ショートショート 十六番
僕の仕事は、グラムを数えることだ。
紙コップの廃止で、年間四十二キロ。両面印刷の徹底で、十八キロ。空調を一度上げて、二百六キロ。階段利用の推進は——正直、誤差だ。それでも数える。
去年一年で、三・二トン。
会議室では拍手が起きた。継続は力ですね、と部長が言った。僕は資料を配った。両面印刷で。
家に帰ると、テレビが街の燃えるところを映していた。
どこか遠い国の、名前の長い都市。
集合住宅がゆっくり傾いて、埃の色をした煙が空へ伸びていく。あれは、何トンだろう。
ビル一棟。工場。道路。橋。焼けた分の樹木。
たぶん誰も数えていない。数える部署が、地球のどこにも無いからだ。
五歳の娘が、園でSDGsを習ってきた。
胸に、丸いバッジをつけている。
十七色の輪っかのやつだ。プラスチック製だった。
娘は蛇口をきちんと止める。給食を残さない。電気を消して回る。ときどき、思い出したように言う。
——せんそう、やめて。
テレビに向かって、小さな声で。
それから、僕を見上げて聞いた。
——せんそうは、なんばん?
僕はバッジを見る。
十六番。平和と公正をすべての人に。
ちゃんと、ある。
最初から、そこに、ある。
順番でいえば、紙コップよりずっと前に、ある。
ただ、誰もそこだけを読まない。
翌朝も、僕はマイボトルを洗った。
エレベーターを見送って、階段を十六階まで上った。
節約できた電力、およそ二十グラム分。
その二十グラムを、僕は今日も、几帳面に帳簿へ書き込んだ。
窓の外で、空はよく晴れていた。
どこかで、まだ何かが燃えていた。
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