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第2話|ラムネの最後の一粒

夏祭りの日。

商店街には、

焼きそばの香り。

金魚すくいの水音。

遠くでは、

太鼓の音が響いていました。

「ラムネください!」

屋台の前で、

元気よく手を挙げたのは、

小学三年生の翔太でした。

おじさんは、

冷えたラムネ瓶を一本取り出し、

栓を押しました。

「ポンッ!」

気持ちのいい音と一緒に、

ビー玉が瓶の中へ落ちます。

翔太は、

その音が大好きでした。

ゴクゴク。

シュワシュワ。

冷たい炭酸が、

火照った体を駆け抜けます。

「やっぱり夏はラムネだな。」

飲み終えると、

翔太は瓶をじっと見つめました。

中には、

青く光るビー玉。

今年こそ。

今年こそ、

取り出したい。

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家へ帰ると、

翔太は机の上に新聞紙を広げました。

去年は、

スプーンで押して失敗。

一昨年は、

割り箸で挑戦して失敗。

その前は、

父さんと一緒に頑張って失敗。

でも今年は、

少し大人になった。

きっと取れる。

翔太は瓶を傾けたり、

逆さにしたり、

光に透かしたり。

説明書も読んでみました。

「うーん……。」

あと少し。

あと少しなのに。

ビー玉は、

出口の手前まで来るのに、

ころん。

また戻ってしまいます。

何度やっても、

同じでした。

「惜しい!」

「もうちょっと!」

ひとりで声を出しながら、

何度も挑戦します。

夕方になり、

窓の外がオレンジ色に染まり始めました。

そこへ、

縁側でうちわをあおいでいたおじいちゃんが、

笑いながら言いました。

「今年も苦戦してるな。」

「今年こそ取れると思ったのに。」

翔太は、

少し悔しそうでした。

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おじいちゃんは、

翔太の隣へ座ると、

ラムネ瓶を手に取りました。

「昔ね。」

「おじいちゃんも、

毎年これを取ろうとしてたんだ。」

「取れた?」

「一回も。」

「えっ?」

翔太は驚きました。

「でもね。」

おじいちゃんは、

夕焼けを見ながら笑いました。

「取れなかったから、

毎年また挑戦したくなった。」

「もし一回目で取れていたら、

次の夏は、

もうやらなかったかもしれない。」

翔太は、

もう一度ビー玉を見ました。

小さな青い玉は、

夕日を映して、

海のようにきらきら光っています。

「来年なら取れるかな。」

「さあね。」

「でも、

来年もラムネを飲む理由にはなる。」

その言葉に、

翔太は少し笑いました。

「そうか。」

「来年も挑戦できるんだ。」

その夜。

翔太は、

ラムネ瓶を棚の一番上へ置きました。

夏休みの宿題の横。

虫かごの隣。

花火の残りと一緒に。

「また来年。」

そう言って、

部屋の電気を消しました。

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翌年の夏。

屋台でラムネを買った翔太は、

去年より少し背が伸びていました。

「今年こそ。」

そう言って、

ラムネを見つめます。

ビー玉は、

去年と同じように、

小さく笑っているようでした。

もしかしたら、

取れないものにも、

大切な役目があるのかもしれません。

来年を楽しみにすること。

また夏が来ることを待つこと。

その約束を、

小さなビー玉は、

毎年そっと教えてくれているのでした。

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あとがき

子どもの頃、

「今年こそできる。」

と思っていたことはありませんか。

逆上がり。

セミ取り。

自由研究。

そして、

ラムネのビー玉。

できなかったことは、

悔しい思い出にもなります。

でも、

その悔しさがあったからこそ、

「来年もやってみよう。」

そんな楽しみも生まれます。

取れなかったビー玉は、

失敗ではなく、

来年の夏への招待状だったのかもしれません。

次回予告

第3話|夕焼けポスト

夕方になると、

町でいちばん赤く染まる古いポスト。

ある日、

差出人の書かれていない一通の手紙が届きます。

その手紙が、

小さな奇跡を運んできました。

次回も、

夕暮れの帰り道でお会いしましょう。

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