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『ホテルのチェックアウト前、急に虚無になる』

『ホテルのチェックアウト前、急に虚無になる』

朝十時四十分。
ホテル。
チェックアウトは十一時。
部屋は静か。
昨夜まであった非日常が、 急に薄くなっている。
青年はベッドへ座る。
シーツぐちゃぐちゃ。
テーブルには空のペットボトル。
コンビニ袋。
充電ケーブル。
生活感だけ残ってる。
昨日は楽しかった。
たぶん。
飲んで、
笑って、
夜景とか見て、
「旅行っていいな」 とか言ってた。
でも帰る直前になると、
人間は急に無になる。
テレビつける。
よく分からない情報番組。
誰も見てない感じで流れている。
青年はスマホを見る。
現実の通知が増えている。
仕事。
LINE。
メール。
ホテルって、
“人生を一時停止する場所” だと思ってた。
でも実際は違う。
人生を止められるのって、 せいぜい一泊くらいだ。
洗面所。
歯ブラシ。
昨夜のテンションで買った酒。
半分残ってる。
なんか切ない。
青年はカーテンを開ける。
昼。
普通に人が歩いてる。
会社員。
配送車。
信号。
外の世界は、 昨日からずっと続いていた。
その感じが少し寂しい。
友人が言う。
「そろそろ出る?」
青年は頷く。
荷物をまとめる。
忘れ物確認。
財布。
スマホ。
充電器。
そして最後に、 部屋を一回振り返る。
もう誰もいない部屋。
でも数時間前までは、 たしかにここで笑っていた。
ドアを閉める。
「ガチャン」
あの音、
毎回ちょっとだけ現実すぎる。
ホテルのチェックアウトって、
帰宅じゃない。
“非日常から、  強制的に生活へ戻される音” なんだと思う。

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