25.日々の生活改善
「次は絶対に合格する」
不合格を報告した、お父さまとの面談を終えてから、俺の中で何かが完全に変わった。
次は絶対に合格する。
強く、強く心に決めた。
次の試験までの時間を、すべて受験対策に振り向ける。
生活スタイルそのものを変えることにした。
とはいえ、仕事の手を抜くわけにはいかない。
自分に与えられた仕事を適当に処理することも、俺自身が許せなかった。
だから、仕事については今まで通り、いや、それ以上にきっちりやった。
ただし、一つだけ変えた。
後輩たちのフォローについては、申し訳なかったが、少しだけ手を緩めた。
それまでは、自分の仕事が終わっていても、後輩の面倒を見たり、相談に乗ったりしていた。
そこに使っていた時間を、少しだけ自分のために使うことにした。
手持ちの仕事を、とにかく集中して片付け、10分でも20分でも予定より早く終わらせる。
そして、その空いた時間は――
車の中で参考書を開いた。
わずか10分。
たった20分。
それでも、俺にとっては貴重な勉強時間だった。
通勤時間も同じだった。
当時、通勤には2時間弱かかっていたが、この時間を無駄にするわけにはいかない。
電車に乗った瞬間から、そこは俺にとっての「英単語暗記室」になった。
毎日の通勤時間を、徹底的に英単語の暗記に使った。
それでも、まだ足りない。
そう感じていた。
そこで、英会話スクールのイー○ンにも通うことにした。
受講したのは、TOEIC600点コース。
当時、30歳を少し下回るくらいだった俺が、大学生たちに混じって英語を勉強していた。
周りは若い学生ばかり。
そんな中に、おじさんが一人。
今思えば、なかなかシュールな光景だったと思う。
でも、そんなことを気にしている余裕はなかった。
絶対に合格する。
その気持ちだけだった。
そんな生活を、半年ほど続けた。
仕事。
通勤電車。
英単語。
現場作業。
車の中で参考書。
仕事が終われば英会話。
そして、また勉強。
生活の中心が、完全に受験になった。
半年後。
英語については、かなり手応えを感じられるところまで来ていた。
ここまでやった。
英語対策は、もう万全に近い。
残るのは、
小論文と世界史。
そして国語については、
「まあ、なんとかなるだろう」
と、ほとんど対策をしなかった。
小論文については、出題される題材がある程度絞られていた。
そこで、想定される題材をもとに、二、三本の小論文を書いた。
そして、それぞれの文章の中から、
「この表現は使える」
「この文章はいい」
と思った部分をピックアップしていった。
それらを一つにまとめ、自分の「型」として覚え込んだ。
そして、もう一つの難関が世界史だった。
これも徹底的にやった。
参考書を丸暗記した。
ただし、単純に文字を暗記したわけではない。
俺は、世界史の一つ一つの出来事には、必ず「ストーリー」があると考えた。
なぜ、この出来事が起きたのか。
その前に何があったのか。
誰と誰が対立したのか。
そして、その結果、何が起きたのか。
出来事をバラバラに覚えるのではなく、ストーリーとして理解した上で丸暗記する。
そうすると、不思議と記憶に残った。
さらに、参考書の本文だけではなく、文字が小さく書かれている細かな補足事項まで覚えた。
「ここまで覚える必要があるのか?」
と思うような情報まで、とにかく覚えた。
もう、やれることは全部やった。
前回の俺とは違う。
仕事をしながらでも、時間は作れる。
卓球をしながらでも、勉強はできる。
通勤時間だって、立派な勉強時間になる。
「時間がない」のではない。
時間をどう使うかだった。
そして、次の試験の日が、少しずつ近づいてきた。
