REASONが明かす「TDEは就職だった」
TDE(Top Dawg Entertainment)を離れてインディペンデントとなったラッパーREASONが、Bootleg Kevのポッドキャストで衝撃的な告白をした。「あのアルバムは鬱状態で作った。就職していた感覚だった」。この言葉が問いかけるのは、単なる労使関係の話ではない。大手レーベルのシステムが、アーティストの創作をどのように「時間的に所有」するかという、より根本的な問題だ。REASONがTDE在籍中に経験した「創作の仕事化」の構造を、彼の発言から解体する。
鬱状態の中で完成させたアルバム「Porches」
REASONがTDEで最後に制作したアルバム「Porches」は、2023年8月11日にリリースされた作品だ。だがそれは、作った本人が鬱状態の中で完成させた作品だった。インディペンデントに転じた今だから言える言葉だ。「あのプロジェクトは鬱状態で作った。正直に言えば、就職していた感覚だった」。REASONはそう明かす。
スタジオへの通い方が、すでに「労働」の形をしていた。正午に入り、午後6時になるのをひたすら待つ。「時計ばかり見ていた。早く6時になってくれ、帰りたい、そればかり考えていた」。情熱を燃料にして動くはずの創作が、出勤と退勤のリズムになっていた。TDEのスタジオでは集中できず、別の場所に移動してようやく録音できたとも語る。「頭の中がその状態に入らなかった。だから場所を変えなければ作れなかった」。
「Porches」をファンが愛していることを、REASONは「本当にうれしい」と語る。だがその愛され方には複雑な感情がある。リスナーが感じる熱量と、制作者が当時感じていた内側の空洞とが、まったく乖離していたからだ。外から見れば「傑作」として受け取られた作品が、内側では苦しみながら完成させたものだった。
これはTDE固有の問題というより、組織の時間軸と創作の衝突として読むことができる。アーティストはスタジオに通い、制作し、リリースを待つ。その間に、もともとあった情熱の形は変わっていく。REASONが感じた「就職」の感覚は、本人が語った正午から6時までスタジオで時計を見ていた経験に根ざす。そこから、組織の時間軸が創作とどう衝突するかを考えさせられる。
同じTDE所属アーティストがレーベルのシステムと向き合う苦境については、Ab-Soulの苦悩でも別の角度から触れている。だがREASONの場合は、その苦境をひとりで抱えたまま「Porches」を完成させ、長年語れずにいたという点が際立っている。
「Porches」のリリース後、REASONはツアーやライブでこのアルバムの曲を演奏し続けた。ファンは喜んで聴いてくれる。それはうれしいことだ。しかしステージに立つたびに、その曲を作った自分と今の自分の間にある距離を感じていた。音楽が「過去の自分のアーカイブ」として機能しているとき、アーティストはそれを誠実に演じることができるか。REASONが感じた葛藤は、この問いの実例だ。創作の喜びが就労の義務に変わったとき、その産物をどう演じるかという問いは、大手レーベルに所属するアーティスト共通の、しかし外には見えにくいものだ。
2年から3年のタイムラグが奪うもの
REASONがTDE時代に感じたもう一つの苦境は、制作からリリースまでの長い時間的な乖離だ。TDE時代は曲を作ってから2年から3年後にようやく世に出る。その間に、REASONは別の人間になっていた。「ファンが愛してくれる曲でも、3年前の自分が作ったものだと思う。もう俺じゃない。そのステージに立ちながら、もうこのラップはしたくないと感じた。自分の劣化版を演じているような、偽っているような感覚だ。それが昔から苦手だ」。
音楽における「本物らしさ(オーセンティシティ)」はしばしば漠然と語られる。しかしREASONが直面したのは、もっと具体的な問題だ。感情や状況から生まれた曲が、時間の経過によって「文脈を失う」ということだ。曲それ自体が偽りになるのではない。演じている自分が、その曲の語り手と一致しなくなる。そのズレが、アーティストとしての誠実さへの裏切りに等しかった。
(自分を偽ることを拒否したアーティストの別の例については「自分を偽るな」Peysohの哲学と、ヒップホップ・ペルソナ戦争への宣戦布告も参照されたい。)
プロジェクトの設計にも影を落とした。TDE時代は次のリリースまで2〜3年空くため、REASONはプロジェクトごとに「自分のあらゆる側面」を一枚に詰め込まなければならなかった。「次にバットを持てるのはずっと先だから、一打席に全部かけなければならなかった」。だが詰め込めば散漫になる。入れたい曲があっても、2年後のリリース時には古く感じられるかもしれないという恐怖が常にあった。
