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『備品のぼやき:第14話 均衡の重圧』

『備品のぼやき:第14話 均衡の重圧』
その古びたアパートの、ちょうど中心。
そこに一本だけ、何十年も同じ姿勢で立ち続けている存在がある。
壁でもなく、床でもなく、しかし全体のどこよりも重要な場所。
音のない圧力。目に見えない質量。人の暮らしそのもの。
それらすべてが、彼の身体に流れ込んでくる。
「……座りたい」
誰もいない夜、彼は小さく呟いた。
「一度でいい。膝を折ってみたい」
目の前では、人間たちがソファに沈み込んでいる。
猫は丸くなり、洗濯物は揺れ、空気そのものが脱力している。
彼だけが、ずっと逆らい続けている。
「本当は、流木になりたかった」
川に浮かび、何も支えず、ただ流れに任せて漂う木。
しかし現実の彼は、太い釘で固定され、上から数トンの静寂に押さえつけられている。
冬の夜。気温が下がると、彼の身体はわずかに軋む。
パキッ。
住人たちはそれを「家鳴り」と呼ぶ。
ある夜、街を大きな地震が襲った。
梁が悲鳴を上げる。壁が歪む。空間がねじれる。
その中心で、柱だけが動かなかった。
動けなかったのではない。
動かないことを選び続けた。
上の階では、赤ん坊が眠っていた。
何も知らず、ただ小さな呼吸を繰り返している。
揺れは長かった。
そのたびに、彼の内部には細かな傷が増えていく。
それでも最後まで、彼は倒れなかった。
やがて揺れは止む。
住人たちは何も知らずに、いつものように布団に戻っていく。
「……それでいい」
朝が来る。
窓から光が差し込み、古い木肌を淡く照らす。
誰も見ない傷。
誰も触れない疲労。
それでも彼は、今日も立っている。

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