図書館本118冊目 『嘘と正典』小川 哲280P 2019年 わからなくても面白い、脳がジワジワしてくる短篇集・・・
『君のクイズ』『言語化するための小説思考』を読んでからの、3冊目の小川哲さん。
私はちょっと前に、新大阪ー東京間をのぞみで往復する機会があり、行き帰りの新幹線の中で丸っと一冊読み終えた。
(日帰り東京行については後日書きたい。もう、忘れそうだ~)
6篇から成る短篇集。
書き下ろしの表題作「嘘と正典」以外は、SFマガジンやPenに初出の作品。
・「魔術師」
・「ひとすじの光」
・「時の扉」
・「ムジカ・ムンダーナ」
・「最後の不良」
・「嘘と正典」
どれも、「時間」が絡んでくる。「歴史」も絡んだりする。
・「魔術師」
華麗なマジックで一世を風靡したマジシャンが落ちぶれた後、壮大な仕掛けとともにステージに帰ってきた。
壮大にもほどがある、時空を越えた大掛かりなマジックを披露し、彼はそのステージから姿を消すと同時に、世間からも姿を消した。
後にマジシャンとなった彼の娘がそのマジックのタネを見破り、マジックショーで再現を試みる・・・
緊迫する会場で、私ヤモリリーも緊迫感に襲われるが、
今ひとつ分っていない・・・
もうちょっと頑張ったらわかりそうなんだけれど、
追いついていない。
会場全体が
「やめて!」
という雰囲気になっているのに、
私ひとりが周りをキョロキョロ見回しながら、
「ちょっと意味がわからないんですけど・・・」
な状態になっていた…
もう、これでこの本にハマった。
・「ひとすじの光」
スランプ中で書けない作家の「僕」に、稼げる見込みのない競走馬を残して亡くなった父。
その父は、中学生の「僕」と見に行ったレースで酷い負け方をした馬についての書きかけの原稿と資料を遺していた。
「僕」はそれらを手掛かりに、原稿の続きを書こうと試みる。
馬の血統をたどる話がとても面白かった。
日本ダービーで勝てる馬を育てたい、と名馬の血に執着する小牧場の経営者。
歴史の中で戦争に翻弄される競走馬。
名勝負のシーンには、競馬を知らない私もゾクゾクした。
こういうのもSFマガジンに載るんだ・・・
・「時の扉」
まだ存在しない未来は変えられないが、代償を伴うけれども過去の抹消を可能にする「時の扉」。
己の弱さに直面するたびに過去を変え、勝ち続けてきた男。
その陰であらゆるものを失い続けて来た男も、過去を変え、現在を変え、未来を作りだした。
知らずに交わる2人の歴史。
物語の背骨は「細部」に宿っているという。
個人的な歴史の改竄が今の歴史に繋がっている??
私の捉え方で良いのか・・・
もうちょっとでわかりそうで、わからない…
脳のジワジワが始まった。
・「ムジカ・ムンダーナ」
フィリピンの少数民族ルテア族が暮らす島、デルカバオ。
島民は、それぞれが音楽を所有し、所有した音楽を「貨幣」や「財産」として管理している。
外界とは隔絶していないが、島のルールは厳格。
かつて作曲家であった父から、厳しくピアノのスパルタ教育を受けた「僕」は音楽に関する一切をを遠ざけてきたが、父が遺した録音テープを頼りに、父が訪れたそのデルカバオを目指すことになった。
音楽は宇宙と繋がっている・・・
楽器ができるって、いいね。
じわじわ~
・「最後の不良」
2020年代に「流行をやめよう」という一大ムーブメントが起こる。
流行を気にすること、オシャレをしようとすること、自己主張をすること――それ自体がダサいという風潮が広がり、人々のライフスタイルは無駄のない、洗練されたものに均一化し、「流行そのものが消滅した」
ムーブメントのあおりで休刊することとなったカルチャー雑誌。
編集者桃山は辞表を出す。
そして、かつて取材した「最後のヤンキー集団」から譲り受けた特攻服に身を包み、改造単車ゴッドスピードに跨がった・・・(ゴッドスピードて・・・)
目的の場所に集合していたのは、
森ガール、ボディコン、竹の子族、カープ女子にゆるキャラ軍団 etc.――
「流行を取り戻せ!」のシュプレヒコール――
がしかし桃山はそこで、「流行の消滅」を画策した組織の真の目的を知る。
どっちもどっちやんか、
どこで道が分かれてしまったのか・・・
流行の発生元となった人々 VS 流行に乗った人々の闘いだったのか…?
・「嘘と正典」
動機は違うがそれぞれの正義のために目的が一致した、CIAモスクワ支局の米国人工作員とロシア人研究者。
2人は悪の元凶「共産主義」を無かったことにするために、共産主義の産みの親であるエンゲルスとマルクスが出会わないように、歴史を改竄しようと共闘する。
KGBにバレたら即拷問、そして死。
私はいつの間にか2人に肩入れし、
「お願い、バレないで。上手くいきますように。」
などと、ハラハラドキドキしながら読んでいた。
2人は、「時空間通信」の技術に気付き、未来からメッセージを受信して、過去にメッセージを送信する交信手段を得る。
その技術を使って、エンゲルスの運命を変えるべく、過去の適切な人物に適切なタイミングで交信を行うという、命懸けの作戦を立てた…
がしかし、私がハラハラしながら成功を見守っていた2人の歴史改竄作戦の外側には、2人も知らぬ、《歴史戦争》と呼ばれる更に壮大な「諜報戦争」が仕掛けられていたのだった――
もう、私の後頭部辺りの脳がグニャングニャンと波打ち、これ以上読み続けたら脳が、脳が耳から流れ出てしまうーっ・・・
え、何ですか?
各国が、自国が有利になるように好き勝手に歴史を改竄する未来。
それを阻止して、オリジナルの歴史を守ろうとするグループも発足する。
時空の交信には236年という制限があり、それ以上の交信を行うには中継時点を通じてリレー方式で通信を行い・・・
改竄者を先んじるためには――
え、何ですか? 何ですか?
最後のページを読んだ瞬間には、
「ちょ、待てよ!」
と、物語の冒頭に戻らざるおえなくなっていた…
凄いですね、面白いですね。
6篇、どの物語も、目の前のささいな大事(?)を注視してハラハラと見守っていたら、その外側の大仕掛けに気付かされ、私の脳がドシャッと砂になって崩れていく・・・
いや、100%の理解はできていないので、脳が考えることをやめる。
けれど、感じている驚きは本物なので、緊張感を保ったまま面白く読み終えられる。
特に、複雑に時空を越える部分には自動的に脳が停止するのだけれど、細部が面白いのでいくらでもドキドキし続けられる。
(大きなことにはこだわらない心が肝要。木を見て森を見るな。)
最後の「嘘と正典」は、ほんとに、後頭部の上部辺りの脳がモワモワと妙な感じになり、ジワジワしてきた。
頭に電極とか付けて調べて欲しい。
脳のどの部分がどんな状態になっていたのか知りたい。
