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つかこうへい『出発』 演出家の稽古場レポート

1ヶ月半の稽古期間はあっという間に終わりを迎えようとしています。

演劇創作は、さまざまな年齢のさまざまなバックグラウンドを持った人たちが集まり同じ言葉を長期間囲む点に魅力があります。
今回も例に漏れずそんな創作現場です。
釜山出身で演技トレーナーや演出家としても活動されているキム・セイルさん、宮城聰さんの劇団ク・ナウカとSPAC所属の布施安寿香さん、元々映画畑で活動していたけれど最近は演劇への出演が多い丸林孝太郎さん、劇団民藝所属の金井由妃さん、ダンスも踊れる長谷川光さん、早稲田小劇場出身で退団後は蜷川幸雄さんの作品にもご出演されていた高山春夫さん。
並べてみただけでも中々のバラバラ具合です。
バラバラの出自、ということはそれぞれが慣れているやり方も異なる訳です。そのそれぞれのやり方のぶつかり合いがまた創作の面白さでもありました。

稽古初日:本読み風景

私は普段、戯曲に書かれている言葉から各人物のバックグラウンドや今置かれている状況を読み解き、相手のセリフから何を受け取りどうセリフが言えるかを考え、それをもとに稽古します。
しかし、つかこうへいの作品はそれを拒んでくる、、、!
稽古前日に「これは俳優と一緒に読み解いていこう」と諦めました。

それと、常に私の演出作品では観客にその俳優の他では見られない姿を見てもらいたいと考えています。
しかし今回ははじめてご一緒する方が多く、普段どのように舞台に立っているかを存じ上げない方もいました。

そのため、今回の稽古では俳優のいつもの顔と新しい顔を発見する目的もあり、テーブル稽古に2週間ほど割きました。
テーブル稽古は、立ち稽古と比較して身体を使わない分、セリフを目で追いながら稽古できる分理性的にセリフを捉えることができます。そしてテーブルを皆で囲むことで自分が読んで考えたことも発言しやすいと考えています。
段々と普段はどのような思考でセリフを読んでいるのかが見えてきます。そして、何故そのようなセリフの読み方になったのかが見えてきます。

ひたすらテーブル稽古をし、つまりこの登場人物たちは何を言わんとしているのか、何がしたくてこのセリフが出てくるのかをアーダコーダ言いながら洗い出しました。
すると、今までなんの脈絡も無いと思っていたセリフが実はとても深い動機を持ったセリフであることが判明したりと、作品の内容理解においても学びの多い時間でした。

演出:濱吉清太朗(紙魚)

今回テーブル稽古での一番大きな収穫はそこでした。
つかこうへいは、さまざまな評論家や近くにいた人たちに「あの人は何も考えていない」と言われてきた劇作家です。
私も正直稽古開始前までは、もしかしたら本当にそうなのかもしれない...という不安を抱えていました。

それは私にとって創作ができなくなることに近いです。
何故なら私の演劇創作欲求は「なぜこの作者はこの言葉を書いてしまったか」を知りたい点にあるからです。「何も考えていなかった」が結論では元も子も無くなってしまうのです(もし本当に考えていなさそうであれば、その言葉からその作家の無意識を拾うこともできるのかもしれないけれど)。
しかしテーブル稽古を終えて、そうではないと知れてひと安心しました。そして全てが戦略的に書かれていると知ったからこその手強さも同時に立ちはだかりました。


立ち稽古に入ります。
どのセリフの何にこの人物はどう反応するのか、そしてそれが自分の次の発語とどう絡み合うのか。そんなことを地道に考えながら積み上げていきます。
身体が介入することでより見えてくる世界があります。しかしそれもテーブル稽古での蓄積があってこそです。

立ち稽古風景

今回私が稽古場でやったことは本当にそのくらいです。
でもその少ないタスクを100分の上演時間分のセリフで丁寧に俳優がこなして下さるので、毎日時間が足りないほど充実した稽古でした。

最後にその過程で見えてきた、そしてご覧になるみなさまにもぜひ共有したい発見(仮定)が2つ。

今作は『熱海殺人事件』と対となる作品なのではないか

今作は『熱海殺人事件』が発表された翌年、同作が岸田國士戯曲賞を受賞した1974年に発表されました。そして両作品とも文学座に書き下ろされた作品です。
両者とも劇中で登場人物たちがごっこ遊びをすることで、過去や現在を塗り替えようと試みます。
しかし異なるのはその結果です。『熱海』は成功し、『出発』は失敗するのです。
さまざまな方が『出発』について書いた文章を読みましたが、みなさんこの作品をうまくいかなかった作品だと言います。しかし、読み合わせを進める過程でこれは「うまくいかない」ことに作品の核があることに気付きました。

今作は『ハムレット』のオマージュなのではないか

これは劇場でご確認ください。
今更父親にノコノコ帰ってこられたって困る。
もしかしたらハムレットも3幕4場でそんなことを思っていたのかもしれない。

では、劇場でお待ちしております!

演出:濱吉清太朗(紙魚)

通し稽古風景(写真:三浦麻旅子)


公演情報 
ドナルカ・パッカーン 令和8年公演第2弾
つかこうへい「出発」

ドナルカ・パッカーン「出発」(作:つかこうへい)

作:つかこうへい
演出:濱吉清太朗(紙魚)
ドラマトゥルク:川口典成(ドナルカ・パッカーン)
中野テルプシコール

チケット予約(当日精算)

公演情報

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