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鹿の魔導士 番外編 キノコの怪(怖くない怪談話)

★鹿の魔導士 番外編 キノコの怪(怖くない怪談話)

原作・絵 ちろ/原作・文 スピカ




外はしんしんと冷え込む秋の夜。ヒキガエルの魔女のおうちの暖炉には、パチパチと薪がはぜ、部屋全体をオレンジ色の温かな光で包み込んでいた。
夕食のあと、鹿とヒキガエルの魔女、そして相棒のネズミさんは、温かいハーブティーを手に暖炉の前に集まっていた。
「ねぇ魔女様、今夜はあれを話してあげてくださいよ。この森で一番不気味な、あの話を!」
ネズミさんがひげをぴくぴくさせながらねだると、ヒキガエルの魔女は大切なおさげ髪をそっと撫で、ふふっと深みのある笑みを浮かべた。
「おや、夜道が怖くなっちゃうかもしれないよ? ……『歩く巨大キノコ』のお話だけどねぇ」
鹿はごくりと唾を飲み込みながらも、静かに頷いた。
「それはね、月も出ない雨の夜にだけ現れるんだよ」
ヒキガエルの魔女は声をひときわ低くして語り始めた。
「しとしとと雨が葉を叩く音にまじって、遠くから『のっし……のっし……』と、地面を揺らす重い足音が聞こえてくるのさ。

見上げるとね、木々よりも高く伸びた一本の大きな影。それが『歩く巨大キノコ』さ。笠の裏側からは、怪しく光る紫色の胞子がフワフワと舞い散っていてね……」
魔女は指先をすっと伸ばし、彼の目の前でゆらゆらと動かした。
「そいつは雨の中にぽつんと立つ者に近づくと、笠をぐうっと低く下ろして、じっと見つめてくるんだ。そして、地鳴りのような低い声でこう囁くのさ……」
部屋の明かりがふっと小さくなった気がして、ネズミさんはすでに鹿の魔導士の膝の上に飛び乗り、小さく震えている。

「『お前の……カサを……貸しておくれ……』ってね」
「ひゃあっ!」
ネズミさんが悲鳴をあげ、鹿も思わず背筋がぞくっと凍りついた。自分たちの身体よりもはるかに大きなキノコが、闇の中から迫ってくる情景が目に浮かんだのだ。
「でもねぇ」
ヒキガエルの魔女はいつもの優しい目元に戻り、お茶目を交えて続けた。
「そのキノコ、実はただの大きすぎる寂しがり屋でね。自分の笠は大きすぎて雨漏りするから、小さなフキの葉っぱの傘に憧れているのさ。フキの葉を『どうぞ』と渡してやると、嬉しそうに小さな傘を頭にちょこんと乗せてね。お礼に、とびきり大きな甘いドングリをゴロゴロと置いて、満足そうに帰っていくんだよ」

「えっ……ドングリをくれるんですか?」
鹿の魔導士が拍子抜けしたように問いかけると、ネズミさんも膝の上で「なんだぁ、脅かさないでくださいよ~!」と胸をなでおろした。

「ふふ、怖がりながらもちゃんと話を聞いてくれたお礼に、今度雨が降ったらフキの葉を用意しておいてあげようねぇ」
魔女が笑うと、暖炉の火がまたパチッと温かくはぜた。
少しの恐怖と、それ以上に溢れる温かさ。彼は、胸の奥がじんわりと解けていくのを感じながら、まだ見ぬ大きなお友達の姿を思い浮かべて、静かに微笑んだ。



★ヒキガエルの魔女の怪談話、いかがだったでしょうか?
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