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第3回 小学生でもわかる、投資家のための半導体入門 「メモリは必ず暴落する」——その常識が、いま壊れかけている

前回までで、半導体を「工程で分ける」目と、「業績と株価は別の時間軸で動く」という見方を手に入れた。 今回は、第1回で少しだけ触れて先送りにした「記憶する側」——メモリの世界に入っていく。

ちょうどいいタイミングで、メモリの代表格であるマイクロン(米国の大手メモリメーカー)が、6月24日に過去最高益を出した。
売上はおよそ414億ドル、たった3か月で、である。
ただ、今回の本題はこの数字そのものではない。

メモリの世界には、10年以上ずっと信じられてきた「常識」がある。
それは、「メモリは、どんなに儲かっても、必ずまた暴落する」というものだ。
そして今、その常識が、メモリを作っている当事者たちの手で、壊されかけている。
今回はその「構造の変化」の話をする。
ここが分かると、いま市場でいちばん激しく動いているテーマの正体が見えてくる。

いつもどおり、最後に「メモリが分かると投資で見えるようになること」を3つにまとめて畳む。そこだけ持ち帰ってもらえれば十分である。

計算する係と、記憶する係

まず、いちばん大事な地図から。

半導体には、大きく分けて「計算する係」「記憶する係」がいる。
計算する係は、頭の中で考える担当だ。NVIDIAのチップなどがこれにあたる。
一方、記憶する係は、考えた結果や材料を覚えておく担当。これがメモリである。

この2つは、同じ半導体でも、お金の稼ぎ方がまるで逆になっている。

計算する係は、「他の誰にも作れない、特別な設計」で稼ぐ。 だから簡単には値下がりしない。むしろ性能が上がるほど高く売れる。
前回までに見た、設計と顧客の囲い込みで強くなる世界だ。

一方、記憶する係(メモリ)は、基本的に「決まった規格の製品」を作る。
たとえるなら、メモリは「ペットボトルの水」に近い。
どのメーカーが作っても中身はだいたい同じ水だから、最後は「どれだけ安く、たくさん作れるか」の勝負になる。
だから本来、メモリは値段が下がっていきやすい商品なのだ。

同じ「半導体」でも、特別な料理(計算する係)と、ペットボトルの水(記憶する係)では、儲け方の質がまるで違う。 まず、この違いが土台になる。

「チキンレースの呪い」——メモリが必ず暴落してきた理由

ここからが、冒頭で言った「10年来の常識」の話だ。

メモリが「ペットボトルの水」だとすると、こういうことが起きる。
水がよく売れて値段が上がると、メーカー全員が「もっと作れば儲かる」と一斉に工場を増やす。すると、こんどは水が余る。余れば値段は暴落する。暴落すると各社が作るのをやめる。やめると品薄になって、また値段が上がる……。

これを、メモリ業界はもう10年以上、ぐるぐる繰り返してきた。 業界では、この我慢比べを「チキンレース」と呼んだりする。誰かが先に増産をやめれば全員が助かるのに、みんな目先の利益が欲しくて作りすぎてしまい、結局そろって価格暴落で痛い目を見る。そういう呪いのような循環である。

ここで、投資としていちばん大事な教訓が出てくる。 メモリは、「いちばん儲かっているとき」が、しばしば「いちばん危ないとき」になる。

なぜか。価格がピークまで上がりきった瞬間が、いちばん利益が出る。だが、その高値こそが「全員が増産に走る合図」でもある。つまり、最高益の決算が出たまさにそのときが、次の暴落の入り口になりやすい。 だから市場は長いあいだ、メモリ株に「どうせまた落ちるんでしょ」という値段しか付けてこなかった。利益が大きく出ていても、株価は安めに放置されがちだった。

ここまでが、メモリの「古い常識」である。 そして今、この常識が壊れかけている。

その常識が、いま壊されかけている

なぜ「今回は違うかもしれない」と言えるのか。 感情ではなく、3つの構造的な理由がある。

理由1・AI用メモリは、簡単には増やせない

いまAIの頭脳(計算する係)のすぐ隣には、HBMという特別なメモリが置かれている。超高速でデータを渡すための、特別な記憶係だ。 ここがポイントなのだが、このHBMは、これまでの普通のメモリのように「工場を増やせばすぐ増える」というものではない。

HBMは、チップを何階建てにも積み上げて作る。ビルを高く建てるのに似ていて、階を増やすほど作るのが難しくなり、不良も出やすくなる。だから「需要が2倍になったから生産も2倍」と単純にはいかない。 つまり、昔の「すぐ作りすぎて暴落」という自動ブレーキが、HBMでは効きにくい。これが1つ目の構造変化である。

理由2・当事者が「もう暴落させない」と動き始めた

これがいちばん大きい。 これまでメモリメーカーは、暴落が怖いので、大きな投資を慎重にしてきた。固定費を上げすぎると、不況が来たときに一気に苦しくなるからだ。

ところが今、その当事者たちが正反対のことをし始めている。
マイクロンは、お客さんと長期の固定価格契約を17件も結んだ。

「これだけの量を、この値段で、何年も買います」という約束だ。

これがあると、価格が日々乱高下する不安定さ(スポット価格)に振り回されにくくなる。
日本のキオクシアは、3年間で1.4兆円という巨額の投資を決め、経営トップ自ら「スーパーサイクルに入る」と言い切った。
暴落を10年恐れてきた会社が、「もう暴落は来ない」という側に賭けたわけだ。
サムスンも長期契約に動いている。

