花の顔[レトロ乙女図鑑]
笑うと、春の野原があふれる。
彼女は春そのものだった。
彼女と話をすると、心が弾むような気がした。
「今日も楽しかったね」
彼女がふわりと笑う。
そうだね、と私もうなずいた。
「じゃあ、また」
「またね」
お互いにさようならと言い、場を離れた。
「あ、言い忘れてた」
今日は一緒にいてくれてありがとう、楽しかった。
伝えていないことを思いだした。
もと来た道を戻る。
彼女がいた。
声をかけようとした。
だが、声が出なかった。
いつもの彼女と全く違う顔をしていたからである。
「話はついたわ。準備は手筈通りに」
冷ややかに、彼女は電話を切る。
その様子は春の野原ではなかった。
凛とした、冬薔薇の女王のようであった。
どちらの顔が、本当の彼女なのだろうか。
翌日、彼女はいつものようにほほ笑んでいた。
「ここで臨時ニュースが入りました」
事務的な声が街頭から流れる。
某国の王様が、日本へ友好の証として薔薇を大量贈呈するというものだった。

