2年で1.6倍。Mac miniの値上げは、新型が出る前に終わっていました
パソコンの値札が上がったのは、私たちが使う分が増えたからではありません。
「また値上げか」。
アップルの新製品を見て、そう思って画面を閉じた方も多いはずです。でも、この値上げは今回始まったものではありませんでした。
なぜ2年で1.6倍になったのか。値上げは本当にいつ起きていたのか。そして、パソコンはこれからどう変わるのか。
スマホやパソコンの中身をつくる材料の仕事に10年以上携わり、営業としては3年。この現在地から、今日はこの話をします。

第1章|14万9800円。2年前の同じモデルは9万4800円でした
まず、何が起きたのかを整理します。

アップルが2026年8月25日、新型のMac miniを発表しました。発売は9月22日、予約はすでに始まっています。価格は14万9800円から。
Mac miniは、手のひらに乗るくらいの小さな箱の形をしたパソコンです。この箱の中に頭脳が入っていて、画面もキーボードも別売り。使う人が自分で用意します。
新しく入った頭脳は「M6」と呼ばれるもので、AIの処理速度は前の世代と比べて最大4倍になったとアップルは説明しています。
ここまでは、よくある新製品の話です。
問題は値段のほうでした。
直前のモデルは13万4800円。つまり今回の値上げ幅は1万5000円です。
134,800円 → 149,800円
ニュースの見出しになったのも、この数字でした。
ところが、同じ構成の2年前の価格を調べると、94,800円でした。
94,800円 → 149,800円
あれ??
差は55,000円。約1.6倍です。
同じ名前の、同じ役割の製品が、2年たたないうちにこれだけ動いています。
第2章|値上げは、新型が出る前に終わっていました
ここが今回いちばんお伝えしたいところです。

「新型が高くなった」と読むと、話の向きを取り違えます。
直前のモデルとの差だけを見ると、値上げは1万5000円です
2年前の同じモデルと比べると、差は5万5000円です
その5万5000円のうち、4万円ぶんはすでに2026年6月25日までに起きていました
6月25日、アップルは新製品の発表とは関係なく、既存の機種の価格を一斉に改定しています
つまり大きな値上げは、新型が店に並ぶ前に、静かに完了していたことになります
新型と直前モデルを比べるという当たり前の見方では、この4万円が視界に入りません
痛みの大半は、もう終わっていました。
新製品のニュースを見て「今回は1万5000円か」と思ったとき、私たちは値上げのいちばん大きい部分をすでに通り過ぎています。
モデルチェンジのときだけ価格を見る、という習慣が、ここで効いてこなくなりました。
第3章|値札を押し上げているのは、パソコンの需要ではありません
では、なぜ上がったのか。
アップルのティム・クック氏が、記憶や保存に使う部材のひっ迫について触れたと各社が報じています。ここから先は、私の本業の話になります。

上がっているのは、メモリーという半導体です。
メモリー、その中でも特に需給が逼迫している”DRAM"というのは、パソコンやスマホが作業をするときに、内容を一時的に覚えておくための半導体のことです。人間の生活でいえば、作業をする机の広さにあたります。
このメモリーの値段が、歴史的な水準まで上がっています。
理由は、パソコンではありません。AIです。
AIを動かすための巨大なデータセンター。ここでメモリーが桁違いの量で使われています。これまで半導体の主な行き先は、古くはパソコン、そのあとはスマホでした。今は、その中心がAIに移っています。
作っているメーカーも増産はしています。ただ、急に量は増やせません。工場は、建てはじめてから物が出てくるまでに、早くても数年かかるからです。
需要が先に増えて、供給が後から追いかける。その差が値段になって出てきます。
そしてその値段が、データセンターとは何の関係もない、家庭用のパソコンの値札にまで降りてきました。
これが、Mac miniが1.6倍になった中身です。
第4章|現場から見えていること。世界5拠点で、同時に立ち上げています
ここからは、私が仕事で見ているものをお話しします。
私の会社は、半導体をつくるときに使う材料を製造して販売しています。その会社が今、設備投資を進めています。日本を含めた世界5拠点で、同時にです。

1拠点を大きくするなら、それは増産の話です。受注が増えたので設備を足す。よくあることです。
5つの地域で同時に立ち上げるというのは、意味が違います。
どこか特定の国が足りないのではなく、どの地域も足りていない。そう判断されたということです。
お客様から出てくる生産の見通しが、明らかに上がっています。今持っている設備だけでは、どう考えても足りない。だから今、投資するしかない。そういう状況です。
ただ、ここに時間の壁があります。
見通しが上がったからといって、明日から供給を増やせるわけではありません。メモリーをつくる工場が数年かかるのと同じで、その材料をつくる設備も数年かかります。
需要はもう来ています。設備はこれからです。
ここがボトルネックになっています。
私が5拠点という数字を見て思ったのは、値上げが一時的なものとして扱われていない、ということでした。数年先まで必要だと見ているから、数年かかる投資を今決めている。そう受け取っています。
第5章|パソコンが2台に分かれる日
もう一つ、生活のほうに近い話をします。
国内で売られているパソコンの平均単価は、ある集計によると2026年の1月から6月で12万3095円でした。前年の同じ時期は11万1192円ですから、1年で約1割上がっています。

高い機種だけの話ではなく、全体が上がっています。
そして、パソコンの使われ方そのものが変わりはじめているように見えます。
先日、地方創生の専門家である木下斉さんが、音声配信”Voicy"のなかで、AIエージェントがこれから人の生産性を大きく引き上げるという話をされていました。
全自動化がもたらす圧倒的な生産性格差【1/2】エージェント型AIの操作力は人間を超える(2026/8/26 #2320)
AIエージェントというのは、人の代わりに作業を進めてくれるAIのことです。
私も、この見方に近いものを感じています。
これまでパソコンやスマホは、人が画面を見て、触って、打ち込んで、はじめて動く道具でした。使われる量の上限は、人の数と、人が起きている時間で決まっていたということです。
AIエージェントは、人がいなくても動きます。
人が寝ている時間。人が座っていない部屋。移動しているだけだった車の中。これまで機械が使われていなかった時間と場所が、そのまま新しい使い道になります。
今回のMac miniが、画面もキーボードも別売りだという話を思い出してください。
人が向き合って操作するための形をしていません。置いておくための形をしています。
ですから私は、これから机の上のパソコンが2つに分かれていくと見ています。
1台は、自分が持ち運んで、画面を見ながら使うノートパソコン。
もう1台は、家に置いたまま、AIを動かし続けるための据え置き型。
そのとき、必要なメモリーの量も、選ぶ基準も、今とは変わってきます。
第6章|今日、ここだけ分かればOK
持ち帰っていただきたいことを2つに絞ります。

1つ目。価格を見るときは、直前のモデルとだけ比べないこと。
今回のように、モデルチェンジとは別のタイミングで一斉に価格が改定されていることがあります。2世代前の同じ構成といくら違うのか。そこまで見て、はじめて実際の変化が見えます。
2つ目。メモリーの容量は、あとから足すのが難しいこと。
安く買えたと思っても、用途に足りなければ意味がありません。自分がその機械で何をするのか。人が使う作業なのか、AIを動かし続けるのか。そこから逆算して容量を選ぶほうが、結果的に無駄が出ません。
最後に、一つだけ
全部が高くなっているわけではありません。
上がっているのは、メモリーという半導体です。そこの需給がひっ迫していて、その影響が広い範囲に出ている。今起きているのは、そういう状況です。
ニュースで値上げの見出しを見たときに、何が上がっているのかを一つ確かめる。それだけで、買い物の判断はずいぶん変わります。
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