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『母親に似てきたね、が一番効く』

『母親に似てきたね、が一番効く』
親戚の集まり。
座敷。
麦茶。
午後の少し眠い時間。
青年は適当に相槌を打っている。
その時、
伯母が笑いながら言う。
「あんた、最近ほんとお母さんに似てきたねえ」
その場は普通に笑う。
母も、
「やだー」
とか言っている。
青年も笑う。
でも、
その言葉だけ妙に残る。
顔の話なのか、
喋り方なのか、
雰囲気なのか分からない。
でもたぶん、
伯母は“生き方の癖”を見ている。
青年は麦茶を飲む。
氷が少し溶けている。
昔は父に似ていると言われた。
背格好。
無口なところ。
でも年齢を重ねると、
人は急に“母親側の空気”が出始める。
冷蔵庫の閉め方。
袋を畳むタイミング。
「先に食べな」の言い方。
そういう、
自分では気づかない動きのほう。
居間の向こうで、
母が誰かへお茶を出している。
何十年も見てきた動き。
青年はふと思う。
自分の中にも、
あの所作が少しずつ入っているのかもしれない。
怖いとか、
嫌とかではない。
ただ、
「人はこんなふうに親になっていくのか」
という静かな驚き。
夕方。
帰る準備。
青年は自然に、
テーブルの皿を重ねている。
その時、
伯母がまた笑う。
「ほら、その感じお母さんそっくり」
青年は苦笑いする。
でも否定しない。
否定できないくらい、
身体のほうが先に似てきている。
外へ出る。
空が少し赤い。
母が玄関から、
「気をつけてねー」
と言う。
青年も振り返らず、
「はーい」
と返す。
その返事の間とか声の高さまで、
少し似ていて、
自分で少しだけ笑ってしまった。

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