整えるシリーズ『触れることは、生きること。』
私たちには五感があります。
見る。
聞く。
嗅ぐ。
味わう。
そして、触れる。
今回は、その中でも「触覚」について考えてみたいと思います。
触覚は、私たちが生まれる前から働き始める感覚だと言われています。
お母さんのお腹の中で、羊水に包まれ、子宮の壁に触れながら命は育ちます。
そして、生まれて最初に感じるのも、誰かのぬくもり。
人生は、「触れられること」から始まるのです。
だからでしょうか。
大人になっても、誰かの手のぬくもりに安心したり、背中をそっとさすられるだけで涙があふれたりすることがあります。
保健室で子どもたちと過ごした33年間。
泣きながらやって来た子どもに、言葉をかける前に背中へそっと手を添えると、少しずつ表情がやわらいでいく姿を何度も見てきました。
もちろん、今は学校現場でもさまざまな配慮が求められる時代です。
それでも私は、「温もりには、人を安心させる力がある」ということを、子どもたちからたくさん教えてもらいました。
でも、触れる相手は、人だけではありません。
愛犬や愛猫をなでる時間。
お気に入りの毛布にくるまる時間。
庭の花に触れること。
畑の土を握ること。
木の幹に手を当てること。
波打ち際を裸足で歩き、砂の感触を味わうこと。
温かいマグカップを両手で包むこと。
大切にしている楽器に触れること。
そんな何気ない時間も、私たちの心をやさしく整えてくれます。
考えてみると、不思議です。
目は遠くを見ます。
耳は遠くの音を聞きます。
でも、触覚だけは違います。
触れるという感覚は、「今、この瞬間」にしか存在しません。
風が頬をなでる。
足の裏に芝生を感じる。
お湯の温かさを感じる。
その瞬間、人は自然と「今ここ」に戻ります。
未来への不安や、過去への後悔でいっぱいになった心も、触覚は静かに現在へ連れ戻してくれるのです。
だから私は思います。
私たちが本当に求めているのは、人とのつながりだけではなく、「命とのつながり」なのかもしれない、と。
人の命。
動物の命。
木の命。
土の命。
海の命。
そして、自分自身の命。
何かに触れることは、「私はこの世界の中で生きている」という感覚を思い出させてくれる時間なのではないでしょうか。
整えるということは、頑張ることではありません。
感じること。
今日は、大切な人の手でもいい。
愛するペットでもいい。
木でも、土でも、海でもいい。
そして、誰もそばにいない日は、自分の胸にそっと手を当ててみてください。
その温もりは、
「今日もよく頑張ってるね。」
そんな言葉を、自分自身に届けてくれるかもしれません。
触れることは、生きること。
あなたは今日、何に触れますか。
