ショートショート 陰謀日記
男もすなる陰謀論を、女もしてみむとするなり。
それの年の師走の二十日あまり一日の、戌の時に始む。そのよし、いささかに端末にしるす。
ある人、勤めの帰り、子らを寝かしつけ果てて、SNSといふものを開きたり。月のいと明かき夜なり。指すべらせて画面を下へ下へと繰るほどに、見も知らぬ人の言ふやう、この世のまつりごと、みな十三人の翁どもが密かに定むるなり、と。
いとをかし。されど眠らず。
二十二日。夜もすがら動画を見る。空にひかれたる白き筋は雲にあらず、翁どもの撒く薬なりといふ。窓を開けて空を仰ぐに、まことに筋あり。心のさわぐこと、恋のごとし。
二十三日。隣の女に語りしかば、笑ひて去りぬ。愚かなるは世の人か、我か。我にはあらざるべし。
二十四日。常世の翁と名のる者、我が書きしことに向かひて、それは誤りなり、出所を示せと言ふ。腹立たしきこと限りなし。夜通し言ひ返す。指のいたむまで書く。
二十五日。翁またも返す。文字の癖のいささか見知りたる心地す。「そのようですね」と書くところ、いつも「そのやうですねw」と書く。我が家にひとり、さやうに書く者あり。
二十六日。夫の端末、机の上に置きたるを、そと覗く。常世の翁、そこに眠れり。
やや久しく、天井を見る。
されば我が敵は翁どもにあらず、この家の中に寝ねてあり。世を動かす十三人の翁は、まだ一人も見ず。ただ我と夫と、あひだの薄き板ばかり、たしかにありけり。
二十七日。アカウントを消さむとす。画面に、まことに削除しますかと出づ。
とまれかうまれ、疾く消してむ。
されど指、いまだ押さず。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします!いただきましたチップは有意義に使わせていただきます。