AZ Chikeとのコラボ曲がその典型だ。「Porches」のリリース時点には制作から2年半が経っており、ビートが古く感じられた。AZ Chikeも同じ印象を持っており、結局収録はしなかったという。好きな曲を入れられない。それが大手レーベルにおける「リリースの時間管理」の帰結だ。
これを「創作的な窒息」と呼ぶことができる。作っても出せない。詰め込んでも散漫になる。好きな曲も時間が経てば使えない。TDE在籍時のREASONは、こうした制約の重なりの中で、それでも作り続けなければならなかった。「Porches」が鬱状態の産物だった理由は、この構造の中にある。
一方でREASONは「Porches」が愛される作品であることを知っている。その喜びは本物だ。しかし愛されている理由の一部には、鬱状態の中で時計を見ながら作り続けた、その切迫感が曲に宿ったからかもしれない。制作時の苦しみと、リリース後の受容の間にある皮肉な逆転は、大手レーベルのシステムが生む矛盾のひとつの形だ。アーティストが最も苦しんで作ったものを、聴衆は「傑作」と呼ぶことがある。その矛盾の中でREASONは3年間を過ごした。
インディペンデントで取り戻した「今の俺」
インディペンデントに転向して以来、REASONのリリーススピードは劇的に変わった。「I Love You Again」(短めのプロジェクト)を皮切りに、ブルーをテーマにした「Everything in My Soul」とそのデラックス版、そして現在進行形の「Moving Towards Love, Pink」を発表した。約1年半で実質3作品だ。TDE時代には想像もできなかったペースだ。
「今リリースしているのは、今の俺だ」。この一言が、TDE時代との最も根本的な違いを示している。リアルタイムで自分を出せる。それは単にリリースペースが速いという話ではなく、曲と演者の間にある時制のズレが消えたということだ。作った自分と演じる自分が、同じ時間軸に立っている。ステージで歌いながら「もうこのラップはしたくない」と思わなくて済む。
独立後、REASONはカラーシリーズという形で、一枚に「全部」を詰め込む必要がなくなった。ブルーはコアファンへの確かな一枚。バー重視のリスナーに向けたプロジェクトとして先に置いた上で、ピンクでは封印していたリレーションシップの曲たちを解放した。「ブルーから始めたのはコアファンを最初に大切にしたかったからだ。そこを押さえた上で、もっと自由に広げられる」。複数の側面をそれぞれ別の作品に委ねられる。それがTDE時代にはできなかったことだ。
ファンの反応にもこれが現れている。「Moving Towards Love, Pink」リリース後、女性リスナーの比率が急激に上昇した。チームはその速さに驚いたが、分析の結果、こう結論づけた。「急激に上がったということは、新しいリスナーを獲得したのではない。ずっとそこにいた人たちが、自分に合う音楽を待っていただけだ」。封印していた曲の存在と、隠れていたオーディエンスの存在が、重なる。TDE時代に出せなかった曲は、ただ「遅れた」のではなく、届くべき聴衆と出会えないまま眠っていたのだ。
「TDEにいたとき、創作の自由を取り上げられた経験がある。だから考えすぎそうになるたびに、その感覚に立ち返る。この自由のために戦ったじゃないか、と」。自由は与えられるものではない。一度失って初めてその重みがわかる。REASONにとってインディペンデントでの多作は、強迫でも戦略でもない。失った時間への、静かな取り返しだ。
「Porches」を鬱の中で完成させた事実を、REASONは長い間言えずにいた。言えるようになったのは、状況が変わったからだ。就職していた感覚から、創作の時制を自分のものにした今だから語れる。インディペンデントになることは、レーベルからの脱出ではなく、自分の時間を取り戻すことだった。
より具体的に言えば、REASONは独立後、音楽を「リアルタイム」で出せるようになったと語る。その曲がどんな感情から生まれたかを、以前より近い時間軸で聴衆のもとへ届けられる。ステージに立ったとき、「もうこのラップはしたくない」とは思わない。なぜならそれは今の自分の言葉だからだ。TDE時代には時間の経過で曲と自分の間にズレが生じたが、今はそのズレが小さい。その違いは、制作の姿勢そのものを変える。
いいなと思ったら応援しよう!
応援お願いします! コーヒー代・ライブ代・その他諸々原動力になります!