足をさわるということは⑤⑥新宿にお店を出すまで、あと90日
第5章 「当校は都合により閉鎖されました」
実話に基づく物語
エイプリルフールにサウナ「ジェントルメン」に売られる私たち。
私個人としては、時の流れに身をまかせるつもりだったが、リフレクソロジストにあこがれて入学した、若い比較的すっきりした女性たちはパタリと来なくなった。
残ったのは結局、ジャージのおっさんと私だけ。
学校へ行ってみたが、ドアに鍵がかかっている。
「ガイコツさんがジェントルメンへの斡旋料ひとり5万円を持ち逃げ」して失踪したとジャージのおっさんはいう。
若い女性陣が誰も来なくなったので、潮時と思ったか逃げ足は早かった。
3万円という学費も絶妙な金額だ。30万円なら訴えるが3万円は訴えるのも面倒なラインを押さえている。
斡旋クソ野郎・校長「ガイコツさん」。
以前はラッセンの絵を売っていた、とも言っていた。お金になりそうなスキマ産業に鼻が利く人・・・。
ところで、ジャージのおっさんがなぜ一人5万円という金額まで知っているのだ?!
中国人の女先生はどこへ?
疑問が疑問を呼ぶが、そんなことより、これからどうしたらいいのか?
私はサウナ「ジェントルメン」に電話してみた。我々を面接した専務が激怒している。
もしかして、直で雇ってもらえるかも、と考えていた私は甘かった。
仕事は白紙撤回された。
かくして、わがアパートには、3万円の足の模型とベタベタする馬油クリームだけが残った。
しかし、私を足ツボの世界に誘った「ガイコツさん」には、いまでもちょっと感謝している。
私は、ドタバタ劇とは裏腹に「足ツボ」に恋をしていたのだから。(つづく)
第6章「派遣会社は虎の穴」
学校がダメなら派遣がある。私は、まだ懲りてなかった。
今度は学校ではなく、愛読誌・アルバイト情報「フロムA」で足ツボの求人を探してみた。
すると「タイガー派遣」という会社がヒットした。
都合のいいことに、無料で研修を受けられ未経験者可。
おまけに「急募」とある。
これは、うってつけではないか?
この時の私はこれから起こる「資本主義社会の恐ろしさ」をまだ知らなかった。
さっそく電話連絡の上で説明会に向かう。会社は東京の新宿御苑にあった。
説明会場には80名もの老若男女が来ていた。
人が集まるには理由があった。収入の欄に「歩合制。がんばり次第で月40万円可能」と書いてあったのだ。
アルバイトで月40万円は、かなりの高収入である。
まず、足ツボとは何か? 話があり次に仕事についての説明があった。
約1週間の研修後、関東各地の健康ランドに派遣され、足ツボの施術をするという。
施術料は30分で3800円。そのうち、施術者の取り分1780円。月に40万円を稼ぐためには月225人。週5日勤務で1日平均10人以上の施術が必要になる。
(そんなに、お客様が来るものなのだろうか?)
それにしても、1週間の訓練で、いわば素人同然の者が3800円ものお金を取る、この世界の常識が恐ろしい。ここに足ツボブームの光と影が潜んでいると思う。
浅草のクソ学校にしろ、「タイガー派遣」にしろ、足ツボはまるで「錬金術」だ。
資格もあやふや。設備投資もほとんどなし。仕入れもなし。
すべての面で会社側にリスクのない雇用条件になっている。
完全歩合制で最低賃金保障なし。ひとりひとりを事業主扱いし、長時間拘束、雇用保険なし、労災なし。
ここは古代ローマの「テルマエロマエ」の奴隷制度か!
「タイガー派遣」では、明日までに「すべての反射区の名前と施術の順番を覚えてないと失格」と言われた。
翌日、集まった者は80名から25名に激減。そこから、どんどん肩をたたかれる形で人が減った。
「先生」は、30代、スポーツ刈り「ムキムキの筋肉男」だった。150キロのバーベルを上げるという。
「ムキムキ先生」と私は呼ぶことにした。
浅草の校長が「ガイコツ」で、次は「ムキムキ」
足ツボ界に「フツー体型」はいないのかい?
そして「ムキムキ先生」は恐ろしいことを言った。
「足ツボに必要なのは力だ。弱くはいくらでもできる。まず、パワー足ツボが全員できるように!」
パワー?
無理に力を入れること、それは違うのではないか?と、疑問に思いつつ、反論する知識もポジションも私にはない。
研修1日目で、すでに指も手首もすごく痛い。
特訓は、昼食をはさんで1日10時間にも及んだ。
体育会系の和気あいあいのムードもあったが、連日続くと酷使する人差し指の関節が、曲がったまま戻らなくなった。
手首は、多分、腱鞘炎になりかけている・・・。
「ムキムキ先生」は言った。
「手が痛い? 手が痛い奴は負けだ!」
これは、子どものころテレビで見たスポ根の世界ではないのか?。
やっぱり、ここは「虎の穴」だった。
※私が反旗を翻し新宿にお店を出すまであと90日。(つづく)
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チップがこれほどうれしいとは思いませんでした!
