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⑨なぜ世界中のスタートアップはバルセロナに集まるのか

MWCと4YFNが示す「都市そのものがプラットフォーム」という発想 ―

「今年もバルセロナで会いましょう。」

MWC(Mobile World Congress)の開催が近づくと、世界中のスタートアップ、VC、CVC、大企業、新規事業担当者の間で、そんな会話が自然と交わされます。
MWCが凄いのは、地元バルセロナの企業を始め、スペイン国内企業の活動が、会場内で感じることができます。

展示会は、数日間開催されるイベントです。

しかし、バルセロナという街は、その数日間だけ機能しているわけではありません。

一年を通じて大学、研究機関、スタートアップ、大企業、投資家、行政がネットワークを形成し、その集大成としてMWCや4YFNが開催されています。

つまり、イベントが都市を育てているのではありません。

都市がイベントを育てているのです。

筆者は毎年MWCを訪れていますが、会場に入る前から「世界最大級のテクノロジーイベント」は始まっています。

空港へ降り立つと、到着ロビーにはMWCの案内が並び、市内へ向かうタクシーでは運転手が今年の来場者数や混雑状況を話題にします。

地下鉄には各国から訪れた来場者が乗り込み、ホテルのロビーでは朝食を取りながら商談を行う姿が見られます。

街全体が、一つの巨大なカンファレンス会場へと変わっていくのです。

4YFNでは、その雰囲気がさらに濃くなります。

世界中から集まったスタートアップが、自社の技術やサービスを投資家へ紹介し、大企業との協業を模索します。

もちろん、ピッチイベントもあります。

しかし、本当に価値が生まれるのは、その前後です。

偶然隣に座った投資家との会話。

大学教授との名刺交換。

企業同士の情報交換。

夜に開かれるネットワーキングイベント。

そこから翌年の共同研究や投資案件が生まれることも珍しくありません。

世界中のイノベーションイベントを歩いていると、一つの共通点が見えてきます。

成功しているイベントほど、「展示すること」が目的ではありません。

「人と人をつなぐこと」が目的になっています。

スタートアップが展示する。

VCが投資先を探す。

大企業が協業先を見つける。

大学が研究成果を紹介する。

行政が海外企業を誘致する。

それぞれの目的は異なりますが、共通しているのは、「新しい出会い」をつくることです。

この考え方は、日本でも少しずつ広がり始めています。

東京都が推進するTokyo Innovation Base(TIB)は、その代表例でしょう。

スタートアップ、自治体、大企業、大学、投資家が日常的に交流できる場を目指し、多くのイベントが開催されています。

また、SusHi Tech TokyoやCEATECでも、スタートアップとの共創やオープンイノベーションが重要なテーマとなっています。

こうした取り組みは、日本のイノベーション政策にとって非常に重要です。

一方で、バルセロナを訪れるたびに感じるのは、「イベントを開催すること」が目的になっていないということです。

イベントは、あくまでも都市が持つエコシステムを世界へ発信するための手段です。

MWCが終わっても、スタートアップは街に残ります。

大学との共同研究は続きます。

海外企業との商談も続きます。

VCの投資活動も止まりません。

つまり、365日続くエコシステムの中に、MWCという世界最大級のイベントが組み込まれているのです。

ここには、日本が学ぶべき大きなヒントがあります。

コンベンションや展示会を成功させることがゴールではありません。

そのイベントをきっかけに、人材、企業、大学、投資家が継続的につながる仕組みをつくることが、本当の目的ではないでしょうか。

日本各地でも、スタートアップイベントは数多く開催されています。

しかし、「イベントが終わった翌日から何が始まるのか」という視点は、まだ十分とは言えません。

名刺交換で終わるのではなく、その後の共同研究、PoC、資金調達、人材交流へどうつなげるのか。

その設計こそが、エコシステムづくりの本質です。

筆者は、MWCを「世界最大級の展示会」と紹介するだけでは、その魅力の半分も伝わらないと思っています。

MWCの価値は、最新技術を見ることだけではありません。

世界中の挑戦者が集まり、未来を語り、次のビジネスを生み出す「場」が存在することにあります。

そして、その「場」を支えているのは、バルセロナという都市そのものです。

都市が人を呼び、人が企業を育て、企業が投資を呼び込み、投資が新たな挑戦を生み出す。

この循環があるからこそ、MWCは単なる展示会ではなく、世界中のイノベーション関係者が毎年戻ってくる「目的地」になっているのです。

スタートアップ政策を考えるとき、私たちはつい制度や予算に目を向けがちです。

しかし、本当に必要なのは、人が何度でも戻ってきたくなる「場」をつくることではないでしょうか。

バルセロナは、その答えを示しているように思います。

イベントは数日で終わります。

しかし、エコシステムは一年中動き続けています。

世界中の挑戦者が集まり続ける理由は、まさにそこにあるのです。