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1623kita
『未整備』
『未整備』
夜の地下通路には、
通る人より、
通らないまま残る音のほうが多い。
二十三時零八分。
男は、
駅から続く長い通路の途中で立ち止まっていた。
蛍光灯は等間隔に並んでいる。
白い。
少しだけうなっている。
壁には広告が貼られているが、
どれも視線の高さから少しずれている。
読まれることを前提にしていない感じがする。
通路はまっすぐだ。
なのに、
歩いていると微妙に遠く感じる。
男は足元を見る。
床はきれいだ。
きれいすぎて、
少しだけ現実味が薄い。
以前、誰かが、
「整いすぎてる場所って、逆に“未完成”に見えることがある」
と言っていた。
男はその言葉を思い出す。
清掃された床。
交換された電球。
均一な明るさ。
それらは本来、
安心のためのものだ。
でも今夜は、
どこかで“まだ途中”の感じが残っている。
遠くで足音がする。
一人。
一定の速度。
こちらへ近づいて、
すれ違い、
また遠ざかる。
それだけの出来事が、
この通路では少し大きい。
男は再び歩き出す。
急がない。
止まらない。
ただ、
通路の中心をなぞるように進む。
出口の明かりは見えている。
でもそこに着くことより、
この“途中の明るさ”のほうが長く感じられた。
