第3話|夕焼けポスト
町のはずれに、
ひとつだけ古いポストがありました。
今では、
近くに新しい郵便ポストができたので、
この赤いポストに手紙を入れる人は、
ほとんどいません。
それでも、
毎日夕方になると、
町でいちばん赤く染まるのは、
このポストでした。
夕日を浴びるたび、
まるで今日一日の出来事を、
大切にしまっているようでした。
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小学四年生の美咲は、
学校からの帰り道、
毎日このポストの前を通ります。
「今日も真っ赤。」
そう言って、
少しだけ立ち止まるのが日課でした。
ある日の夕方。
いつものようにポストを見ると、
投函口に、
一通だけ白い封筒が挟まっていました。
「え?」
郵便屋さんが落としたのかな。
そう思って近づくと、
封筒には、
切手もありません。
宛名もありません。
ただ、
小さな字で、
こう書かれていました。
『夕焼けを見る人へ』
美咲は、
不思議に思いながら、
封筒を開きました。
中には、
一枚だけ、
便せんが入っていました。
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『今日、
少しだけ笑えましたか。』
『空を見上げましたか。』
『急いで帰るだけの日もあるけれど、
夕焼けは、
毎日ちゃんと待っています。』
『だから今日は、
三十秒だけ、
空を見て帰ってください。』
それだけでした。
差出人もありません。
美咲は、
思わず空を見上げました。
オレンジ色。
赤色。
少しだけ紫。
今日の空は、
昨日と少し違いました。
「きれい……。」
そうつぶやいた瞬間、
近くを歩いていたおばあさんも、
足を止めました。
犬の散歩をしていた人も、
自転車のお兄さんも、
つられるように空を見上げます。
誰も話しません。
でも、
みんな少しだけ笑っていました。

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次の日も。
その次の日も。
美咲は、
同じ時間にポストへ行きました。
けれど、
あの手紙は、
もうありませんでした。
郵便屋さんに聞いても、
「そんな手紙は知らないね。」
と言われました。
町の人も、
誰も知りません。
美咲は、
少しだけ残念でした。
でも、
それからというもの、
帰り道になると、
自然と空を見るようになりました。
赤い日も。
薄い桃色の日も。
雲が金色になる日も。
雨上がりの日も。
夕焼けは、
毎日少しずつ違うことに、
初めて気づきました。
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数年後。
高校生になった美咲は、
久しぶりにその道を歩きました。
ポストは、
まだそこにありました。
少し色あせて、
前より小さく見えます。
でも、
夕焼けだけは、
あの日と同じように、
ポストを赤く照らしていました。
美咲は、
かばんから一枚の便せんを取り出しました。
そして、
古いポストへ、
そっと入れます。
封筒の表には、
こう書いてありました。
『夕焼けを見る人へ』
中には、
たった一行だけ。
「今日は、少し笑えましたか。」
それを書いて、
美咲は静かに歩き出しました。
誰かが、
あの日の自分のように、
夕焼けを見上げてくれたらいいな。
そう願いながら。

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帰り道。
美咲は、
少しだけ立ち止まりました。
夕焼けは、
今日も町を赤く染めています。
誰かが見ても、
見なくても。
急いでいても。
立ち止まっても。
夕焼けは、
毎日そこにありました。
もしかしたら、
あの日の手紙は、
夕焼け自身が届けてくれたのかもしれません。
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あとがき
毎日見ている景色でも、
少し立ち止まるだけで、
違って見えることがあります。
空も。
風も。
夕焼けも。
忙しい毎日の中で、
ほんの三十秒だけ空を見上げる時間。
それだけで、
今日という日が、
少しだけやさしく終わる気がします。
もし今日の帰り道、
夕焼けが見えたら、
少しだけ立ち止まってみてください。
もしかすると、
誰かからの手紙が、
空に書かれているかもしれません。
次回予告
第4話|風鈴修理店
町の片隅にある、
小さな風鈴修理店。
そこへ持ち込まれるのは、
割れた風鈴ばかり。
店主は言います。
「風鈴はね、
音まで直さないと、本当の修理じゃないんですよ。」
次回も、
夕暮れの帰り道でお会いしましょう。
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