小石の恩返し(散文詩)〜弍〜/うたの輪
あの日
学校の帰りに
池に石を投げた
チャポン
何故かその音は
とても嬉しかった
家に帰っても誰もいない
冷蔵庫にも何もない
壁に向かって話しても
何も返ってこない
チャポン
その音が
なんだかとても嬉しかった
それから私は
毎日
毎日
池に通った
石を投げては
チャポン
投げては
チャポン
不思議なこともあるものだ
チャポンの後に
コトッ
石が返ってくることがあった
誰かが
私を見てくれる
それがとても嬉しかった
そんなある日
いつものように池に行くと
雨が降ってきた
小石を探していた時に
足元に抵抗がなかった
それから先は
記憶が曖昧だ
覚えているのは
水面の波紋と
何かが私に触れる感触だけ
気が付いた時は
びしょ濡れの傷だらけ
家に帰ると
何故かいつもいない
母親が家に居た
何故叩かれたのかは分からない
暫くすると
私の居場所には
柵が立てられ入れなくなった
何もない私から
これ以上奪わないで
叫んでも
叫んでも
願いは届かず
いつの間にか池はなくなった
あの日から
時々思うようになった
「誰かが私を見てくれている」
そう
奇妙なクセも付いた
近くで池を見つけると
石を投げる
チャポン
もちろん石は返ってこない
でも
波紋は
前より広がって見えた
あれからどれくらい経っただろう
旅行先で訪れた山の中
子供と一緒に散歩中
木々の向こうに
一つの池を見つけた
いつものように石を投げる
チャポン
いつものように波紋が広がる
「ママ先に行くよー」
「はいはい、先に行っちゃダメよー」
コトッ…