ペットボトルの水を、その日の言い値で売る商売から、「年間契約で決まった値段で納める」商売へ。 これは、メモリが「ただの安売り商品」から「戦略的に確保すべき大事な資産」へと、性格を変えつつあるということだ。これが2つ目の構造変化である。

理由3・足元の数字が、それを裏づけている

最後に、冒頭のマイクロンの決算に戻る。 過去最高益というだけではない。次の3か月の予想(ガイダンス)が、売上およそ500億ドルとさらに上を見ている。会社は「需要が供給を上回っている状態が続く」とし、新しい工場が本格的に動き出すのは2028年度以降だと説明している。 作りたくても、すぐには増やせない。だから当面、品薄と高値が続きやすい——理由1と理由2が、数字でも裏づけられている形だ。

ただし「呪いは完全に消えた」とは、まだ言い切れない

ここで、楽観に振り切らないことが大事だ。構造投資は、良い面だけを見る態度ではない。

正直に、反対側のリスクも置いておく。 第一に、メーカー3社(マイクロン・SKハイニックス・サムスン)が結局そろって工場を増やせば、いずれ供給が増えて値段が落ち着く可能性は残る。チキンレースの記憶は、そう簡単には消えない。 第二に、マイクロン自身の次の3か月予想を細かく見ると、「値上げのペースは少しゆるやかになる」という前提が入っている。勢いが永遠に同じ角度では続かない、というサインとも読める。 第三に、そもそもの需要——AIへの巨額投資——が冷えれば、長期契約があっても話は変わる。約束は、買う側に体力があってこそ守られる。

だから今いえるのは、こうだ。 「メモリは必ず暴落する」という古い常識は、確かに壊れかけている。だが「もう絶対に暴落しない」と言い切れるわけでもない。 本当に構造が変わったのかは、これから挙げる変数を見つづけて、自分で答え合わせをしていくしかない。

メモリが分かると、投資で見えるようになる3つのこと

ここまでを、3つに畳む。

【1】記憶する係は、計算する係と「儲け方の質」が逆だと分かる

計算する係は特別な設計で値下がりしにくい。記憶する係(メモリ)は規格品で、本来は値下がりしやすく、好不況の波が大きい。 だから同じ半導体でも、メモリは「波(サイクル)で動く商品」として見ないといけない。この前提を忘れて「ずっと右肩上がり」と思い込むと、いちばん危ないところで掴むことになる。

【2】「メモリは必ず暴落する」という常識が、いま壊れかけていると分かる

これが今回の核である。 HBMが簡単に増やせないこと、そしてメーカー自身が長期契約と巨額投資で「もう暴落させない」側に動き始めたこと。この2つが重なって、メモリは「安売り商品」から「戦略資産」へ性格を変えつつある。古い常識のまま「どうせまた落ちる」と決めつけると、この変化を丸ごと見落とす。

【3】「今回は違う」は、願望ではなく構造で確かめるものだと分かる

「今回は違う」は、投資の世界でいちばん危険な言葉だとよく言われる。たいていは願望だからだ。 だが、ただ怖がって思考を止めるのも同じくらいよくない。大事なのは、感情ではなく構造で確かめることだ。HBMは本当に増やせないままか。長期契約はどこまで広がるか。3社はまた増産競争を始めないか。この変数を定点観測できる人だけが、「今回は違う」が本物かどうかを、自分の目で判断できる。

まとめ

メモリは、計算する係とは逆で、本来は値段が下がりやすい「ペットボトルの水」のような商品だった。 だから10年以上、好況と暴落を繰り返す「チキンレースの呪い」の中にいて、市場からは「どうせまた落ちる」と安く見られてきた。

だがいま、その常識が壊れかけている。

  • メモリは計算する係と儲け方の質が逆(波で動く商品)だと分かる

  • その「必ず暴落する」常識が、HBMの構造と当事者の長期契約で壊れかけていると分かる

  • 「今回は違う」は願望でなく、構造の変数で確かめるものだと分かる

この3つが見えるようになる。

テーマの正しさ(AI時代にメモリの役割が構造的に変わりつつある)は、たぶん本物だ。私はそう見ている。 だが、それが株として「いつ・どこまで」報われるかは、感情ではなく、構造の変数を見つづけて判断するしかない。最高益の数字に興奮するのではなく、その裏で何が構造的に変わったのかを見る。これが、メモリという波の大きい世界と付き合うための、いちばんの武器になる。

次回は、その先にある「光」の世界に入っていく。 いまチップとチップの間は、電気の信号でつながっている。だがデータの量が増えすぎて、電気では追いつかなくなりつつある。そこで「電気の代わりに、光でつなぐ」という技術が、AIの次のボトルネックを解く鍵として動き始めている。半導体の主役が、電気から光へ移っていく——その入り口の話をする。

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