Photo by
fond_seal1296
『ルールがサボっている日』
『ルールがサボっている日』
朝七時。
青年は目を覚ます。
部屋はいつも通りだが、空気だけが少し違う。
軽い。
壁のルール掲示板を見る。
そこには一行だけ。
《本日:ルール未稼働》
「未稼働?」
端末を開く。
通知は来ているが、内容が雑だ。
《各自いい感じに過ごしてください》
「……いい感じって何」
外に出る。
扉はいつも通り開くが、音がやる気ない。
街はすでに動いている。
しかし統一感がない。
信号。
赤→青ではなく、赤→「まあいいか」→青。
パン屋。
「今日はルール無いんで、値段ざっくりです」
「ざっくり?」
「だいたい300くらい」
青年は気づく。
世界が“正式な運用”をやめている。
駅のホーム。
アナウンスが途中で止まる。
「次の電車は……えーっと……来ます」
誰も気にしない。
むしろ少し笑っている。
同僚と会う。
「なんか今日、世界がやる気ないね」
「うん、でも悪くない」
「ルールって必要だったっけ?」
その瞬間、遠くで何かが“確認しようとする気配”がする。
しかしすぐにやめる。
青年は思う。
これは崩壊ではない。
むしろ逆だ。
“管理している側が休んでいる日”だ。
広場のスクリーン。
そこには一行だけ。
《システムメンテナンス中》
「メンテってこういう感じなんだ」
街の中では、誰かが小さく言う。
「今日、ちょっと自由だね」
「うん、でも明日戻るんでしょ」
「たぶんね」
夜。
端末は何も言わない。
珍しく沈黙している。
青年は窓を見る。
街はいつもより少しだけ雑で、少しだけ優しい。
ふと思う。
この世界は、完璧だから回っているのではない。
“たまに手を抜く余白があるから続いている”。
