【創作大賞応募作品】家族の城 〜二十年前、ラブホテルしか泊まれなかった夜〜
二十年前、旅行最終日。財布の中身を父が数え、普通のホテルはどこも満室で――たどり着いたのはネオン輝く「ラブホテル」だった。子供たちは無邪気にはしゃぎ、母は黙って横で見ていた。あの夜のことが、まさかこんな形で繋がるとは、思ってもみなかったのであった。





財布の中身を、父が数えていた。
二十年前の旅行最終日。普通のホテルはどこも満室で、雨の新宿を歩きまわった末にたどり着いたのが、けばけばしいネオンの「ラブホテル」だったのである。
「家族で、泊まれますか」
受付の女性が、ぴたりと固まった。マネキンみたいやった。まったく無理もない話である。
部屋に入れば、ハート型の特大ベッドが真ん中に鎮座し、天井には鏡。「なんで鏡があるの」と聞く息子に、父は汗だくで「インテリアだよ!!」と叫ぶしかなかった。母は「二人とも必死やった」と、あとで笑いながら振り返る。
四人でハート型のベッドに並んで寝た。狭かった。誰かが寝返りを打つたびに、誰かが起きた。それでも、温かかった。
「このホテル、また来たい!」
子供たちがそう叫んだあの夜が、一番笑えた旅の夜だったのであった。
十五年後――その子供たちはそれぞれ大人になり、それぞれの恋人とラブホテルの一室で、あの夜の思い出を語ることになる。理由は違えど、金がなくても、子供は幸せだった。そのことを、今度は自分の言葉で、大切な人に伝えたくなったのであった。
貧乏だったから、あの夜だけは家族が一つの城にいたのかもしれない。まったく、人生というのは、めぐりめぐって同じ場所に帰ってくるものなのであった。
