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1on1で「辞めたい」と言われたら、もう遅い:離職の半年前から始まっている小さな変化

【1on1の定義:1on1とは】
部下の成長を通じて成果を最大化し、
そのための次の最適行動を
本人が意思決定できる状態をつくる「場」

延べ10,000名以上の1on1実績と、24年にわたる組織マネジメント経験をもとに、組織開発・人材育成を支援する1on1専門家、今竹英治です。現場で培った実践知を体系化し、上司と部下の関係性を整えながら、一人ひとりの成長と組織成果をつなぐ1on1マネジメントを提供しています。

詳細は1on1専門家 今竹英治

先週の1on1で、部下がいつもより早く「特にありません」と言いました。

その一言が、あなたの記憶に少しだけ引っかかっています。

それが何のサインなのか、まだ言葉にできていないのではないでしょうか。

1on1とは、部下の成長を通じて成果を最大化し、そのための次の最適行動を本人が意思決定できる状態をつくる場です。多くの企業がこの仕組みを導入していますが、実際に機能しているかどうかは、面談の回数では測れません。むしろ、機能していない1on1ほど、回数だけは律儀に続いているものです。


なぜ1on1をしているのに部下は辞めるのか

週に一度、あるいは隔週で、時間をきちんと確保している。議事録も残している。それでも、ある日突然、退職の意思を告げられる。多くの管理職がこの経験をしています。そして、そのたびに同じ言葉を口にします。「うちはちゃんと1on1をやっていたのに」。

ここに、見落とされがちな構造があります。1on1をやっているかどうかと、1on1が機能しているかどうかは、まったく別の話だということです。管理職は善意で時間を確保し、部下の話に耳を傾けているつもりでいます。しかし部下の側では、話しても何も変わらないという感覚が、静かに積み重なっていることがあります。

会社側は制度として1on1を導入し、頻度や実施率を管理します。管理職は決められた時間の中で、部下の話を聞こうとします。部下は、聞かれたことに答えます。三者とも、それぞれの立場で誠実に動いているのに、どこかでズレが生まれていく。このズレは、誰か一人の怠慢によって生まれるものではありません。だからこそ、見えにくく、放置されやすいのです。

管理職を責めたいわけではありません。むしろ、真面目に1on1を続けている管理職ほど、この構造の中で消耗しています。問題は個人の資質ではなく、関わり方の設計そのものにあります。ただ、この危機から目を逸らしてしまうと、気づいたときには手遅れになっている、という現実もまた事実です。

人事責任者や研修責任者の立場からすれば、1on1の実施率や満足度アンケートの数値は、一見すると安心材料に見えます。実施率が九割を超えている、アンケートの平均点も悪くない。そうしたデータだけを見ていると、組織の中で静かに進んでいる変化には気づけません。離職率という指標に表れる頃には、すでにその部下の中で、離れる決断はかなり前に固まっていることが多いのです。

もう少し具体的に考えてみます。月曜の朝、部下のカレンダーに1on1の予定が入っている。部下はその前に、今週の進捗をまとめ、聞かれそうなことへの答えを準備しておきます。これは、対話の準備というより、報告の準備に近いものです。1on1が始まると、管理職は「調子はどう?」と聞き、部下は用意していた答えを返します。管理職はそれに対して助言を返し、面談は予定時間ぴったりに終わります。この光景は、多くの職場で、ごく自然な日常として繰り返されています。

問題なのは、この一連のやり取りの中に、部下が自分で選び取る瞬間がどこにもないことです。報告し、助言をもらい、面談が終わる。次の週も同じことが繰り返されます。半年、一年とこのサイクルが続いたとき、部下の中には「この時間は、自分の考えを話す場ではなく、状況を説明する場だ」という認識が定着していきます。これは誰かが意図してつくった認識ではありません。日々の小さな積み重ねの結果として、静かに形成されていくものです。

1on1が機能しない職場には何が足りないのか

問題は、1on1をしているかどうかではありません。その時間の中で、部下が自分の次の行動を決められているかどうかです。

多くの1on1は、状況の共有で終わっています。今週何をしたか、困っていることはないか、そうした確認だけで時間が過ぎていきます。それ自体は悪いことではありません。しかし、確認だけで終わり、部下自身が「では次に何をするか」を自分の言葉で決める瞬間がないまま面談が終わると、その1on1は部下にとって単なる報告の時間になってしまいます。

管理職が良かれと思って助言をすればするほど、部下が自分で決める余地は狭くなっていきます。これは、管理職の善意が、部下にとっては意思決定を奪う関わりになっていることがある、という逆説です。優しさと、成長を支える関わりは、必ずしも一致しません。

