エンタメビジネスの勝ち方の変化に気づいてますか?―「作る力」だけでは足りない時代、重要になるのは何?
「ヒットの読みにくさ」は相変わらず。変わったのは周辺環境
エンタメビジネスでは昔から、何がヒットするか分からないと言われてきました。ここは今も変わっていません。変わったのは、ヒットが生まれる環境のほうです。
以前は、作品を世の中に出すことに大きな資金が必要で、作ることと流通させることを両立できるプレーヤーはごく限られていました。
現在は、このハードルはかなり低くなっています。YouTubeやTikTokなら個人でも世界へ動画を出せますし、音楽は配信で届き、ゲームもSteamを通じて世界へ販売できます。AIによって映像、音楽、翻訳、デザインの制作コストも下がっていくと考えられます。
その代わり、別の問題が大きくなりました。作品が多すぎるのです。
非公式データベースのSteamDBによれば、Steamで2025年にリリースされた作品数は12月13日時点で1万9,112本、2024年の1万8,559本を上回って過去最高を更新しました。同じ集計では、レビュー数が0件の作品が2,229本、1〜9件が7,098本と、どちらも前年から増えています。2026年も7月3日時点で1万2,000本を超え、レビュー1,000件以上に到達した作品の割合は約2.76%にとどまっています。作品は増え、日の目をみる作品の比率は下がる。これがいま起きていることです。
前回考察したとおり、音楽ジャンルでも同じ傾向が加速していましたね。
多くのコンテンツは、ビジネスにはならず、自己満足で埋もれるために作られていると言っても過言ではない時代です。
不足しているのはコンテンツではなく、それを見たり聴いたり、遊んだりする人の時間と関心です。したがって、これからのエンタメ企業には、良い作品を作る力だけでなく、見つけてもらい、反応を見て、伸びたものを大きくし、ファンを残し、人気を売上に変え、最後にIPとして残すところまでを考える力がより一層必要になります。
1.「当たりを選ぶ」より「当たりを見つける」
かつてのエンタメ企業では、企画会議で候補を絞り、大きな予算を一本に投入する方法が一般的でした。大型映画やAAAゲームでは今後も必要な方法です。ただ、今風の小さく試せる分野では考え方が変わってきています。
象徴的なのが「スイカゲーム」です。もともとはAladdin Xのプロジェクター向けコンテンツとして2021年4月に配信され、同年12月9日にNintendo Switch版が240円で発売されました。移植先の候補にはスマートフォンアプリもありましたが、同社は多くのアプリに埋もれるより目立つ可能性が高いストアを選んだと説明しています。
それでも、リリース当初は特に話題になっていません。本格的なブームが起きたのは2023年秋、発売から約2年後でした。ダウンロード数は2024年10月時点で累計1,100万を突破し、2026年3月時点ではシリーズ累計1,300万を超えています。
世の中に出ていたものが、あるタイミングで発見され、大きく伸びたケースです。
最初から願望込みで大ヒットを完全に予測して動くのではなく、市場へ出しておき、何かが動き始めた時に、すぐ追加投資できる備えは用意しておくという感覚が効果的になってきていることを示す典型例だと思います。
キャラクターなら数種類をSNSへ出してみる、ゲームならプロトタイプを遊んでもらう、音楽なら短尺動画で複数の曲を試す。いい反応があったものにだけ、担当と予算を追加する。この方法を取れる領域は、今後さらに増えていくでしょう。
2.入口は、以前より敷居を低くしよう
コンテンツが増えれば増えるほど、最初の数秒でこれは何なのかが伝わることが重要になります。その意味で参考になるのが、みんな大好き「ちいかわ」です。
「ちいかわ」はナガノさんがSNSに投稿した漫画から始まった作品で、見た目だけなら非常に分かりやすいキャラクターです。一方、物語を読んでいくと、労働、試験、危険な敵、不条理な出来事など、かわいい外見だけでは終わらない世界が広がっています。単行本の紹介文でも、楽しくて、切なくて、ちょっとハードな日々の物語と書かれています。
最初から世界観を全部説明する必要はありません。まず、かわいい、面白い、怖い、かっこいいという一瞬の感情がある。その後で、このキャラクターはなぜこうなのか、この世界はどうなっているのかと調べたくなるものがある。入口は簡単に、奥は深く、という順序です。
情報量を減らすことと、作品を浅くすることは違います。コンテンツがさらに増えるほど、最初の理解コストが低く、ファンになった後の滞在時間が長いIPが強くなると考えられます。
そういえば、僕ぐらいの世代のゲーム好きには、まさに「幻想水滸伝」シリーズの世界観なんかもそうでしたね。かなりハマって、ゲーム会社の経営者時代には、過去のメインスタッフの皆さんにお願いして、オマージュ作品を手掛けてしまいました。
3.ヒットは、一つの媒体だけでは起きにくくなっている
現在の大きなヒットを見ると、複数の媒体が同時に動いているケースが目立ちます。Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」が分かりやすい例です。
