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#03 「頑張った人」 ほど、疲れていく

地域の活動を長く支えてきた人ほど、こんな言葉を口にすることがある。
「大変だけど、やりがいがあるから」。
その一言は、本人にとって嘘ではない。
けれど、その言葉が周囲から都合よく使われてしまうことがある。

子ども食堂を10年近く続けてきたある運営者は、こう話していた。
「最初は楽しくて仕方なかった。でも今は、自分が休んだら誰かが困る、という気持ちの方が大きい」。
楽しさが義務感に変わっていく過程は、本人にもはっきりとは自覚できない。
気づいたときには、もう後戻りしづらいところまで来ている
——そんな話は、決して珍しくない。


「やりがい搾取」という言葉がある。
教育社会学者の本田由紀氏が名付けたもので(※1)、本来支払われるべき対価の代わりに、「やりがい」という感覚を強く意識させることで、無償や低い待遇での労働を引き受けさせてしまう構造を指す。
もともとは雇用の文脈で使われてきた言葉だが、ボランティアの現場にも、驚くほどそのまま当てはまることがある。

「誰かの役に立っている」という実感は、本来とても尊いものだ。
けれど、その実感があるからこそ、
「大変です」「もう限界です」と声を上げにくくなる、
という逆説が生まれる。
頑張っていることそのものが正当に評価されず、
"やりがいがあるならいいよね"
という空気の中に、疲労がすっと溶けて見えなくなってしまう。

#02で見たように、今の現場の多くは「同じ顔ぶれ」に支えられている。
役割を引き受けられる人が限られているからこそ、一人ひとりの負担は自然と重くなる。
そしてその人たちの多くは、「自分が抜けたら、誰かが困る」という責任感を強く持っている。
責任感が強い人ほど、しんどさを口にする前に、もう一段階、頑張ってしまう。


若い世代についても、興味深いデータがある。
新しく参加した人の離脱は、必ずしも「意識が低いから」起きているわけではない。
ある調査(※2)では、参加を希望していながら実際には参加できていない、あるいは参加しても続けられなかった人が、半数を超えるという結果が出ている。
理由の多くは、本人のやる気の問題ではなく、受け入れる側の仕組みの問題だ。
継続を前提とした関わり方しか用意されていない。
フィードバックの機会がなく、自分の活動が何につながっているのか見えない。
意思決定の場に呼ばれず、「手足」としてだけ扱われている感覚が残る
——そうした小さな違和感の積み重ねが、静かな離脱につながっていく。

言い換えれば、若い世代が「続かない」のではなく、続けられる設計になっていない現場が多い、ということだ。
これは#02で見た担い手不足の話とも重なる。
新しく入った人が定着しないまま抜けていくたびに、結局は「いつもの数人」に負担が戻ってくる。


さらに厳しい現実もある。
日本非営利組織評価センターが継続している調査(※3)によれば、NPOを「信頼できる」と答える人は、ここ数年おおむね5人に1人程度で推移している。
国際的に見ても、日本ではNGO・NPOへの信頼度と他国との差が、比較対象の中でもとりわけ大きいという指摘(※3)もある。
社会のために動いている人たちが、必ずしも社会から厚く信頼されているわけではない、という現実だ。
この冷ややかな視線の中で活動を続けることも、担い手にとって静かな消耗の一因になっている。

つまり「燃え尽き」は、個人の弱さの問題ではない。
責任感の強さ、支える人の少なさ、そして周囲からの見えにくい評価
——それらが重なり合って生まれる、構造の問題だ。

だからこそ、
「もっと感謝を伝えよう」
「ねぎらいの言葉をかけよう」
という個人レベルの優しさだけでは、この構造は変わらない。
もちろん、そうした言葉は無いよりずっといい。
けれど、感謝の言葉だけで人手が増えるわけではないし、責任の集中が分散されるわけでもない。
必要なのは、頑張り続けている一部の人に負担が集中しない仕組みそのものを、どう設計し直すかという視点だ。


「善意に頼らない」という、このシリーズの総タイトルの意味が、ここでようやく輪郭を持ち始める。
善意そのものを否定するのではない。
善意を持った人が、その善意だけで支え続けなければならない状態を、少しずつ手放していくこと。
それが、これから考えていきたいテーマだ。

次回は、いよいよこのシリーズの核心に入る。
個人の善意に頼るのではなく、時間や信用そのものを"通貨"として扱う
——そんな発想について見ていきたい。


(※1)「やりがい搾取」は、教育社会学者・本田由紀氏(東京大学大学院教育学研究科教授)が提唱した概念。
(※2)ISVD「若年ボランティアはなぜ離れるのか——NPOが知るべき構造的要因と定着設計」より。
(※3)公益財団法人 日本非営利組織評価センター(JCNE)「NPOの信頼性についての意識調査」(2023〜2026年度、継続調査)より。


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