「標準仕様」の罠。建築家が教える「守る標準・破る標準・どうでもいい標準
家づくりをしていると、必ずと言っていいほど出会う言葉があります。
「標準仕様です」
キッチンはこれ。床材はこの中から。外壁はこのシリーズ。窓はこのメーカー。洗面台はこの3種類。建具はこのカタログから。
そして、そこから少し外れたものを希望すると、今度はこんな言葉が返ってきます。
「それは弊社の標準仕様から外れるので、オプションになります」
「その材料は保証の関係で使えません」
「前例がないので難しいです」
「できますが、かなり高くなります」
家づくりを経験した方なら、一度くらい聞いたことがあるのではないでしょうか。
最初のうちは、「そういうものなのかな」と思います。
しかし、打ち合わせのたびにこれが続くと、少しずつ疲れてきます。
本当は無垢の床にしたかった。もっと窓をきれいに見せたかった。壁紙ではなく、塗り壁にしたかった。照明も、天井にダウンライトを並べるのではなく、もう少し落ち着いた光にしたかった。
けれど、一つ希望を伝えるたびに金額が上がり、難しいと言われ、保証の話をされる。
そして最後には、「もう面倒だから、標準でいいです」となってしまう。
私は、この瞬間がとてももったいないと思っています。もちろん、標準仕様そのものが悪いわけではありません。
むしろ住宅会社にとって標準仕様は、品質を安定させ、施工ミスを減らし、価格を抑えるための非常に合理的な仕組みです。
問題は、「標準仕様だから」という理由だけで、家づくりの判断を止めてしまうこと。です。
家には標準を守った方がいいところがあります。一方で、標準から外れる価値が非常に高いところもあります。
そして実は・・・
ほとんどお金をかけなくてもいいところもあります。
この3つを区別できるようになると、家づくりは大きく変わります。
予算が増えるから良い家になるのではありません。
限られた予算を「どこに使わないか」「どこに集中させるか」。
そこに設計の力量が現れます。
今回は、設計実務に携わる立場から、
「守る標準」
「破る標準」
「どうでもいい標準」
という3つの考え方を軸に、住宅会社の標準仕様との付き合い方を考えてみたいと思います。
そして後半では、
なぜ標準仕様から外れると高くなるのか
「保証できません」と言われたとき、何を確認すればいいのか
施主支給と施主指定の違い
私ならどこにお金をかけるのか
逆に、予算オーバーしたら何から削るのか
50万円、100万円、300万円の追加予算があったらどう配分するのか
外構・植栽の予算をなぜ最後にしてはいけないのか
といった、具体的なところまで踏み込んでいきます。
これは「高級な家をつくる方法」の話ではありません。むしろ逆です。
限られた予算の中で、家の質を最大限まで引き上げるための話です。
第1章 そもそも「標準仕様」とは何なのか
まず、標準仕様そのものを敵視する必要はありません。
住宅会社が標準仕様を設定することには、きちんとした理由があります。
同じメーカー。
同じ商品。
同じ施工方法。
同じ納まり。
これを繰り返すことで、職人は作業に慣れます。
現場監督もチェックポイントを把握できます。
設計者も詳細を毎回ゼロから考える必要がありません。
資材の発注ミスも減ります。
さらに、特定メーカーの商品を大量に採用すれば、仕入れ条件も良くなることがあります。
つまり標準仕様とは、住宅会社が一定の品質を、一定の価格で、効率よく提供するための仕組みなのです。
これは決して悪いことではありません。
むしろ大量の住宅を安定して供給するためには、非常に優れた仕組みです。ただし、ここで一つ重要なことがあります。
住宅会社にとっての「合理的」とあなたにとっての「心地よい」は、必ずしも一致しません。
標準仕様は「あなたのためのベスト」ではない
ここを勘違いしてはいけません。
標準仕様に選ばれている商品は、「この家に最も美しいもの」でも、「あなたの暮らしに最も適しているもの」でもありません。
会社が扱いやすく、価格を管理しやすく、施工品質を安定させやすく、クレームが起こりにくい。そうした複数の条件を満たした結果として選ばれている商品です。
つまり、標準仕様とは「住宅会社にとって再現性の高い選択肢」なのです。
だからこそ「標準だから良い」でもなければ「標準だから悪い」でもありません。
重要なのは、その標準が、自分たちの家にとって本当に合理的なのかを一度考えることです。
第2章 なぜ標準仕様から外れると急に高くなるのか
ここは家づくりをしている方が最も納得しにくいところだと思います。
例えば、標準の床材から無垢材へ変更したい。
商品の価格差を調べると、それほど大きくない。
ところが見積もりを見ると、
「なぜこんなに上がるの?」
という金額になっている。
このとき、「住宅会社がぼったくっている」と考えてしまいがちです。しかし、話はもう少し複雑です。
材料費以外の「見えないコスト」
標準外の商品を使うと、単純な材料差額以外にもコストが発生します。
例えば・・・
商品を探す
仕入れルートを確認する
見積もりを取り直す
図面を修正する
納まりを検討する
職人に説明する
現場で確認する
納期を管理する
不具合時の責任範囲を整理する
こうした仕事です。
標準仕様なら、ほとんど考えなくてよかった部分に、新しい仕事が発生します。
さらに会社側からすれば、初めて使う商品にはリスクがあります。
施工方法は問題ないか。
他の材料と干渉しないか。
メンテナンスはどうするのか。
不具合が起きた場合、メーカー責任なのか施工責任なのか。
住宅会社は、こうした不確定要素まで含めて価格を考えます。
だから、
「商品の差額=オプション費用」
にはならないのです。
ここを理解しておくことは、とても重要です。
第3章 「保証できません」と言われたら、まず分解する
標準仕様から外れようとすると、非常によく登場する言葉があります。
「保証できません」
この言葉は強力です。
家づくりの専門家ではないお施主様からすると、「保証できない」と言われれば怖くなります。
当然です。ただし、そこで話を終わらせないでください。
喧嘩をする必要もありません。
代わりに、保証の中身を分解して聞いてみる。これが重要です。
例えば、私は次のように確認することをおすすめします。
「具体的に、どの保証に影響しますか?」
「商品そのものの保証ですか。それとも施工部分の保証ですか?」
「構造や防水にも影響しますか?」
「この材料を使用した部分だけ保証対象外にすることはできますか?」
「メーカー指定の施工方法に従っても難しいでしょうか?」
ここまで聞くと、「本当に技術的に難しいもの」と、「会社の運用上やりたくないもの」が少しずつ見えてきます。
本当に無理を言ってはいけない場所もある
もちろん、何でも押し通せばいいわけではありません。
「構造」「基礎」「防水」「屋根」「外壁」「サッシ周辺の防水」「断熱・気密」
こうした部分は、一つの変更が建物全体の性能や耐久性に影響します。
住宅会社が独自の施工方法を確立し、それを前提として保証制度を構築している場合もあります。
ここを素人判断で無理に変更するのは、私はおすすめしません。
一方・・・
「室内の床」「壁」「照明」「金物」「家具」「一部の建具」
こうした部分は比較的自由度を確保しやすい。もちろん下地、防火、重量、施工方法などによって条件は変わります。
だからこそ、
「標準外=全部危険」でも「仕上げだから全部自由」でもない。
一つずつ理由を聞いて判断する。
これが重要なのです。
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ここまでは、標準仕様がなぜ存在し、なぜ標準外が高くなるのかを整理しました。
では、実際の家づくりでは、何を標準のままにして、何を変えるべきなのか。
ここからが本題です。
後半では、私なら家づくりの予算をどう配分するのかを、かなり具体的に書いていきます。
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