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ズレテリアス 第九話「被害者は、被害に遭う前から反省していた」

ズレテリアス

第九話「被害者は、被害に遭う前から反省していた」
※本作はミステリーではありません。ズレテリアスです。
犯人を探すより、どこがズレたのかをお楽しみください。
事件現場には、
被害者が正座していた。
刑事は近づく。
「大丈夫ですか。」
被害者は深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。」
「……何がです。」
「被害に遭いまして。」
「それはあなたの責任ではありません。」
「いえ。」
被害者は静かに首を振る。
「もっと早く被害に遭っていれば、皆さんにご迷惑をかけずに済みました。」
若い刑事が固まる。
「意味が分かりません。」
そこへ犯人が連行されてきた。
犯人は被害者を見るなり、
深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。」
被害者も慌てて頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ。」
「いや、私こそ。」
「いやいや、私が。」
二人は互いに謝り続けた。
十分後。
鑑識がつぶやく。
「まだ謝っています。」
刑事はため息をついた。
「止めろ。」
しかし止まらない。
二十分後。
謝罪は敬語から謙譲語へ進化し、
三十分後には、
尊敬語で謝り始めた。
「お謝りになっていただき、誠にありがとうございます。」
「とんでもございません。お謝りいただける栄誉を賜りまして……。」
若い刑事は壁にもたれた。
「日本語って怖いですね。」
ベテラン刑事は静かにうなずいた。
「事件より深い。」
その時、
事件が小さく手を挙げた。
「すみません。」
「どうした。」
「まだ始まってないんですが。」
全員が振り向く。
「え?」
事件は時計を見る。
「開始予定は午後二時です。」
「じゃあ今は。」
「反省会です。」
「先にやるな。」
事件は申し訳なさそうに言った。
「最近、効率化しておりまして。」
午後二時。
予定どおり事件は始まった。
午後二時一分。
予定どおり終了した。
午後二時二分。
再び反省会が始まった。
犯人。
被害者。
事件。
刑事。
鑑識。
全員が輪になって座る。
議題は一つ。
「今回の事件は、もう少し自然にできなかったか。」
誰も結論を出せなかった。
その事件は現在も、
「事前反省済事件」
として保管されている。

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