMのCXMTは7月に親会社が上海市場へ上場し、日本円で最大約1兆6000億円を調達して生産能力を2倍以上に引き上げる方針を掲げました。NANDのYMTCも、世界シェアでキオクシアに迫りつつあります。作り手が増えれば、いつか価格の力学はまた変わります。

さらに言えば、この14.8兆円の源流は米テックのAI投資です。テックが投資の手を緩めれば、メモリーの好況もそこまで、というもろさを抱えています。

だからこそ、私があなたに渡したいのは「今すぐ買え」でも「待て」でもありません。渡したいのは、問いです。

あなたが次にスマホやパソコンを買うとき、その値段が「なぜ、その額なのか」を知って選んでいますか。

値段だけを見て「高くなったな」で終わるのと、14兆円の力学が背後で動いていると知った上で買い時を選ぶのとでは、同じ買い物でも納得感がまるで違います。

情報を持っている人だけが、動くタイミングを自分で決められます。 あなたは、どちらでいたいですか。

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