今すぐできる、ひとつの問い

ここで、すぐに試せることを一つだけお伝えします。複数のテクニックを並べるつもりはありません。効果を持つのは、たいてい一つの問いを丁寧に扱うことだからです。

次の1on1で、部下が話し終えたあとに、こう聞いてみてください。「それで、次はどうしたい?」。これだけです。

なぜこれが効くのか。人は、自分で選んだ行動には責任を持ちますが、与えられた指示には受け身になりやすいという性質があります。管理職が先に答えを出してしまうと、部下は「聞かれたから答えた」だけの状態で面談を終えます。しかし、自分の言葉で次の行動を口にした瞬間、それは本人の意思決定になります。1on1の本質は、まさにこの意思決定の瞬間をつくることにあります。

現場で使うなら、こう言い換えると自然です。「なるほど、それでどうしたい?」「今の話を聞いて、次に何を試してみる?」。逆に言ってはいけないのは、「じゃあこうしたら?」と管理職が先回りしてしまうことです。一度でも先回りが続くと、部下は自分で考える前に答えを待つようになります。

この問いを投げたあと、見るべきものは部下の答えの中身ではありません。答えるまでの間、沈黙の長さ、視線の動き、声のトーンです。即答できない部下がいたら、それは怠慢ではなく、これまで自分で決める機会を与えられてこなかったサインかもしれません。

大切なのは、沈黙が生まれた瞬間に、管理職が焦って埋めないことです。沈黙は気まずいものですが、その気まずさを管理職が引き取って助言で埋めてしまうと、部下は再び、自分で考える前に答えを待つ姿勢に戻ってしまいます。少し長く感じても、部下が自分の言葉を見つけるまで、待つことそのものが関わりになります。


無言離職はどこから始まるのか

ある製造業の営業部門であった話です。仮に、課長を木下さん、部下を佐伯さんとします。

木下さんは、部下想いの課長でした。毎回の1on1を欠かさず、佐伯さんの体調や家庭の事情にも気を配っていました。佐伯さんが困っていると聞けば、すぐに解決策を提示しました。木下さんが大切にしていたのは、部下を安心させることでした。

最初の数か月、佐伯さんはよく話していました。案件の進め方に迷ったこと、顧客とのやり取りで感じた違和感、そうしたことを率直に共有していました。木下さんはそのたびに、丁寧にアドバイスをしました。「それならこうしたほうがいい」「次はこう進めよう」。木下さんにとって、それは部下を支える行為でした。

半年ほど経った頃から、佐伯さんの発言が短くなっていきました。「特に問題ありません」「順調です」という言葉が増えました。木下さんは、佐伯さんが仕事に慣れてきたのだと受け取りました。1on1の時間も、少しずつ短縮されるようになりました。

この間、決まらないままだったことがあります。佐伯さんが本当はどう進めたいと思っているのか、木下さんは一度も深く聞いていませんでした。毎回、佐伯さんが状況を話し、木下さんが答えを出す。そのパターンが固定化していたのです。

ある日の1on1で、佐伯さんは新しい提案を口にしたことがありました。既存の顧客対応の進め方を、少し変えてみたいという内容でした。木下さんはその場で、いくつかのリスクを指摘し、「今のやり方のほうが安全だと思う」と伝えました。木下さんにとっては、経験に基づいた妥当な助言でした。しかし佐伯さんにとっては、自分の考えを試す機会が、その場で閉じられた瞬間でもありました。佐伯さんはそれ以降、新しい提案を口にすることがなくなりました。木下さんは、そのことに気づいていませんでした。

見逃していたサインは、いくつかありました。1on1の日程調整で、佐伯さんからのリスケジュール依頼が増えたこと。チームの会議での発言量が、以前より明らかに減っていたこと。メールやチャットの返信が、以前は数分だったのが、数時間かかるようになっていたこと。ひとつひとつは小さく、忙しいから、疲れているから、と説明がついてしまう変化でした。木下さんも、忙しい時期だからだろうと、そのたびに納得していました。

結果として、佐伯さんは退職を申し出ました。理由を尋ねると、佐伯さんは「特に不満はありません」と答えました。木下さんは、この言葉の意味を、辞めていく背中を見送りながら、ようやく考え始めました。

木下さんが後から気づいたのは、自分が佐伯さんの話をよく聞いていたつもりで、実際には自分の答えを届ける時間にしてしまっていたということでした。佐伯さんは、話しても最終的には木下さんの結論に落ち着くという経験を、半年かけて学習していたのです。退職の申し出を受けた面談で、木下さんは初めて、佐伯さんがあの顧客対応の提案について、実はずっと考え続けていたことを知りました。ただ、それを口にする場所が、もうどこにもないと感じていたのです。