2024年1月7日にリリースされた同曲は、TVアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』のオープニング・テーマとして発表され、主人公が踊るダンスがSNSでミーム化しました。
Billboard JAPANの2024年年間JAPAN Hot 100では、週間13連覇、通算19回の首位で年間1位。年間TikTok Songs Chartと年間UGC Songsでも1位を取り、年間Japan Songs(国別)では5か国で首位となっています。上半期時点の累計ストリーミング数は約3億4,900万回でした。
ここで重要なのは、TikTokでバズったから売れた、と単純化しないことです。アニメを見る人、曲を聴く人、ダンスを見る人、自分で動画を作る人。それぞれ別の入口があり、一つの作品が複数の場所から発見されています。
以前のようにテレビで宣伝してCDを売るという一直線の流れではありません。今後は、一つのコンテンツに複数の発見経路を作ることがより重要になります。

4.SNSは「宣伝する場所」から「ユーザーが参加する場所」へ変わった
テレビCMでは、視聴者は基本的に見るだけの存在でした。SNSでは違います。曲を使う、踊る、絵を描く、切り抜く、真似する、コメントする、考察する。ユーザー自身がコンテンツの流通に参加します。
前述のBBBBダンスは、NiziU、RIIZE、INI、TOMORROW X TOGETHERといったアーティストから一般ユーザーまでが投稿し、2024年12月時点で380万件以上の楽曲使用が確認されました。公式が宣伝するだけでは、この本数には届きません。
再生回数だけを見ていると重要な部分を見落とします。これからは、何人が見たか以上に、見た人が何をしたかを追う必要があります。保存率、再視聴率、コメント、UGC、二次創作などが重要になる理由がここにあります。
5.突然のヒットに備える必要性が、以前より大きくなった
ヒットの立ち上がりが非常に速くなることがあり、ヒットしてから準備していては間に合わないケースが増えています。M!LKは、その意味で興味深い例です。
M!LKは2014年11月結成、2015年3月に「コーヒーが飲めません」でCDデビュー、2021年11月にビクターエンタテインメントからメジャーデビューしたグループです。2024年11月に結成10周年イヤーへ入り、その後、2025年3月発売のメジャー2ndアルバム『M!Ⅹ』のリード曲「イイじゃん」がSNSで大きく広がりました。
所属レーベルの公表値では、同曲のSNS総再生数は27億回を突破していますが、無名の新人が突然一本だけ当てたケースとは違い、楽曲、メンバーの俳優活動、ファンクラブ、SNSの蓄積があり、そこへ大きなヒットが乗っかった形となりました。
一曲のヒットやバズはたくさんの人を集客します。しかし、その人たちをファンに変えるには、それ以外のコンテンツが必要です。今後は、どうバズらせるかだけではなく、もし明日突然100万人来たらどこへ案内するのかを先に考えておく必要があります。
6.一過性ヒットの規模より「ヒット後の転換」が重要になる
SNS時代は、一過性の非常に大きな数字を、以前とは比較にならないほど、簡単に獲得できるようになりました。しかし、それがそのまま事業価値とはなりません。重要なのは、その次です。
動画を見る、フォローする、別の作品も見る、商品を買う、ライブやイベントへ行く、会員になる。この流れがどこまで続くかが重要です。100万人に一度だけ注目してもらうことよりも、そのうち、10万人なりとも半年後も残ってくれていることの価値のほうが上です。
世の中のコンテンツ供給が増えるほど、好きになって残る人を作る難易度は上がります。したがって、フォロワー総数だけではなく、新規ファン数、90日後の残存率、再視聴率、商品購入率、リピート購入率などを注視する必要があります。
7.「人の人気」を「IPの価値」へ移せるか
アイドル、アーティスト、俳優、YouTuber、VTuberなどでは、本人の人気が最初のエンジンになります。しかし、人間の稼働時間には限界があります。
そこで、人気が出た後には、楽曲、映像、商品、ゲーム、出版、キャラクター、ライセンスなどへ広げる必要があります。この考え方自体は昔からありましたが、現在は、SNSによって無名の個人でも短期間で話題となる可能性が高まったため、もっと早い段階から考えておく必要があるようです。
人気者を作ることと、IPを作ることは同じではありません。人気を、どれだけ本人がその場にいなくても売れるものへ広げられるかが重要になります。
また、SNS漫画というニッチな入口から、テレビアニメ、公式EC、ライセンス商品へと広がった「ちいかわ」の大ブレイク事例を見ると、小規模IPでも同様に、なるべく早くから準備しておく方が良さそうです。
「ちいかわ」の例で言えば、ついには劇場作品という大規模コンテンツにまで上り詰めました。『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は2026年7月24日に全国447館で公開され、初日3日間で観客動員150万8,538人、興行収入22億4,033万円。興行通信社の集計では、公開17日で興行収入約67億7,000万円、動員約469万人に達しています。
備えあれば憂いなし、です。
なお、IPを買って手に入れる側の論理については、以前こちらで整理しました。
