ライトがあたらない
人生初観劇は小学校の体育館で、
「トーリユー!」
何やら鳥の格好をした人が躍動していた記憶しかない(この情報だけで作品が当てられる人がいたりするのだろうか…)。
わたし自身の人生初舞台は学芸会で、役柄は、
「きつね2」
であった。固有名詞さえついていないこの役にはセリフはほぼない。しかしその役にわたしは意を決して立候補したのだ。わたしがドキドキしながら手を上げたとき、
シーンとした教室にどよめきが走った。
なぜなら「きつね2」はイジワルな役柄で、誰もやりたがらずにポツンと残されていたから。それならやってみよう、と変なスイッチが入ってしまったのだ。
「おだまりよ!水どろぼうまでやったくせに!」
主人公のくま子ちゃんを糾弾するたった一つのセリフをわたしは憎々しげに精魂込めて熱演し、
「ちゃんごまさんがくま子やれば良かったわね」
というお褒めの(?)言葉を先生からいただいたのだった。
さてそんなことから、今でも年に一度は舞台を観たいと願っている(前フリが長すぎ…)。
かつて『塔の上のラプンツェル』を無理やり見せ、
「おひめさまモノ…?」
とどん引かせた息子を、
「自由と義務の狭間で葛藤するお話だよ!」
とだまくらかし(てはいないです本当のことです)、たいへん良い席をゲットしてもらって今回見に行ったのは、
『レイディ・ベス』。若きころのエリザベス1世が苦難を乗り越え、恋人との自由な未来を振り切って玉座へ…という、
これまたがっつりの「おひめさまモノ」。またやってるよこの人…と思われそうなので断っておくと、
息子は乃木坂46の奥田いろはさん目当てでわたしのお金で隣に座っていた。
実は同じ舞台をわたしは数年前に、今では舞台やドラマなどでばんばん活躍されている有名どころのキャストで見ているので、
主演、アイドルの人…大丈夫なんかな…?
と少々不安でもあったのだが、それはまったくの杞憂だった。役の若さに生身の若さが呼応して、みずみずしい演技。美しい声で揺れ動く心と芽生える責任感とをほとばしるように歌い上げ、なおかつ、
「ラスト玉座に上がるとき、めっちゃ遠くにいるように見えた」
くらいお顔が小さかった(←そこ…?)。
人生2周目があるなら歴史学者か考古学者になって遺跡をほじくり返したいわたしは、休憩中に歴史的背景やほかの役のその後についても語り尽くしたかったが、息子の耳は馬の耳。
しかたなく芝居の世界に没頭することにした。きつね2だったわたしはメインキャストさんだけでなく、アンサンブルさんたちの細かい演技も一生懸命に見て、
「わたしあなたのこと、ちゃーんと見てますよ!」
熱い視線と拍手を送った。
舞台を形づくるのは、スポットライトが当たる人ばかりではない。生のオーケストラを聴かせてくださる演奏者の方々も、あの美しい衣装をメンテナンスしてくださる方々も、みんなみんなこの数時間のためにベストを尽くしている。
やっぱり、年に一度くらいは舞台を見たいものだなあと思う。映像に残されるわけではない、その日その日のかれらの努力の結晶を、観客として心に刻みこむために。
空席もまだありましたので、興味のある方はぜひ足をお運びくださいませ…。清楚な妹エリザベスも素敵ですが、対立する姉、メアリー1世が黒いドレスと圧倒的な歌唱で劇場を制圧する姿も、なかなかの見ものです。