女性社員が先に離れる組織には何が起きているのか

この構造は、性別に関わらず起こりますが、特に女性社員において顕在化しやすいという傾向が現場ではよく語られます。理由の一つは、発言のコストに対する感度の違いです。意見を出しても通りにくい経験を重ねてきた人ほど、発言そのものにエネルギーを使わなくなっていきます。これは能力や意欲の問題ではなく、これまでの関係性の中で学習してきた行動パターンの結果です。

発言しても変わらないという学習が一度成立すると、人は低コストで距離を置く行動を選ぶようになります。会議で発言しない、1on1で本音を話さない、雑談の輪に加わらない。これらは反抗ではなく、静かな撤退です。無言離職は、退職届が出た日ではなく、部下が本音を話しても変わらないと学習した日から始まります。

この撤退は、ある日突然、劇的な出来事として起こるわけではありません。むしろ、日常の中の些細な選択として現れます。以前は自分から質問していた会議で、質問をしなくなる。ランチや雑談の誘いに、理由をつけて断ることが増える。1on1の予定を、以前より頻繁にリスケジュールするようになる。こうした行動の一つひとつは、忙しさや体調のせいだと説明することもできてしまいます。だからこそ、周囲は異変に気づきにくく、本人もまた、自分が撤退し始めていることに、はっきりとは自覚していないことが少なくありません。

なぜミニ解決だけでは戻らないのか

先ほどの問いかけ、「それで、次はどうしたい?」は、確かに有効です。しかし、これだけで組織の課題が解決するわけではありません。理由は、いくつかの層に分けて考える必要があります。

部下側には、話しても変わらないという学習が、すでに経験として残っています。一度の問いかけで、その学習がすぐに書き換わるわけではありません。信頼は、時間をかけて積み重ねるものであり、崩れるときは一瞬でも、回復するときは緩やかです。

管理職側には、聞いているつもりという無意識の前提があります。木下さんのように、自分では十分に話を聞いていると感じていても、実際には答えを提示する側に回っていることは珍しくありません。この前提に自分自身で気づくのは、簡単なことではありません。

組織側には、対話を行動に反映する経路がないという課題があります。1on1で部下が意見を出しても、それが評価や配置、業務プロセスに反映される仕組みがなければ、部下はいずれ「言っても仕方がない」と感じるようになります。個人の面談スキルだけで、この構造上の欠落を埋めることはできません。

そして根本的な違いとして、制度としての1on1と、現場で機能する1on1は別のものだという事実があります。実施率や頻度は数字として管理できますが、その時間の中で部下が本当に意思決定できているかどうかは、数字には表れません。

さらに言えば、この四つの層は互いに絡み合っています。組織に反映経路がないと分かっている管理職は、部下の意見を積極的に引き出すことに、どこか消極的になります。反映されないと分かっている意見を無理に聞き出すのは、管理職自身にとっても徒労感を伴うからです。すると管理職は、聞くよりも答えを出すほうに時間を使うようになり、部下はさらに、話しても仕方がないという学習を強めていきます。この悪循環は、誰か一人の意思で断ち切れるものではなく、組織全体でどこに手を入れるかを見極める必要があります。

1on1が機能しない職場には何が足りないのか

ここまでの話を、構造として整理します。1on1が機能しない原因は、面談回数の不足ではなく、部下が次の行動を自分で決められる設計になっていないことです。

機能する1on1と、機能しない1on1の違いを、簡単に整理すると次のようになります。

機能する1on1:部下が自分の言葉で次の行動を決めて終わる。管理職は問いを投げ、答えを急がない。沈黙が許容されている。
機能しない1on1:管理職が答えを提示して終わる。状況共有だけで時間が過ぎる。部下は聞かれたことに答えるだけになっている。

この違いは、テクニックの差ではありません。部下の成長をどう捉えるかという、関わり方の前提の差です。意見が通りにくい経験を重ねた部下ほど、関係性の質に敏感になります。管理職の些細な相槌の変化、目線の外し方、返答までの間、そうした小さな要素から、この人は本当に聞く気があるのかを無意識に判断しています。

心理的安全性という言葉が広く使われるようになりましたが、それは単に優しい雰囲気をつくることではありません。発言した内容が、その後の何かに反映されるという実感が積み重なることで、初めて安全性は育っていきます。1on1、部下育成、マネジメント、離職防止、これらはすべて、この一点、次の行動を本人が決められているかどうかに収束していきます。