8.海外進出は「海外へ売りに行く」ものではなくなってきた
以前の海外展開は、国内で成功してから海外へ持っていくのが一般的でした。現在は、国内向けに作った作品でもSNSや配信を通して最初から海外で見られます。「Bling-Bang-Bang-Born」が日本以外の複数国で首位を取ったことも、その一例です。AI翻訳や音声技術がさらに使いやすくなれば、日本語の壁も低くなっていくでしょう。
一方、逆方向も同じです。海外の音楽、ゲーム、映像、キャラクターも簡単に日本へ入ってきます。世界へ出やすくなった代わりに、最初から世界と競争することになります。ゲームはまさにそれで大苦戦している状況です。
また、海外で人気になるだけでは十分ではありません。人気なのに日本側にはあまり利益が残らない、という事態が生じない座組み構築までがビジネスです。グローバルなプラットフォーム作りが不得意な日本勢には重要なポイントです。
9.AIで一番変わるのは「作品の質」以上に「作品の量」
AIの議論では、AIでヒット作品を作れるかが注目されます。しかし、エンタメビジネスへの影響としてもっと大きいのは、作られる作品の数が増えることかもしれません。
映像制作が速くなる、キャラクターを大量に試せる、翻訳が安くなる、ゲーム開発の一部を効率化できる、広告素材を大量に作れる。一社あたりの試行回数は増えます。
しかし、それは競合も同じです。結果として、作品を作るコストは下がるが、選んでもらう難易度は上がる可能性があります。Steamのリリース本数と、レビュー1,000件以上に到達する作品の割合が逆方向に動いていることは、その先取りとも読めます。
その意味では、AI時代ほど、誰が作ったのか、なぜこのキャラクターが好きなのか、誰と一緒に楽しんでいるのか、過去の物語が何なのか、次に何が起こるのかといった、単発の生成物では作りにくい領域の価値が高まる可能性があります。
AIを使って試行回数を増やしつつ、その中から受け手がポジティブに反応するものを、いち早く見つけるプロセスが重要になると思われます。
10.これからは「売上」だけでなく「何が残ったか」を見る
一度大きなヒットを出しても、翌年またゼロから始めるのであれば、事業としては不安定です。ヒットの結果としてIPが残った、ファンが残った、自社ECの顧客が増えた、ファンクラブ会員が増えた、商品カテゴリーが増えた、海外の販売先ができた、ライセンス契約が増えた。こうした状態を作れるかどうかまで含めて考える必要があります。
また、今後は、TikTok、YouTube、Instagramなどのプラットフォーム上の人気と、自社が持っている顧客との関係を分けて見る必要もあります。100万人のフォロワーは大きな力ですが、その人たちとの接点は外部プラットフォームに依存しているのです。
商品購入者、ファンクラブ会員、自社EC会員、イベント来場者は、より直接的な関係です。プラットフォームで人気を作り、自社でもファンを囲い込むことが重要になります。
昔とこれからでは、何が変わるのか
ここまでを整理すると、違いは比較的はっきりしています。

「スイカゲーム」、「ちいかわ」、Creepy Nuts、M!LKはジャンルも売れ方もまったく違います。ただ、共通して見えることがあります。
①最初からすべてが計画通り大ヒットしたわけではないこと。
②世の中へ出した後に、人々の反応によって大きくなっていること。
③SNSや動画、アニメなど複数の場所から新しい人が入ってきていること。
④大きくなった後には別の商品や体験へ広がっていくこと。
現在のエンタメビジネスを考えるうえで、この4点は外せないと思います。
これからは見るべき数字も変わる
売上高や再生回数はもちろん重要です。ただ、それだけでは足りません。私が見ておきたい指標を挙げると、次のようになります。

このうち一つでも社内で定義されていない指標があれば、そこが手薄になっている場所だと考えていいと思います。
それでも、良い作品を作ることが一番大事
これからも、良い作品を作ることが一番大事であることは変わらないと思います。変わるのは、その前後と取り扱いです。
以前は、良い作品を作り、大きな流通に乗せることが成功への大きな条件でした。
これからは、小さく市場へ出し、反応を見て、何度も試し、伸び始めたものへ追加投資し、複数の場所から発見してもらい、突然人が集まっても受け止められるようにしておき、ファンを残し、商品やサービスへつなげ、最後にIPや顧客として会社に残すところまでが一つの仕事になります。
「スイカゲーム」のように、発売から約2年経って突然大きくなることもある。M!LKのように、10年の下積み活動の上に大きなバイラルヒットが乗ることもある。Creepy Nutsのように、音楽、アニメ、SNSが組み合わさって一気に世界へ広がることもある。「ちいかわ」のように、SNSで始まった漫画がアニメや商品へ広がり、興行収入70億円規模の映画になることもあります。
ジャンルは違えども、これからのエンタメ企業に必要なのは、ヒットを完璧に予測する能力より、ヒットの芽を早く見つけ、大きくし、残す能力なのではないでしょうか。コンテンツが増え続けるほど、この差は大きくなっていくと思います。
それではまた、こちら「はっちょんブログ」でお会いしましょう!
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