「お風呂のサイズの決め方」と、私が“木造2階の在来浴室”を絶対に作らない理由
家づくりにおけるお風呂(浴室)の検討は、ともすれば「メーカーはどこがいいか」「壁のパネルはどの色にするか」といった表層的なデザインや機能の比較から入ってしまいがちです。
しかし、私たち建築家が間取りを設計する際、浴室に関して最も神経を使うのは「サイズの決定」と「配置する階数・工法の選定」です。
なぜなら、お風呂は家の中で最も「湿気」と「水濡れリスク」が集中する場所であり、一度作ってしまえば簡単にはサイズも位置も変えられない不動の空間だからです。さらに、お風呂のサイズを「たった20cm」広げるか狭めるかで、隣接する洗面脱衣室やファミリークローゼット、家事動線の広さが劇的に変わります。
「お風呂は毎日リラックスする場所だから、とにかく広い方が安心!」 カタログやモデルハウスの言葉を鵜呑みにして、とりあえず大きな浴室を作ってしまう人は後を絶ちません。ですが、無批判に広いお風呂を選ぶことは、建築費の高騰だけでなく、日々の掃除の手間や水道代・光熱費の負担、さらには将来的な漏水リスクまで抱え込むことを意味します。
この記事では、住宅設計の現場で何百棟という間取りに向き合ってきたアトリエ建築家としての視点から、「ユニットバスの最適なサイズ選びの鉄則」と、建築家として絶対に譲れない「木造2階の在来浴室(オーダーメイド風呂)を私が絶対に設計しない決定的な理由」について、私なりの考えをお伝えします。
第1章:ユニットバス(システムバス)のサイズと特徴の完全解説
日本の住宅で圧倒的なシェアを占めるユニットバス(システムバス)。まずはそのサイズ表記のルールと、各サイズが暮らしにどのような影響を与えるのかを冷静に解き明かしていきましょう。
1-1. サイズ表記のルールと「坪数」の関係
カタログなどで目にする「1616」や「1317」という4桁の数字は、浴室内部(内寸)の幅と奥行き(10cm単位)を表しています。
0.75坪サイズ(内寸 約1,200mm × 1,600mm や 1,300mm × 1,700mm)
表記例:1216 / 1317
1坪サイズ(内寸 約1,600mm × 1,600mm や 1,700mm × 1,700mm)
表記例:1616 / 1717
1.25坪サイズ(内寸 約1,600mm × 1,800mm や 1,600mm × 2,000mm)
表記例:1618 / 1620
1.5坪サイズ(内寸 約1,800mm × 1,800mm 以上)
表記例:1818 など
多くのお施主さんが、「標準=1坪(1616)」と思い込んでいます。しかし、「本当にそのサイズがあなたの暮らしにベストなのか?」を検証していきます。
1-2. 【サイズ別】徹底比較と最適解
① 0.75坪(1216 / 1317サイズ):実は「賢い選択」としてのコスパ最強バス
「都市部の狭小住宅やアパート用のお風呂」と思われがちですが、実はお施主さんの暮らし方によっては、あえてこのサイズを選ぶのが最も賢明なケースがあります。
メリット:
お湯張りの量とスピード: 浴槽が少しコンパクトな分、毎日の水道代とガス・電気代(給湯費)が圧倒的に抑えられます。
掃除のしやすさ: 床面や壁面の面積が小さいため、毎日の拭き上げやスポンジ掃除の時間が劇的に短縮されます。
温まりやすさ: 空間の容積が小さいため、冬場に暖房をかけた際の温まりの早さは抜群です。
他空間への余白の付与: お風呂を1坪から0.75坪に絞ることで、浮いた0.25坪(約0.5帖)を隣の洗面脱衣室や玄関収納、パントリーに回すことができます。
デメリット:
身長が高い人は、足を完全に伸ばして浴槽に入れない場合があります(膝を少し曲げる程度)。
親と子ども2人が一度に洗い場にいると、かなりの窮屈感があります。
このサイズが適している人: シャワー中心の暮らしの人、共働きでとにかく家事時間を削減したい人、リビングや収納など他の空間を1cmでも広く取りたい人。
② 1坪(1616 / 1717サイズ):王道かつ基準。悩んだらこのサイズ
現在、新築の戸建てで最も多く採用されている王道サイズです。
メリット:
身長170〜180cm程度の成人男性でも、浴槽でほぼ足を伸ばしてリラックスできます。
親1人+子ども1〜2人でお風呂に入る際にも、洗い場で体を洗うのに十分なスペースがあります。
住宅会社の標準仕様になっていることが多く、設備やパネルの選択肢が最も豊富です。
デメリット:
特筆すべき弱点はありませんが、無批判に「みんなが選んでいるから」という理由だけで採用すると、実は隣の収納をもっと広くできたはずの「機会損失」を生むことがあります。
このサイズが適している人: 一般的な家族構成(4人家族など)で、特別なこだわりがなければ、このサイズを基準に検討するのが最もバランスが良いと言えます。
③ 1.25坪(1618 / 1620サイズ):洗い場に余裕ができるが、注意点も多い
1坪サイズの浴槽の大きさはそのままで、「洗い場の幅が20〜40cm広くなった」のがこのサイズです。(※1.25坪でも浴槽自体の広さは1坪タイプと同じことが大半です)
メリット:
洗い場が広大なため、子どもと一緒にお風呂に入っても、周囲に泡が飛ぶのを気にせずストレスフリーに洗えます。