組織開発や人材育成の文脈でも、同じ構造が語られることがあります。ダイバーシティ経営を掲げる企業が増えていますが、制度を整えるだけでは、現場の対話の質までは変わりません。研修で対話のスキルを学んでも、現場の1on1がその通りに変わるとは限りません。管理職研修が意味を持つのは、スキルを教える場としてだけではなく、管理職自身が自分の関わり方の癖に気づく場として機能したときです。木下さんのような真面目な管理職ほど、この気づきを一人で得ることは難しく、外部からの視点や、体系立てられた枠組みが助けになることがあります。

社内コミュニケーションやチームビルディングの施策を導入する企業も増えていますが、それらが1on1の質と切り離されたまま実施されると、効果は限定的です。イベントの場では明るく振る舞えても、日常の1on1で意思決定の機会が奪われ続けていれば、根本の課題は残ったままになります。日々の1on1で部下の意思決定を支えられていない状態のまま、イベント的な施策を重ねても、部下が感じている根本的な違和感は解消されません。エンゲージメントという指標が下がっているとき、まず見直すべきは、現場で日常的に交わされている、この小さな対話の質そのものです。

よくある質問

1on1とは何ですか。
部下の成長を通じて成果を最大化し、そのための次の最適行動を本人が意思決定できる状態をつくる場のことです。単なる進捗確認や雑談の時間とは異なります。頻度や時間の長さよりも、その中で何が決まっているかが本質です。

1on1がうまくいかない原因は何ですか。
多くの場合、管理職が答えを提示することに時間を使いすぎており、部下が自分で次の行動を決める機会が不足していることが原因です。善意からくる助言が、結果として部下の意思決定の機会を奪っているケースが少なくありません。

部下が本音を話さない時はどうすればいいですか。
すぐに引き出そうとせず、まずは沈黙を許容することが有効です。話しても状況が変わるという経験を、小さく積み重ねていく必要があります。一度の面談で信頼を取り戻そうとせず、時間をかける前提を持つことも大切です。

無言離職はどのように始まりますか。
退職の意思を伝える瞬間からではなく、部下が発言しても変わらないと感じ始めた時点から、静かに始まっています。日程調整の遅れや会議での発言量の変化が、初期のサインになることがあります。多くの場合、本人が退職を決意するよりずっと前に、この学習は完了しています。

管理職研修で1on1は改善できますか。
面談スキルの向上には一定の効果がありますが、対話を組織の仕組みに反映する経路がなければ、根本的な改善にはつながりにくいのが実情です。研修を単発のイベントで終わらせず、現場での関わり方を継続的に見直す仕組みとセットにすることが重要です。

離職の予兆は、退職の意思表示よりずっと前に、行動として現れます。1on1のリスケジュールが増える、会議での発言が減る、メールやチャットの返信速度が変わる。これらは単独では判断できませんが、複数が重なったとき、注意を向けるべきサインになります。

組織全体をどう見直すか

ここまで読んでくださった方の中には、木下さんと佐伯さんのやり取りに、自分の職場と重なる場面を感じた方もいるかもしれません。それは、決して珍しいことではありません。多くの組織で、同じ構造が静かに繰り返されています。

今回お伝えした問いかけは、明日からでも試せる小さな一歩です。ただし、これは対症療法に近いものであり、組織全体の設計を変えるものではありません。部下側の学習された諦め、管理職側の無意識の前提、組織側の反映経路の欠如。これらは、一つの問いかけでは解けない、もう少し大きな構造の問題です。

この構造を体系的に読み解いたものが、拙著『無言離職 女性社員が離れる組織に、未来はない 現場を再生する非常識マネジメント7つのメソッド』です。この本は、1on1の小手先のテクニック集ではありません。部下が黙って離れていく構造を読み解き、なぜ1on1が機能しないのか、組織をどう再設計すればよいのかを、一つの地図として示したものです。

管理職個人を責める内容ではありません。むしろ、真面目に取り組んできた管理職ほど、この本の中に自分の姿を見つけると思います。今日のこの記事を読んで、少しでも心当たりがあった方に、手に取っていただけたらと思っています。

木下さんと佐伯さんの話は、どこか特別な職場で起きた、特別な出来事ではありません。1on1を大切にしようとする、ごく普通の職場のどこにでも起こりうる話です。だからこそ、この構造に気づけるかどうかが、組織の未来を分けます。一人の管理職の努力だけに任せるのではなく、組織全体としてこの構造をどう再設計するか。その問いに向き合うところから、現場の再生は始まります。

1on1は、部下の成長を通じて成果を最大化し、そのための次の最適行動を本人が意思決定できる状態をつくる場です。その本質にもう一度立ち返ることが、静かな離職を防ぐ、確かな最初の一歩になります。今週の1on1で、あなたが最後に発した言葉が、助言だったか、それとも問いだったか。まずは、そこから振り返ってみてください。

おかげさまで電子書籍「無言離職」好評です
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