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⑫サグラダ・ファミリアが世界中から人を惹きつける理由

長期ビジョンを持つ都市に、人も企業も集まる

バルセロナを訪れたことがある人なら、一度はサグラダ・ファミリアを目にしたことがあるでしょう。

完成まで140年以上を要する世界でも類を見ない建築物です。

筆者もMWCへ参加するたびに、その姿を目にします。

毎年見ているはずなのに、訪れるたびに少しずつ景色が変わっています。

塔が伸び、新しい彫刻が姿を現し、街並みとの調和も少しずつ変化していきます。

完成していない。

それなのに、世界中から年間数百万人もの人が訪れます。

普通に考えれば、不思議な話です。

完成した建築物を見に行くのではありません。

「完成へ向かうプロセス」を見に行っているのです。

この光景を見ていると、スタートアップの世界と驚くほど似ていることに気付きます。

スタートアップに投資するVCは、「完成した企業」に投資しているわけではありません。

むしろ、その逆です。

まだ売上が小さい企業。

まだ組織も未成熟な企業。

まだ市場で成功する保証がない企業。

それでも投資を決断します。

なぜでしょうか。

それは、「完成形」ではなく、「目指している未来」に価値を見出しているからです。

サグラダ・ファミリアも同じです。

人々は完成した姿を知らなくても、この建築が持つ理念や歴史、そして未来への期待に魅了されています。

言い換えれば、人を惹きつけているのは建物そのものではなく、「ビジョン」です。

筆者は毎年、MWCの期間中に世界中から集まるスタートアップ経営者や投資家、大企業の担当者と話す機会があります。

そこで感じるのは、優れた起業家ほど「今できること」よりも、「10年後、20年後に何を実現したいのか」を語るということです。

もちろん、足元の売上や資金調達も重要です。

しかし、それだけでは世界中の優秀な人材は集まりません。

人が集まるのは、「この未来を一緒につくりたい」と思えるビジョンがあるからです。

サグラダ・ファミリアは、その象徴と言えるでしょう。

設計者アントニ・ガウディは、自分の生きている間に完成しないことを理解していました。

それでも設計を続けました。

自分一人で完成させることを目的にしたのではなく、「次の世代へ受け継がれるプロジェクト」を設計していたのです。

この発想は、スタートアップにも、大企業にも、新規事業にも必要ではないでしょうか。

日本企業では、中期経営計画を三年間で策定することが一般的です。

もちろん、経営管理の観点から重要な取り組みです。

一方で、世界的企業やユニコーン企業を見ていると、「10年後、20年後に社会をどう変えたいか」という視点から逆算しているケースが少なくありません。

その長期ビジョンがあるからこそ、途中で事業内容が変わっても、技術が変わっても、人が離れないのです。

近年、生成AIの進化によって、事業環境は劇的なスピードで変化しています。

新しいサービスは数カ月で生まれ、競争環境も短期間で変わります。

そのような時代だからこそ、「変わらない軸」を持つことが重要になります。

ビジョンは、環境変化に左右されません。

手段は変わっても、目指す未来は変わらない。

だからこそ、多くの人が共感し、仲間になり、挑戦を続けられるのです。

バルセロナという都市も同じです。

街を歩いていると、歴史的建造物のすぐ隣にスタートアップのオフィスがあり、歴史ある大学の近くで最新のAI企業が研究開発を進めています。

過去と未来が自然に共存しています。

その光景を見ていると、「文化」と「イノベーション」は対立するものではなく、お互いを高め合う存在なのだと感じます。

実際、世界中の優秀な人材は、給与だけで働く場所を選んでいるわけではありません。

どのような街なのか。

どのような文化があるのか。

家族が暮らしやすいのか。

休日をどのように過ごせるのか。

そうした「都市の魅力」も重要な判断材料になります。

つまり、都市ブランドそのものが人材戦略なのです。

スタートアップエコシステムを語る際、日本では制度や補助金、投資額に目が向きがちです。

もちろん、それらは必要です。

しかし、それだけでは世界中から人は集まりません。

「ここで働きたい。」

「この街で起業したい。」

「このプロジェクトに参加したい。」

そう思わせる文化や物語があって初めて、都市は世界中の才能を惹きつけます。

サグラダ・ファミリアは、建築物である前に、「未来を信じるプロジェクト」です。

完成まで100年以上かかることを承知で、多くの人が世代を超えて関わり続けています。

スタートアップも同じです。

新規事業も同じです。

本当に大きな価値は、一年や二年では生まれません。

長期的なビジョンを掲げ、多くの仲間を巻き込みながら、一歩ずつ積み重ねていく。

その姿勢こそが、世界を変えるイノベーションを生み出します。

サグラダ・ファミリアは、完成しているから人を惹きつけているのではありません。

完成を信じ、多くの人が力を合わせて歩み続けているからこそ、人を惹きつけているのです。

スタートアップも、大企業も、VC・CVCも、その本質は変わりません。

人は「完成形」に集まるのではなく、「未来への挑戦」に集まります。

スペインという国が世界中の才能を惹きつけ続ける理由も、まさにそこにあるのではないでしょうか。

バルセロナにあるサグラダ・ファミリアに関しては、春に投稿したシリーズがあります。お時間がありましたら、以下のコラムも続けてお読みいただけると嬉しいです


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