介護が必要になった際、介助者が一緒に入りやすく、シャワーキャリーなども入れやすい動線が確保できます。
デメリット(ここが重要):
冬場に寒い: 空間が広いため、湯気で室内が温まるまでに時間がかかり、ヒートショック対策の浴室暖房費用がかさみます。
掃除の負担増: 洗い場の床面積が広がる分、水垢や赤カビを落とす掃除エリアが確実に増えます。
間取りへの悪影響: 1.25坪のお風呂を入れるために、洗面室や通路、隣接する部屋を狭くせざるを得ないケースが頻発します。
このサイズが適している人: 敷地と予算に十分な余裕があり、毎日子どもと一緒にお風呂に入る時間を何よりも大切にしたい方、あるいは親の介護やバリアフリーを明確に見据えている方。
第2章:アトリエ建築家が教える「後悔しないサイズ選び」3つの視点
ハウスメーカーの営業マンは「1.25坪にすると豪華で快適ですよ!」と勧めがちです。しかし、施主の味方として「引き算の美学」を説く私たちアトリエ建築家は、以下の3つの視点からお施主さんに冷静なアドバイスをしています。
視点①:「子どもと一緒にお風呂に入る期間」という幻想を捨てる
「今は子どもが小さいから、家族みんなで一緒に入れる広いお風呂(1.25坪以上)が欲しい!」 お施主さんのご要望で非常に多いのがこの理由です。気持ちは痛いほど分かりますが、ここで少し冷静にタイムラインを計算してみてください。
子どもと一緒にお風呂に入る期間は、長くても「小学校低学年くらいまで」です。遅くても小学校も高学年になれば、すぐに一人で入るようになります。 家は、30年、50年と長く住み続けるものです。そのうちのたった「最初の数%の期間」だけのために、広大な洗い場を作り、残りの25年以上、広いお風呂の掃除と高い水道光熱費を負担し続けるのは、本当に理にかなっているでしょうか?
もし1坪(1616)サイズであっても、工夫次第で子どもと一緒に入ることは十分に可能です。「一瞬の育児期」ではなく、「夫婦2人や一人ひとりが静かにリラックスする長い期間」を基準にサイズを決めるのが、後悔しないためのひとつの考え方です。
視点②:洗い場の広さよりも「浴槽の形」を優先せよ
お風呂の満足度を決めるのは、全体の床面積ではなく「浴槽(バスタブ)に入った時のフィット感と節水性」です。
1坪(1616)サイズでも、浴槽の形状によって使い勝手は全く異なります。 おすすめなのは、浴槽内に「半身浴用の段差(ベンチ)」が設けられているタイプ(ステップ槽・ベンチ槽などと呼ばれるもの)です。
節水効果が抜群: 段差の体積の分だけ、お湯の量が約30〜50リットル節約できます。年間で計算すると数万円単位の水道・光熱費の差になります。
子どもの安全対策: 小さな子どもが自分から座れるちょうど良い椅子になり、目を離した隙の溺水リスクを軽減できます。
半身浴と全身浴の使い分け: 大人も、深く浸かりたい時は段差を足の方向に向け、半身浴をしたい時は段差に座ることで、1つの浴槽を2wayで使いこなせます。
洗い場を無駄に広くするよりも、「どの浴槽の形が、自分たちの体に合い、財布にも優しいか」をショールームのバスタブに実際に座って確かめることの方が、100倍重要なのです。
視点③:「10cm・20cmの差」が洗面脱衣室と家事動線を救う
間取りは「パズル」であり、「トレードオフ」の世界です。
家づくりにおいて、今やお施主さんが最も広さを求めている場所はどこでしょうか? それはお風呂ではなく、「洗面台と脱衣室を分けること」「部屋干し(ランドリールーム)のスペース」「ファミリークローゼット」です。
もし、お風呂を1.25坪(1620)から標準の1坪(1616)へと20cm小さくすれば、隣接する洗面脱衣室の幅を20cm広げることができます。 この20cmがあれば何ができるでしょうか?
洗面台を標準の75cm幅から、2人並んで使える95〜100cmのワイド洗面台に変更できる。
脱衣室に、タオルや着替え、洗剤のストックをすべて収納できる奥行きのある可動棚を新設できる。
室内干しの際、人とお洗濯物がぶつからない快適な動線が確保できる。
お風呂の中での「年に数回しか意識しない広さの余裕」と、毎朝・毎晩の家事を劇的にラクにする「洗面・収納の20cmの余裕」。どちらが人生の質(QOL)を高めるかは、火を見るよりも明らかです。 お風呂を適正なサイズに抑えることで、暮らしの中心となる動線や収納に「余白」を還元することもできるのです。
ここまでは、一般的なユニットバスのサイズ選びと間取りの考え方についてお伝えしてきました。
では、こうして「引き算の美学」や「1坪で十分」と語っている私自身は、自分の家(自邸)を建てた際、何サイズのお風呂を採用したと思いますか?
実は、標準より大きい「1.25坪(1620)」を選びました。 なぜ、私は自らの哲学に反するような選択をしたのか? そして、どうやって広くなった分の「掃除の手間」や「寒さ」を克服しているのか?
さらにここからの有料エリアでは、私がアトリエ建築家として、お施主さんにどれほど頼まれても頑としてお断りしている「木造2階の在来浴室(オーダーメイド風呂)が抱える、構造的リスクと30年後の悲劇」について、詳しく解説していきます。
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